作業療法士が教える、高齢者が立ち上がれない原因・介助法
加齢により椅子から立ち上がりづらくなったと感じたり、立ち上がりの介助負担が増えてきたと感じることはありませんか。
立ち上がれない原因や介助のポイントを知り、介助をする方(介護者)にも、介助をされる方(要介護者)にも負担の少ない介助方法を取り入れましょう。
人は立ち上がるためにどんな動きをする?
人は立ち上がるときに、無意識に下記の運動を行って立ち上がっているのです。
- 1)両足を肩幅くらいに開き、膝より後ろに引く
- 2)体を前かがみにして、体の重心をお尻から両足へ移す
- 3)お尻が浮いたら、体を前に持って行きながら、徐々に膝を伸ばす
- 4)膝を伸ばしながら体を上方に起こし、立ち上がる。
1~4の動きのどこか1つでも行えなくなったとき、立ち上がれない、立ち上がりづらいといったことが起こるのです。
立ち上がりの動作を理解し、要介護者は何が難しいのかを知ると、介助はより行いやすくなります。
高齢者が立ち上がれない原因
立ち上がれない原因は、体と環境の問題の大きく2つに分けられます。
●体からくる問題点
1)両足(もしくは片足)の筋力が低下している
高齢者は加齢に伴い、足腰の筋力が弱くなりがちです。
それにより、自分の体を支えづらくなるのです。
また、脳卒中の後遺症などにより、体の片側だけうまく動かない、筋力が低下している場合もあります。
その場合はまひのある側へ転倒する可能性を考えて介助をすることが大切です。
2)足首などの体の関節が硬くなる
加齢や運動機会の減少などにより、体の関節は硬くなりがちです。
特に足首の関節が硬くなると、足を後ろに引いたときに足裏がしっかり床につかないなどの問題が起こります。
足裏全体が床につかないと、動作が不安定になりバランスを崩しやすくなります。
そんなときはかかとの部分が少し高くなっている靴や中敷きなどを使ってみるといいでしょう。
3)バランス能力が低下している
筋力や関節の問題に加え、脳卒中やパーキンソン病などの既往疾患があると、さらにバランス能力は低下しがちです。
バランス能力が低下すると、立ち上がるときに体を前かがみにしづらい、立って体を起こそうとすると後ろにふらつくなどの動作の行いづらさが出てきます。
●環境からくる問題点
1)椅子は立ち上がりやすいものか
椅子は座面が柔らかすぎず、脚は4脚のもので下の空間が空いており両足が後ろに引けるものだと良いです。
2)椅子が高すぎたり低すぎたりしないか
椅子は高すぎると足が床につきづらくなり、低すぎると立ち上がるときに足の力がより必要になります。
椅子の高さは、膝下の長さより少し高いと良いです。
3)前かがみになれる空間があるか
立ち上がるには前方に前かがみになれる空間が必要です。
空間が狭いと前方への重心移動が十分に行えず、より足の力を使って立ち上がらないといけません。
高齢者が立ち上がりやすくなる介助方法
●介助する上で大切なこと
立ち上がりで一番大切なことは、介護者は要介護者の立ち上がる動きに合わせて介助することです。
介護者が「私が立たせてあげないと!」と思ってしまうと、要介護者の手を引っ張り上げてしまいがちです。
すると、要介護者のできる力を存分に引き出せず、余計に介護者の力が必要になってしまいます。
●立ち上がるときの手順、声のかけ方、介助のポイント
1)立ち上がりやすくするための準備をします。
声かけ:「今から立ち上がりますよ。椅子に浅く座ってくださいね。両足は開いて、少し後ろに引きましょう」
ポイント:椅子に深く座り込んでいると立ち上がりづらいです。
要介護者はお尻をいざり、椅子の前のほうに座ります。
2)要介護者に介護者の前腕を持ってもらうか、両手を握ってもらいましょう。
声かけ:「私の腕を上から持ってくださいね」
ポイント:介護者は手のひらを上にして、要介護者の手から肘にかけてを、下から軽く持って支えます。
介護者の前腕(もしくは手)を下に、要介護者の手を上にすることで、要介護者が下方に体重をかけやすくなります。
立ち上がりに不安がある方は、手を握るよりも前腕を持つほうが動作が安定し、要介護者の安心にもつながります。
3)介護者は要介護者が前かがみになりやすいよう、手を斜め下に引きます。
そうすると、自然と要介護者のお尻は椅子から浮き、足に重心が移ります。
声かけ:「今から立ち上がりますよ。1、2の、3」
ポイント:立ち上がるタイミングを声に出すと、お互いが動作のタイミングを合わせやすくなります。
また、認知機能の低下がある方には、「今からお辞儀をしながら立ち上がりますよ」などわかりやすい言葉を使うと良いでしょう。
4)立ち上がる動きに合わせて、前方かつやや上方へ誘導します。
声かけ:「ゆっくり体を起こしてくださいね」
ポイント:要介護者のお尻が椅子から離れ、要介護者の重心が前方に移動できたら、上半身を起こすように促します。
このとき介護者はやや上方に動きを誘導します。
重心の前方移動が不十分な状態で、急いで体を起こそうとすると、後ろにバランスを崩しやすくなります。
動きの方向を声に出すことで、要介護者が次にどう動けばいいのかがわかりやすくなり、安心感にもつながります。
注意が必要なのが、決して上に引っ張り上げないようにしてください。
引っ張ってしまうと、要介護者は自分のペースで立ち上がりづらくなり、介護者の負担も増えてしまいます。
5)立ち姿勢が安定してから手を離しましょう。
声かけ:「しっかり立てましたか?立てたらゆっくりと手を離してくださいね」
ポイント:要介護者が立ち上がっても、介護者はすぐに手を離さないようにしましょう。ふらつきはないか確認し、立っている姿勢が安定してから手を離すようにします。
介護者から手を離すのではなく、要介護者が手を離してから、徐々に手を離すようにしましょう。
立ち上がりをスムーズに介助するために
立ち上がりの介助を行うときには、事前に立ち上がりやすい環境か、要介護者が行いづらい動きは何かを理解しておきましょう。
そして、介護者は要介護者のペースに合わせて立ち上がる動きを誘導することが大切です。
それが、結果的に介護者にも要介護者にも楽な介助につながるのです。
参考:大田仁史, 三好春樹: 完全図解 新しい介護. 講談社, 東京, 2014.
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執筆者
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作業療法士資格取得後、回復期病院や療養病院に勤務しました。結婚・出産を機に福祉の視点も学びたいと思い、社会福祉士資格を取得しました。
作業療法士としての知識が、在宅で介護をされる方や福祉施設等で働く方、健康に関心がある方のお役に立てればと思い、ライターを始めました。
現在は作業療法士として小児分野の施設で働きつつ、在宅でのライティングを行っています。医療・福祉の視点や知識を活かし、わかりやすく、かつ生活に役立つ記事を作成できるよう、心掛けております。
保有資格:作業療法士、社会福祉士