訪問看護師が教える介護保険制度 ~自宅で暮らしたい方が利用できるサービス~
2000年に介護保険制度がスタートし、利用者が自ら選んで、サービスを利用できるようになりました。
私は訪問看護師をしていますが、介護保険制度を十分に理解していないがために、長い間家族だけで介護をしていた方や、独り暮らしだから施設入所を考えているという方に出会うことがあります。
介護保険制度は難しく、使いこなすのは容易ではありません。
特に、自宅で利用できるサービスは多種多様で分かりにくいです。
そこで今回は、自宅で利用できるサービスに焦点を絞ってご説明します。
介護保険制度が目指すもの
介護保険制度は、「介護が必要になった高齢者を社会全体で支えよう」という仕組みです。
厚生労働省は介護保険制度を導入することで、在宅での療養を推進し可能な限り住み慣れた地域で、必要な医療・介護サービスを受けつつ安心して、自分らしい生活を実現できる社会を目指しているのです。
「自宅で暮らす」ためにどんなサービスが受けられる?
自宅で暮らしながら利用できるサービスには、どのようなものがあるのでしょうか。
サービスについて、種類別にご紹介していきます。
○居宅介護支援
介護保険制度にまず欠かせないのが、居宅介護支援です。
居宅介護支援では、介護を必要とする方(利用者)のために、介護支援専門員(ケアマネジャー)が、介護保険サービスを受けられるようケアプランを作成し、サービス事業者との連絡・調整をします。
ケアマネジャーは、利用者さんの希望を反映させながらケアプランを作成してくれるので、具体的な希望を伝えてみてください。
○訪問介護
在宅介護の軸となるサービス、それが訪問介護です。
訪問介護のサービスは主に、
身体介護(入浴や排泄など体に触れるケア)
生活援助(買い物や調理、洗濯など日常生活のお手伝い)
通院などの移動介助(車の乗降、病院での受付けなど)
の3つです。
これらのサービスは、利用者本人に対してのみ提供する決まりになっています。
ただし、医療行為とみなされるものは、原則として依頼できません。
これまで、どこまでが医療行為になるのかの判断が難しかったのですが、2005年に厚生労働省が発表した「医師法第17条、歯科医師法第17条および保助看法第31条の解釈について」の通告により、その線引きが明確になりました。
以下が原則医療行為ではないとされた項目です。
- ●健康な爪の爪切り
- ●重度歯周病がない場合の口腔ケア
- ●ストマの装具にたまった排泄物の処理
- ●自己導尿の補助(カテーテル準備や体勢を整えることなど)
- ●耳垢の除去
- ●市販のグリセリン浣腸(挿入の長さ、容量に規定あり)
また、痰の吸引、胃ろうなどからの栄養剤の注入についても、医師の指示、看護師との連携のもと、研修を修了した場合は実施できるという制度が2012年から始まっています。
○訪問入浴
訪問入浴では、看護職員1名、介護職員2名の3名1組で、浴槽を積んだ移動入浴車で訪問し、入浴を介助します。
入浴の流れは以下のようになっています。
- 1)状態観察(看護師が体温、脈拍、血圧などをチェックし入浴ができる状態かを判断します)
- 2)浴槽の準備
- 3)入浴(発熱や血圧が高いなど、入浴が難しければ中止、または体を拭くだけの清拭に変更することもできます)
- 4)軟膏の塗布、爪切り、シーツ交換など
- 5)終了後、再度状態観察
- 6)排水し、浴槽を消毒、片付けて終了
最近では、入浴剤の選択や炭酸泉入浴など、独自のサービスを付加している事業所も多くありますので、利用時にはサービス面を重視して業者を選ぶのもよいでしょう。
○訪問看護
訪問看護は、介護を受ける方のなかでも医療依存度の高い方が利用することの多いサービスです。
このサービスは医師の「訪問看護指示書」に従って訪問し、さまざまな処置を行います。
受けられるサービスには
- ●訪問介護での対応が困難な食事、入浴、排泄の介助
- ●状態の観察
- ●床ずれの予防、処置
- ●医師の指示に基づく医療処置(点滴など)
- ●ご家族の療養相談、介護指導
などが主にあげられます。
なかには24時間365日対応している事業所もありますので、緊急時にすぐに対応してもらうことも可能です。
○訪問リハビリテーション
訪問リハビリテーションは、原則として通院の困難な方を対象とし、理学療法士、作業療法士、言語療法士が医師の指示に基づいて訪問し訓練を行います。
訪問リハビリテーションによって受けられるサービスには、
- ●機能回復訓練(嚥下訓練、言語訓練、筋力向上など)
- ●基本的動作訓練(姿勢保持、移乗動作、歩行・移動など)
- ●応用的動作訓練(一連の入浴行為など)
- ●社会的適応訓練(仕事練習など)
などがあげられます。
先ほど通院の困難な方が対象とご説明しましたが、通院先では歩行ができるのに、自宅では段差や絨毯などによってうまく歩行できないなど、通所リハビリテーションのみで不十分なときは、個々の状態に合わせた訓練を受けるために、訪問リハビリテーションを利用することができます。
○デイサービス、デイケア
デイサービスでは、日帰りで施設に通い、入浴や食事など日常生活の支援や機能訓練などのサービスを受けることができます。
医療依存度が高い利用者さんを受け入れている施設もあります。
一方デイケアは、リハビリテーションを主な目的としており、医師の指示のもと理学療法士などの専門家から、リハビリテーションを受けることができます。
○ショートステイ
ショートステイは施設に宿泊できるサービスです。
1泊から利用できますが、連続して30日以上利用することはできません。
厚生労働省によると、ショートステイの利用目的として最も多いのは、レスパイトケアとなっています。
レスパイトケアとは「休息」「小休止」などを意味し、ご家族が一時的に介護から離れてリフレッシュするための支援のことをいいます。
また、緊急で利用したい方も多いのですが、入所契約を締結してからの利用開始になりますので、申込み当日の利用は困難です。
緊急時に慌てないように、そして利用者さんやご家族が、いざというときにも安心して過ごせるように、事前に契約を結び、何度か利用しておくことをお勧めします。
地域密着型サービス
地域密着型サービスは、2005年の介護保険法改正により創設されました。
前項でご説明した「サービスの管轄」が都道府県であるのに対し、地域密着型サービスは市町村が管轄しており、より地域に根ざしたサービス提供を目的としています。
種類は断続的に増えており、2018年時点で9種類のサービスが整備されています。
まとめ
内閣府が発表した2017年高齢者白書によると、どこで介護を受けたいか、どこで最期を迎えたいかの問いに、半数以上の人が「自宅」と答えています。
それをかなえられない理由として、家族の負担と急変時の不安が突出して多くなっています。
しかし今回ご説明したとおり、介護保険制度で受けられるサービスは数多くあり、家族の負担を軽減するためのサービスや、不安を解消するためのシステムも整備されつつあります。
少しでも多くの方が、希望どおりに自宅で過ごせるように、まずは介護保険制度について知ることが大切ではないでしょうか。
参照・参考:
厚生労働省 介護保険の概要2018年1月13日参照)
厚生労働省 在宅医療・介護の推進について (2018年1月13日参照)
厚生労働省 医師法第17条、歯科医師法第17条および保助看法第31条の解釈について 2005年(2018年1月13日参照)
厚生労働省 訪問リハビリテーション (2018年1月13日参照)
内閣府 平成29年版高齢者白書(2018年1月13日参照)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社:通所介護のあり方に関する調査研究事業 三菱UFJリサーチ&コンサルティング, 東京, 2011