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民生委員って何をする人?地域の高齢者サポートに不可欠な職務だが後継者不足も

「民生委員」は、超高齢社会にむけ病院や福祉スタッフも頼りにするなど、なくてはならない存在ですが、「なり手不足」が進み自治体も後継者探しに苦労しています。
今回は、一般にあまり知られていない「民生委員」の職務について、ひもといていきます。

ニュースで聞くことはあるけれど 民生委員について知っていますか?

民生委員とは?

民生委員とは厚生労働大臣から委嘱され、地域住民の相談援助や行政の福祉業務への協力などを行う人々を指します。
もともと大正時代の「生活困窮者支援活動」から始まって全国に広まり、戦後は生活困窮者に限らず地域のさまざまな課題に対応し、100年以上地域の「見守り役」を担っています。
現行の「民生委員法」(1948年=昭和23年制定)では、以下のように定められています。

地域住民のさまざまな課題に対応する見守り役 民生委員

●任期

民生委員の任期は3年。
3年に一度全国で一斉に改選され、再任も可能です。
市町村の推薦会で「社会福祉に対する理解と熱意があり、地域の実情に精通した者」が推薦され、都道府県知事の推薦により厚生労働大臣が委嘱します。
(※民生委員は地域の児童や乳幼児・妊産婦の相談援助を行う「児童委員」も兼務。)

●報酬

民生委員は給与・報酬を支給されない「無報酬」です。
活動上必要な実費のみ、「活動費」(交通費や通信費など)の毎月数千円が委員個人に支給されます。(※地方交付税措置で活動費を支給、自治体が独自に上乗せするケースも。)

 例:東村山市の民生委員活動費=月額8,800円(2020年3月3日時点)

●立場

民生委員は、都道府県知事(指定都市長・中核市長)の指揮監督、市町村長の指導をうける無報酬の「特別職の地方公務員(非常勤公務員)」という立場です。

●定数

民生委員は市町村や特別区ごとに配置されますが、定数は都道府県知事が市町村長の意見をきいて決定します。
令和元年12月の一斉改選の定数は全国で23万9,682人、実際の委嘱数は22万8,206人、充足率は95.2% ※厚生労働省発表

●一人当たりの担当世帯数

民生委員はそれぞれ担当地域をもち、町村部では一人当たり約70~200世帯、政令市では約220~440世帯を担当します。
(東京都など大都市部では人材不足から一人で数千世帯を担当している場合もあります。)

民生委員の役割は何?

民生委員は子どもから高齢者、障がいのある方まで地域の幅広い支援を行いますが、具体的には以下のような職務で活動をしています。

●民生委員(兼 児童委員)の職務

  • ○住民や児童・妊産婦の生活状況と取り巻く環境を必要に応じ適切に把握する
  • ○生活に関する相談に応じ、助言その他の援助を行う
  • ○福祉サービスを適切に利用するために必要な情報の提供、その他の援助を行う
  • ○社会福祉事業者(または児童育成の活動を行う者)と密接に連携し、その事業又は活動を支援する
  • ○福祉事務所(または児童福祉司)その他の関係行政機関の業務に協力する
  • ○その他、住民の福祉の増進を図るための活動を行う

(以上、民生委員法第14条および児童福祉法第17条を要約)

住民と行政や支援機関とのパイプ役をする

●民生委員(児童委員)の具体的な活動例

1)住民の相談にのる
○自宅介護を受ける高齢者宅を訪問し、家族の介護疲れについて丁寧に話を聞く
○子育て中の不安がある母子家庭を訪問し相談にのる、児童虐待の相談対応

2)住民に必要な情報を提供する
○介護をしている家族の希望にそって、介護保険で使えるヘルパーやショートステイの情報を紹介する
○困りごとのある妊産婦や母子家庭が地域で利用できるサービスを紹介する

3)住民と行政や支援機関とのパイプ役(連絡通報)をする
○支援の必要な本人や家族の希望で、代わりに市町村の窓口へ連絡をし対応を依頼する

4)住民に必要な具体的な生活支援を行う
○家族の希望で、見守りが必要な高齢者を近所やボランティアと協力して見守る
○家族だけでは対応困難なケースの解決策を協力機関と考える
○地域のパトロールや子どもの登下校見守り活動を行う(民生委員児童委員協議会にて)
(※民生委員は専門職ではなく地域ボランティアなので、金銭を伴う支援などを行う立場ではなく地域住民の一員として支援する)

5)住民の困りごとを解決する手段を調整する
○通院が一人では難しい高齢者に対し、介護保険にはない「通院時の送迎」サービスが利用できないか、社会福祉協議会やボランティアのサービス利用を調整する

