地域包括ケアシステムのユニークな取り組み。買い物支援や体操教室など行政の頑張りを見てみよう
2025年には団塊の世代も後期高齢者の仲間入りをするといわれており、介護保険と医療保険の両方から介護保険の保険者である都道府県や市町村がいかに高齢者を支えていくかということが鍵となっています。
地域包括ケアシステムとは、具体的には自宅より30分以内の範囲に必要となるサービスが存在することを目標として考えられており、住み慣れた街で介護や支援が必要になっても住み続けていく街づくりに向けた取り組みです。
今回は地域包括ケアシステムのユニークな取り組み成功事例をご紹介します。
目次
社会福祉法人の車両と連携。介護予防と買い物支援で地域包括ケアシステムを構築。佐賀県嬉野市
佐賀県嬉野市が行う“ごましお健康くらぶ”は厚生労働省九州厚生局が主催する地域包括ケア大賞にも輝いた画期的な取り組みです。
既存の社会福祉法人が所有する車両を市の事業である“ごましお健康くらぶ”で活用する取り組みについてご紹介します。
●既存の社会福祉法人が所有する車両を利用し、行政と一般法人の協力関係で地域を支援
行政の管轄ではない社会福祉法人が元々所有している車両を、市町村が協力を仰ぐ形で利用者の送迎に用いる支援システムです。
嬉野市の一部には近くに日用品や食料品店などの買い物をする場所がない集落もあり、そこまでの交通手段がなく困っている高齢者が以前より問題になっていました。
この支援システムが構築されたことで、買い物支援と高齢者への介護予防の両方にアプローチが可能となりました。
自宅近くにバスで迎えに行き、介護予防教室で運動を行った後、近隣のショッピングセンターで買い物をして、自宅まで送るという事業です。
対象:要支援1もしくは2の介護度に認定されている高齢者
買い物に困っている高齢者 など
回数:週に1度
料金:200円(ボランティア団体が現金徴収)
介護予防日常生活支援総合事業では、ボランティア団体による介護予防教室の運営により高齢者の居場所を確保でき、通所型サービスB、社会福祉法人が移動の支援をすることで訪問型サービスDの位置づけとなっています。
●地方で問題の買い物支援と介護予防をまとめて行う地域包括ケアシステム
交通手段の乏しい地方都市の高齢者では、住んでいる地域に買い物ができる施設がなく困っている人が60%にも及んでおり、大きな問題となっていました。
既存の社会福祉法人が所有する車両を利用することにより、市町村は1)買い物支援が実現可能で、2)新たに車両の購入などの経済的負担もなく、3)高齢者の身体状況も把握でき、社会福祉法人としては訪問型サービスDの利用者が増えることにより、業績の向上が期待できます。
市町村にも地域の社会福祉法人にとってもwin-winの関係であり、双方にメリットがもたらされ介護が必要な方の希望する支援が行われている事例です。
世代間交流もできる複合施設をつくって地域ケアシステムの一部に。新潟県長岡市の社会福祉法人の取り組み
100名規模の特別養護老人ホーム施設を持つ長岡福祉協会は、小規模多機能の分散した施設を併せ持ち、お互いのサービスをリンクさせてさまざまな在宅介護の支援サービスを整備し注目を浴びています。
●サテライト特養をつくり、キッズルームを併設。子どもたちも集い、入居者の家族が個々の居室へダイレクトにアクセス可能
小規模のサテライト特養に、グループホームや訪問看護ステーション、デイケアなどを併設させ、そこにカフェテラス、キッズスペースをつくることにより、地域の人も身近に介入できる環境をつくっています。
また集合住宅などに隣接し、介護が身近に感じることができ、そこに住む子どもたちの学習スペースとなったり、デイケアを利用するお年寄りとの交流など世代間交流も可能です。
特別養護老人ホームの居室の一つひとつに玄関をつけ、入居者の居室となることにより、家族が特養職員と顔を合わさなくても面会できる手軽さもあります。
