高齢者のドライスキンケア。かゆみで入浴を我慢するまえに 行うべき6つの改善習慣
お風呂のあとに起こる体のかゆみは、ご高齢の方にも多い症状です。
今回は、訪問看護師である筆者が、入浴で体がかゆくなる仕組みと入浴前後に実践したい習慣6つを、ご紹介します。
ドライスキンのケア 習慣にすべき6つの対策
健やかな状態の皮膚は、きめが整って潤い、外からの刺激を跳ね返す力があります。
これを「皮膚のバリア機能」といいます。
これに対して、乾燥してカサカサした皮膚はドライスキンと呼ばれ、バリア機能が低下しアレルゲンや細菌などが入り込みやすくなります。
そしてバリア機能が低下すると、普段は皮膚の奥にあるかゆみセンサーが皮膚の表面まで伸びて敏感になり、わずかな刺激でもかゆみを感じるようになってしまうのです。
では、どのようなときにドライスキンが起こるのでしょうか。
●皮膚の角質(バリア機能)はわずか0.02mm!
皮膚は、目でみている側から「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層構造になっています。
バリア機能を主に担当しているのは、表皮の一番外側にある「角層」という部分です。
角層の厚みはわずか0.02mmしかなく、簡単に壊れてしまいます。
先ほどドライスキンではバリア機能が低下すると説明しましたが、言い換えればバリア機能が低下することでドライスキンが起こるともいえるのです。
ドライスキンのケアにおいて、一番注意しなければならないのが入浴です。
入浴時のなにげない習慣が、ドライスキンを悪化させかゆみを誘発してしまうのです。
特にご高齢の方は、加齢による変化からもともとドライスキンの傾向にあるので、より気をつけなければなりません。
事実、筆者が訪問看護師として接するなかで、入浴後のかゆみに悩んでいるご高齢の利用者さんは多くいらっしゃいました。
そこで筆者が、ドライスキンの利用者さんにおすすめしている対策をご紹介します。
(本記事ではドライスキンに伴うかゆみを対象にしており、さまざまな疾患に合併して発症するかゆみについて述べているものではないことをあらかじめご了承ください。)
●ドライスキンのケアに有効な6つの習慣
筆者が訪問看護師としてお勧めしている対策は、以下の6つです。
- 1)入浴前後にコップ1杯の水分補給
- 2)湯の温度40℃、入浴時間10分以下
- 3)洗いすぎない・こすりすぎない
- 4)入浴後10分がスキンケアのタイムリミット
- 5)保湿剤の量は両手で0.5gが基準
- 6)暖房を使うなら、加湿器もセットで使おう
それでは一つずつ詳しく解説していきましょう。
1)入浴前後にコップ1杯の水分補給
NHK「Rの法則」(2017年9月7日放送)でも紹介されましたが、41℃のお湯で15分入浴すると、平均800mlもの水分が失われるといわれています。
つまり40℃程度で10分ほどの入浴ならば、500ml前後の水分が失われていることになりますので、入浴前後の水分補給は500mlを目標にすると良いでしょう。
汗にはミネラル分も含まれますから、入浴時間が長い場合は、水分とともにミネラルも一緒に補給するよう心がけましょう。
2)湯の温度40℃、入浴時間10分以下
2014年に報告された石澤の研究では、高温で長時間入浴するほどバリア機能が低下することが報告されています。
42℃のお湯では興奮を促す神経が刺激されて血圧が上昇しますが、40℃ではリラックスを促す神経が刺激されて血圧が下がるため、入浴そのものによるリラックス効果が期待できます。
一方、40℃のお湯であっても、10分以上の入浴は体温が上がりすぎ、熱中症の危険が高まってしまいます。
設定温度40℃で10分以内の入浴はバリア機能の保護だけでなく、ヒートショック(入浴時の急激な血圧変化)予防にも効果的であり、おススメです。
3)洗いすぎない・こすりすぎない
前項でも触れたように、皮膚のバリアはわずか0.02mmであり、こすりすぎはバリア機能の低下を招きます。
また、ボディソープなどで洗いすぎると肌を守る常在菌や必要な油分まで洗い流されてしまいます。
皮膚には新陳代謝がありますから、「不要な汚れ」はお湯だけで十分落とせるため、ボディソープなどの石鹸を使う際は、洗いすぎず、またこすりすぎないのがおススメです。
4)入浴後10分がスキンケアのタイムリミット
入浴中は角層が水分を含んで膨らみ、しっとりしているように見えます。
しかし同時に角層細胞には隙間ができてしまい、皮膚がもともと持っていた天然の保湿成分(セラミドなど)が流れ出てしまうため、注意が必要です。
