歩行器それとも杖?理学療法士が解説する適切な歩行補助具の選定ポイント
「歩く」ことは私たちにとって重要な移動手段です。
しかしケガや入院、加齢などの影響で体力が低下すると、ふらついたりつまずきやすくなり、思わぬ事故にもつながりかねません。
それらを防止するために使用されるのが「歩行補助具」ですが、正しい使い方や選び方を知らない方も多いです。
そこで今回は、歩行補助具の種類と選び方について解説していきます。
適切な歩行補助具を使用するメリット
まずは歩行補助具を使用するメリットと不適切な歩行補助具を使用した際のデメリットを挙げていきます。
●歩行補助具を使用するメリット
- 1.歩行が不安定な方が、安定して歩くことができる。
- 2.歩行距離が延びる。
- 3.一人でトイレに行けるなど、日常生活での行動範囲が広がる。
- 4.本人の歩きたいという願望をかなえてあげることができる。
また利用者の活動量が増えるため、介護をする方の負担軽減や認知症予防にも効果的です。
●不適切な歩行補助具使用によるデメリット
- 1.歩行補助具を使用しても、歩行能力が変わらない。
- 2.逆に転倒のリスクが高くなってしまう。
たとえば腰部脊柱管狭さく症によって、間欠性跛行(かんけつせいはこう)という症状が見られる方がいます。
間欠性跛行とは歩くにつれて痛みが出現し、休憩するとまた歩行可能になるという状態を繰り返すことをいいます。
短い距離なら大丈夫でも長い距離を歩くにはかなりの労力を要しますが、買い物カートを押すといった前かがみの体勢になると、症状が軽快するという特徴があります。
このような症状のある方がT字杖を使用しても、歩行距離は伸びません。
シルバーカーを使用して体を前かがみにしたほうが、休憩をせずに長く歩くことが可能になります。
歩行補助具の種類と特徴
歩行補助具には主に「杖」「歩行器」「歩行車」があります。
それぞれの特徴を紹介していきましょう。
●杖
1)T字杖
一般的に「杖」と呼ばれているものがこのT字杖になります。
持ち手がT字型になっていることが名前の由来です。
脳卒中などで片麻痺がある方、骨折をした方はもちろん、最近歩くことに不安があるという方にも使用されています。
デザインも去ることながら、コンパクトに折りたためたり、長さを調整できるタイプのものなど機能的にもさまざまな種類が販売されています。
2)4点杖(多点杖)
4点杖とは杖の先が4つに分かれている杖のことです。
4点(多点)で地面を支えるためT字杖よりも支持面が広く安定しています。
T字杖では心もとない、という方には4点杖が選ばれています。
欠点としては杖が重たいこと、砂利が敷かれた玄関前などフラットではない場所では、不安定になりやすいことが挙げられます。
3)ロフストランド杖
ロフストランド杖は、杖の先端部分にある丸い部分に腕を通して、腕と手の二カ所で支える杖です。
しっかり固定されるので、杖を握れない方や手首に障害がある方、上肢の筋力低下がある方でも利用できます。
●歩行器・歩行車
両腕で体重を支えることができるため歩行距離の延長、足にかかる負担や痛みの軽減が期待できます。
足の筋力が低下している方や、杖では不安定だという方に使用します。
支持面が広くなるため転倒しにくいのも特徴です。
1)ピックアップ式歩行器
持ち上げながら歩いていく歩行器です。
4つの脚があるので最も安定性に優れています。
ただし両手で歩行器を持ち上げて前に進んでいくため、上半身の力が必要となります。
移動速度は遅くなりやすく、屋外での使用は向いていません。
2)前輪歩行器
ピックアップ式歩行器の前輪2つに、キャスターがついているタイプの歩行器です。
うしろを持ち上げ、前のキャスターを転がしながら進みます。
3)4輪歩行器
歩行器の前輪、後輪の4つすべてにキャスターがついている歩行器です。
腕の力がなく、歩行器を持ち上げることが困難な方に向いています。
4)歩行車
歩行器に車輪がついたもので、押しながら歩くことが可能です。
両手で支えながら歩くタイプと、肘などで体重を支えながら歩くタイプの2種類があります。
シルバーカーと似ていますが、歩行車は自立歩行が難しい方が使用するものになります。
5)シルバーカー
歩行には問題なくても、徐々に疲れや痛みがでやすい方に向いています。
屋外で使用されることが多く、疲れたときには椅子にもなり休憩ができるようになっています。
荷物を入れることもできるので買い物にも便利です。
歩行補助具を選定するポイント
