高齢者におすすめの室内履きとは?素材・デザインを選んで自宅とデイで使い分けよう
高齢の家族のための室内履き選びは、素材・デザインなどを考慮して選ぶ必要があります。
選び方次第で、転倒の原因になり、行動範囲を狭める場合があるからです。
では、どのような室内履きが高齢者にとって安全で、心地よいのか。
室内履き選びのポイントをお伝えします。
高齢者の室内履き選びが重要な理由
外来診察についていると、高齢者のけがのほとんどは自宅で起こると感じます。
実際に内閣府の調査によると、高齢者の転倒場所の1位は自宅であり、その割合は48%を占めています。
高齢になると、立ち上がったり歩いたりするときに必要な下肢の筋力が低下する方が多く、日常生活を営む場で転倒するリスクが高まります。
下肢の筋肉、大腿四頭筋は座った状態から立つときに、腸腰筋は歩行時に足を上げるときに必要です。
これらの筋肉が連動して歩行ができるのですが、筋力が低下すると足を上げようとしてもなかなか上がらないのです。
もともとの筋力が弱い高齢者は、畳のへり・フローリングから和室への段差など数ミリの段差で転倒し、大腿骨頸部骨折などの大きなけがを受傷してしまう場合があります。
転倒・骨折は要介護状態の原因の一つ。
筋力が低下しないのが一番です。
しかし、ADL(日常生活動作)のレベルを下げないために、高齢者に合った室内履きを選ぶことも事故防止の対策の一つになるのです。
高齢者におすすめ、室内履きの素材・デザイン
●デザイン
1. 足の甲を覆い、踵をしっかりと支えてくれるもの
歩くときに靴の中で足が動くのは歩行時の安定性を失う理由にもなり、転倒のリスクを上げてしまいます。
足の甲と踵がしっかり支えられるデザインは足が中で動くのを予防できます。
2. 靴底は広めのもので、つま先がとがっていないもの
日本人の足は幅広のタイプが多く、特につま先に向かって広がるタイプが一番多いのです。
若い人向けのデザインではつま先がとがったものが多いのですが、高齢者には、もともとの足の形にそった、幅広の靴底のタイプがお勧めです。
人が両足で立ったときの底の面積を基底面積といいます。
この面積が広いほうが立ったときの安定感が増すのです。
電車などで立っているとき、歩幅を広げ、基底面積を広げると揺れても転倒しにくくなります。
高齢者は歩幅が狭い方が多いので、広めの靴底で、より基底面積を広く維持しやすくして体を支える必要があります。
また、つま先が狭くなっていると立ったときに足の指先に力が入りにくくなり、立位が不安定になります。
足裏の親指の付け根までしっかりつけることで体を支える足底部の安定性が増すのです。
また、つま先を締め付けるデザインはタコや魚の目の原因にもなるので、避けたほうがよいでしょう。
3. 足の甲がマジックテープで固定できるもの
高齢になると握力が低下し、細かい作業が難しくなることが多いです。
細いひもを固く結ぶ作業などは苦労するでしょう。
靴を履くとき、固定が靴ひもではなくマジックテープですと、高齢者本人も着脱がしやすいでしょう。
万が一ずれてしまったときも直しやすいのです。
靴の着脱が困難なために、デイサービスなどへ向かうのがおっくうになる高齢者もいます。高齢者の外出の機会を失わないためにも、「靴を履く」という日常的な動作が、ストレスとならないような配慮が必要です。
●素材
靴底は滑りにくいほうが転倒予防になります。
しかし、ゴム素材が厚く、滑り止め作用が強いゴム製のサンダルは避けたほうがよいでしょう。
ゴムの部分がフローリングなどの床に引っ掛かり、転倒の原因となります。
自宅用・デイ用でなにが違うのか
自宅用の室内履きは、運動をするわけではないので、リラックスできる柔らかい布素材がお勧めです。
現在の生活様式では、洋間で椅子やソファに座って過ごす方が多いので、締め付ける素材はむくみの原因にもなります。
血流を妨げないソフトな布素材で足全体をやさしく包むものがよいでしょう。
和室から洋室への移動があり、着脱の機会が多い場合は、踵はすべてを覆っていなくてもよいでしょう。
簡単に脱げなければ大丈夫です。
一方、デイサービスなど介護施設で過ごす場合は、歩行訓練やレクリエーションなど、体を動かす機会が増えることが多いです。
活動的な場面で、思いがけず靴が脱げてしまうことのないよう、つま先から踵までの足全体をしっかり覆う靴がお勧めです。
素材は厚手の布製でよいでしょう。
ぬれることはほとんどないので、合皮やナイロンである必要はありません。
室内履き選びを転倒予防の一助に
転倒予防にはまずは筋力維持が必要です。
さらに高齢者には室内履きで転倒のリスクを少しでも減らす必要があります。
動きやすく、脱げにくく、つまずきにくいことが必須なのです。
さらに、着脱がしやすいと高齢者自身も外出がおっくうになることが減るでしょう。
できれば実店舗で試着してみて、本人が着脱を確認できるとよいですね。
参考:
谷埜予士次: 力学的見地からみたバランス. 関西理学療法3巻: 59-62, 2003.(2021年6月14日引用)
消費者庁 10(てん)月10(とう)日は「転倒予防の日」、高齢者の転倒事故に注意しましょう! -転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生しています-(2021年6月14日引用)
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執筆者
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小児外科・整形外科病棟・総合病院の外来などを経て2015年より医療・看護ライターに。並行して派遣看護師としてデイサービス・整形クリニック・健診機関などで勤務しています。看護師歴は20年以上。看護の知識と実践で得たことを糧に、読者様にわかりやすい記事を届けます。
保有資格:看護師・介護支援専門員