前述した石澤の研究では、皮膚の水分量は出浴後10分で入浴前と同等まで低下すると報告されています。
お湯を出てから5分間は特に高い水分量を保っているので、遅くともお湯から出て10分以内にスキンケアを行うことをお勧めします。
また、お湯につかっている間は、角層が水分を含むことができる時間でもありますから、角質により水分を含む効果がある、セラミド入りの入浴剤などを使うと効果があります。
5)保湿剤の量は両手で0.5gが基準
両手で0.5gという数値は、1FTU(フィンガー・ティップ・ユニット)という、クリームを人差し指の先端から第一関節まで絞り出だした量が、両手のてのひらに塗る量、という考え方に由来しています。
実際に手に取ってみると、塗るべき保湿剤の量は、普段塗っている量よりも多いと感じるくらいであることがわかると思います。
6)暖房を使うなら、加湿器もセットで使おう
夏と冬とをくらべると、同じ湿度でも冬は空気中に存在する水分量が少なくなります。
これが、ドライスキンが冬に悪化する原因です。
暖房を使用するときは、乾燥対策として加湿器を併用されることをお勧めします。
もしくは、濡れたタオルを干しておくだけでも一定の効果があります。
お風呂の前後に6つの対策を習慣化 かゆみが改善した一郎さんのケース
ではここで、入浴前後の6つの対策を習慣化することで、入浴後のかゆみが改善したケースをご紹介します。
●一郎さん(仮名)90代
一郎さんは重度のドライスキンで、かゆみに悩まされていました。
入浴後はかゆみが強くなり、夜も眠れないほどです。
温泉巡りが趣味でお風呂も大好きなのですが、入浴を拒否することが多くなってしまいました。
以前のようにリラックスして入浴できることを目標に、上述した6つの対策を実践しました。
ドライスキンが重度であったため、石鹸は汚れがひどいところにのみ使用し、保湿剤を浴室に持ち込んで、お湯から上がったらすぐに塗り込みました。
入浴時間は3分から始め、皮膚の状態や気候に合わせて調整しました。
数回の実施で効果が現れ始め、徐々に就寝後まで持続するようなかゆみはなくなり、皮膚の状態も改善していきました。
もちろんご高齢ですので、ドライスキンを100%予防することはできませんし、かゆみをゼロにすることもできません。
しかし、一郎さんは6つの対策を習慣化することで、また気持ちよく入浴できるようになったことから、ドライスキンのケアに一定の効果があったと評価して良いのではないでしょうか。
熱いお風呂は要注意!ドライスキンが悪化した節子さんのケース
こちらがいくら改善方法を提示しても、なかには自己流の入浴法を変えられないという方もいます。
次にご紹介するのは、まさにその「自己流」を貫いてしまったがために症状が悪化してしまったケースです。
●節子さん(仮名)70代
ご家族から、入浴後に体をかいているのが気になるとの相談がありました。
節子さんの皮膚は乾燥して白く粉をふき、かき傷もみられます。
6つの対策を提案しましたが「熱いお湯でないとお風呂に入った気がしない」との理由から拒否されてしまいました。
せめて水分補給と保湿剤をとお話ししましたが、習慣化はされませんでした。
ほどなくかき壊した傷が炎症を起こし、皮膚科受診を余儀なくされました。
節子さんの例をみると、熱いお風呂がドライスキンを悪化させることは明らかであり、6つの習慣を守ることがかゆみを抑えるうえでいかに大切か、おわかりいただけるかと思います。
まとめ
2016年の1月に消費者庁が行った入浴に関する調査では、浴槽に入る際「熱いお湯にはつからない」と回答した方のうち、約7割以上の方が42 度以下のお湯につかっていると答えましたが、消費者庁でも「 41 度以下」が推奨されています。
今回ご紹介した対策は、入浴前後の習慣を見直すだけの簡単なものですが、バリア機能の保護には最適な、体に優しい入浴法です。
今回の記事が、入浴後のかゆみを理由に入浴を躊躇されている方の参考になれば、幸いです。
参考:
1)NHK「Rの法則」(2017年9月7日放送)(2018年1月26日引用)
2)石澤太市 入浴法および入浴習慣が心身に及ぼす影響に関する研究(2018年1月19日引用)
3)消費者庁 冬場に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!2016年度版(2018年1月26日引用)
4)日本皮膚科学会 皮膚科領域の薬の使い方(2018年1月19日引用)