歩行補助具を選ぶときは、利用者の生活環境や、どのような機能が必要かを把握してから選定しましょう。
●利用者の運動能力を把握しよう
歩行補助具を使用する目的は、歩行による転倒を予防し、日常生活の向上を図ることです。
そのため、まずはどの程度の運動能力があるのかを把握しておくことが重要になります。
そこで、誰でも簡単に転倒リスクが図れる方法を2つご紹介します。
1)TUG(Timed up and go)テスト
これは歩行能力やバランスなどを評価できるテストです。
椅子に深く座り背筋を伸ばした状態からスタートし、3m先の目印で折り返し椅子に座るまでの時間を図ります。
カットオフ値(基準範囲)は13.5秒で、それを上回ると転倒リスクが高くなります。
2)片脚立位時間
目を開けたまま片足で立つテストです。
カットオフ値は5秒に設定されており、それを下回ると転倒リスクが高くなります。
●いつどこで使うのか
屋内か屋外かによって使いやすい補助具が変わってきます。
屋内であればピックアップ歩行器でも使えますが、屋外では歩行速度が遅くなってしまい実用的ではありません。
外出するときに使用したい場合は、杖かシルバーカーもしくは歩行車がおすすめです。
●痛みがあるか、あるならどこにあるか
手首に痛みがある場合、T字杖や4点杖、歩行器は痛みを増強する可能性があります。
この場合は手首以外で体重を支えることができるロフストランド杖や、負担のかかりにくい歩行車を使用することで、歩行が安定しやすくなります。
足に痛みがあり思うように体重がかけられない場合は、ピックアップ式の歩行器を使用すると、足にかかる負担を軽減することができます。
●歩行器を持ち上げる力があるか
歩行器を使用する場合、持ち上げながら歩行するため腕の力が必要になります。
力がない場合は持ち上げなくても良いタイプ(杖・4輪歩行器・歩行車)が好ましいです。
●移動距離
買い物などに行き、移動距離が長くなる場合は杖やシルバーカーをお勧めします。
シルバーカーは椅子にもなり休憩しながら歩くことが可能で、買ってきた物を収納することもできます。
●道路状況(段差、平坦)
歩行器を使用する場合は、なるべく段差のある場所は避ける必要があります。
不安定になったり、歩行器が段差に引っかかってしまう可能性があるからです。
また、平坦ではない場所では、4点杖は不安定になりやすいです。
T字杖で難しい場合は、ロフストランド杖や歩行器を使用しましょう。
まとめ
今回は歩行補助具の種類や特徴、選ぶポイントについて解説しました。
歩行補助具の特徴を理解しておけば、利用者に合った歩行補助具を選ぶことができます。適切な歩行補助具を使用することで、今まであきらめていた買い物や旅行などができるようになり、利用者のストレス軽減にもつながっていきます。
自力で歩けるということは、QOL(生活の質)を向上させることにもなります。
人は何歳になってもできるだけ一人で歩きたいと思うものです。
利用者の疾患や身体機能、生活環境を考えたうえでその方に適した歩行補助具を選定しましょう。
参照:
日本整形外科学会 (監修)他:義肢装具学のチェックポイント第七版
医学書院, 2007
山下進,田中 繁:シルバーカーと歩行車の歩行支援機能と安全性 バイオメカニズム学会誌Vol39, No.3, 2015
身体虚弱(高齢者)理学療法診療ガイドライン(2018年1月13日引用)
前田りか さん
2018年3月21日 10:15 AM
2月14日に左手首骨折。ギプス固定をしておりましたが、下肢筋力の低下・重心バランスをとれなくなり、転倒。
順調に繋がりかけていた所が3週間後の経過は、隙間が広がっているとのこと。ギプス固定の延長となりました。
昨日3月20日にレントゲンを撮りましたら、繋がらずヒビも多く入っていると言われました。このままギプス固定を続けると動かなくなるので、今週の金曜日23日に装具へ変えるとのことでした。認知症はあります。
受傷後、歩行も立ち座りも困難になり、デイサービスの理学療法士さんと相談しながら、機能回復訓練を受けて何とか介助のもと歩いております。その際、歩行器も併用してトイレの移動等、短い距離を使っておりましたが、ヒビが増えた原因になったのでは…と私が気にしております。提案したのが私だったので…。同居はしておりますが、部屋は別。仕事が在りますので、在宅中、ずっと見ているわけにもいきません。トイレの時、どんなにギプスをはめていても、両手を使わなければ、パンツ類はあげられず、両手をつかっていました。これから先、どうしていったらよいか、わかりません。助けて下さい。