●24時間対応の訪問看護・介護、365日対応の配食サービスを既存の事業より波及させて支援サービスを展開
小規模の居宅介護支援事業者をサテライト特養の敷地内に併設し、訪問看護や介護事業を展開し、大規模施設にすべてを置くのではなく、小規模にして点在させてカバーできるエリアを大きくしています。
また特別養護老人ホームに既存の厨房を利用して、365日の介護の必要な高齢者への配食サービスを行い、地域包括ケアシステムの一助を担っています。
それぞれの施設が異なる機能の介護支援を担うことにより、さまざまな機能が整備され地域包括ケアシステムの構築を行っている事例です。
都心部の地域包括ケアシステムの支援の一例、公衆浴場で介護体操。東京都武蔵野市が行う高齢者の集い
今度は東京都郊外の比較的大規模な都市において、どのような地域包括ケアシステムが行われているのかについてご紹介します。
●さまざまな地域の浴場やコミュニティセンターなどで“不老体操”を実施し地域支援
武蔵野市では地域の公衆浴場の混雑時以外の時間に場所を利用して、介護体操を地域の老人クラブの皆さんの協力を得て、開催しています。
介護体操参加者は無料で浴場の利用も可能で、ほかにもコミュニティセンターなどで同様の介護体操教室を“不老体操”と風呂をもじって呼んでいます。
公衆浴場の経営面での問題も解決ができ、地域の皆さんが通いやすい立地条件など公衆浴場の立地の良さを生かしたアイデアです。
昔は人々の憩いの場であった公衆浴場を利用した地域支援の一つの形といえるのではないでしょうか。
●男性のための料理教室や空き家を活用してカルチャー活動や世代間交流、緊急ショートステイも行えるケアハウスを運営
武蔵野市では“男性のための料理教室”や手芸、書道などのカルチャー活動の場を提供しており、世代間の交流や高齢者同士の交流も地域コミュニティの支援の形の一つです。
仕事の忙しかった団塊の世代の男性は、退職後には家にこもりがちになってしまい、外界との交流がないと運動不足や認知症の一途をたどるケースも多くなります。
そのような方への支援として、カルチャーや運動などを通して交流が生まれるのも地域支援の形の一つです。
また、住む人がいなくなった空き家や私有地を利用して、地域の人々に開かれた場所を提供することにより、地域社会全体を地域の人で支援していく地域包括ケアプログラムを実践することができます。
同じく、空き地や私有地など身近にあるものを利用したショートステイも可能なケアハウスや食事サービスの展開なども地域に根ざした支援策であり事業展開の一つといえるでしょう。
各市町村の地域包括ケアシステムは高齢者の健康を守り、孤立させないための支援策
2025年問題を見越して都道府県や市町村も地域包括ケアプログラムへの取り組みに力を入れています。
特に地域支援は、身近な通いやすい場所でボランティアなどにより高齢者の運動を促進させ、健康寿命を保つための介護予防、高齢者を孤立させない輪をつくり支援することが大切です。
さまざまな市町村など地域のアイデアは、そこに暮らす高齢者の方々がより長く住み慣れた場所で暮らせるためのヒントの一つではないでしょうか。
参考:
厚生労働省 他職種連携による介護予防と買い物支援の居場所 ごましお健康くらぶ事業(2021年6月27日引用)
嬉野市 介護予防と買い物支援の通いの場「ごましお健康くらぶ」について(2021年6月27日引用)
社会福祉法人長岡福祉協会 高齢者総合ケアセンターこぶし園(2021年6月27日引用)
社会福祉法人長岡福祉協会 介護老人福祉施設(2021年6月27日引用)
武蔵野市 不老体操と浴場の開放「不老体操にご参加ください!」(2021年6月27日引用)
三菱総合研究所 まちぐるみの支え合いの仕組みとしての地域包括ケア(2021年6月27日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士