6)社会調査(地域住民のニーズの把握)
○配食サービス利用時に声かけ、安否確認活動を行い、住民の要望や状況把握をする

7)意見具申(行政等に住民ニーズを伝える)
○訪問活動で得た住民のニーズや地域の課題をとりまとめ、住民に必要なプログラムを行政や社会福祉協議会などに提起する

(参照:厚生労働省「民生委員・児童委員に関するQ&A」
住民のニーズや地域の課題をとりまとめて行政に提起
このように民生委員は、担当地域の住民で困りごとがあったり見守りが必要な人の相談役・状況把握をして、必要があれば支援機関につなげる役目があります。

民生委員は実際に私が病院でソーシャルワーカーをしていたときも、身寄りのない高齢者に認知症の症状が出て病院に一緒に相談に来てくれたり、退院するときも力になってくれるなど、とても貴重な存在でした。

公的なサービスの手が届かない「制度と制度のスキマ」にいる住民を見つけて、支援先にバトンをつなげてくれる、そんな大切な存在が民生委員といえます。

民生委員の「なり手」が足りない!?

定数に達していない市区町村が半数を超え、後継者が見つからないことも

そんな民生委員は地域福祉(特に高齢者福祉)の支援者として非常に重要な職務ですが、近年多くの自治体で「なり手不足」に陥っています。

日本経済新聞の調査によると、2019年12月時点で全国の市区町村の約54%で民生委員が定数に達しておらず、一部では3割以上の欠員率のところもありました。
(東京都や大阪府など世帯数が多い大都市圏で欠員率が高い
また令和元年12月の一斉改選では、再任者が約68%にのぼっており、後継者が見つからなかったケースも相当あったと考えられます。

「なり手」不足の理由として、

  • ○地域住民のプライベートな問題に介入するなど責任の重さや業務量の多さ
  • ○働いている世代は担うのが難しく、雇用延長や共働きの増加で、活動時間を確保できる高齢者や専業主婦が減っている
  •  (これまで「なり手」だった層が減少)
  • ○年齢要件の上限を「75歳未満」とする自治体が多い
  •  (これまでの担い手が高齢化し職務を勤められなくなってきた)
  • ○無報酬である点

などが挙げられます。

特に今後、2025年には日本の人口の4分の1を占める団塊の世代が75歳以上(後期高齢者)になるので、75歳未満という年齢要件を満たす「なり手」候補はますます減少します。
しかも2025年時点で高齢者世帯の7割が「一人暮らし」か「高齢夫婦だけの世帯」になるので、今よりもさらに地域で細やかなフォローをする人材が必要になるのです。

こうした民生委員の「なり手」減少による「支援が必要な世帯の孤立」を防ぐため、一部自治体では、活動費を増額したり、民生委員だけに負担が集中しないよう民生委員のサポーターを設けたり、訪問ボランティアを組織するところも出てきています。

しかし一般市民も、民生委員の職務について理解し、ボランティアなど地域で手を差し伸べられる余地のある活動には少しずつでも手をかしてみる、という意識が大切です。
それが将来、私たち自身が支援を必要とする存在になったときに、助け合える地域をつくり上げていく土台になります。

民生委員を含め、地域の「横のつながり」を増やしていくことが大切!

今後少子高齢化はさらに進むので、民生委員のような地域の情報に詳しく行政や地域機関との橋渡しをしてくれる人材は欠かせません。
ただ少子化の現状を考えると「なり手不足」が今後急激に改善するとは期待できず、民生委員だけに頼るままでは負担を増やすばかりの悪循環に。
市民一人ひとりが可能な範囲で地域ボランティアに参加するなど、民生委員以外の「地域の横のつながり」も増やし備えていくことが重要です。

参考:
政府広報オンライン ご存じですか?地域の身近な相談相手「民生委員・児童委員」(2021年6月10日引用)
厚生労働省 民生委員・児童委員について(2021年6月10日引用)
全国民生委員児童委員連合会 民生委員・児童委員とは(2021年6月10日引用)
日本経済新聞 長寿社会のリアル~縮む地域の「見守り網」(2021年6月10日引用)
三重ふるさと新聞 なり手不足が問題の『民生委員』 12月の一斉改選迫る 関係者は人材確保に奔走 負担軽減と後継者育成課題(2021年6月10日引用)
西日本新聞 「来れ民生委員」活動費を最高水準に 福岡市が26年ぶり増額(2021年6月10日引用)
川崎市民生委員児童委員あり方検討委員会 平成27年12月「川崎市民生委員児童委員あり方検討委員会」報告書(2021年6月10日引用)

  • 執筆者

    湖上ゆうこ

  • 大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。

    保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士

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