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呼吸器疾患 高齢者

誤嚥しやすい姿勢とはどんなもの?解剖生理学的な根拠と誤嚥予防策

高齢者の死亡原因の一つ、肺炎。
なかでも誤嚥(ごえん)性肺炎は、食事中の姿勢が原因の一つに含まれています。
食事中の不良姿勢は、高齢者ならではの理由があり、工夫次第で改善しうるのです。
この記事では、高齢者が誤嚥しやすい姿勢・その予防などについてお伝えします。

食事中に咽せ返ってしまうことはありませんか?

高齢者と誤嚥性肺炎

わが国の三大死因は、「がん、心疾患、肺炎」とされていましたが、現在の三大死因は「がん、心疾患、脳血管疾患」です。
がん 27.3%、心疾患 15.0%、脳血管疾患 7.7%、肺炎 6.9%、誤嚥性肺炎 2.9%
とはいえ、2019年の「人口動態統計月報年計(概数)の概要」によると、いまだ死因の第5位(6.9%)に肺炎はランクインしていますし、2017年より肺炎とは別の項目となった誤嚥性肺炎(2.9%)を加算すると、がん(27.3%)、心疾患(15.0%)に続き第3位です。
さらに肺炎にり患している患者さんのうち、70歳以上の方は7割以上、90歳以上の方に至っては、9割以上が誤嚥性肺炎にり患しています。
なぜ高齢者に誤嚥性肺炎が多いのか。
口腔ケアが不十分、唾液分泌量の減少、逆流性食道炎、本人の抵抗力の低下などさまざまな要因が絡み合っていますが、不良姿勢も要因の一つなのです。

誤嚥が起こる仕組み

寝ている時に唾液を誤嚥してむせかえることも

1.通過障害が誘因の誤嚥

ヒトは食事をすると、口の中で食物をかみ砕き、飲み込み、食物は食道を通って胃の中に入ります。
この過程で嚥下した食物が、食道と気管の分かれ道で誤って気管から肺の中に入り(誤嚥)、肺に残った食物の塊が細菌を繁殖させて起こるのが誤嚥性肺炎です。
食道には生理的狭窄部位といって狭くなっている部分が3カ所あり、この部位に食塊が詰まりやすく、詰まったことがきっかけで誤嚥することもあります。

2.胃からの逆流による誤嚥

高齢者は胃の入り口が緩んでしまうことなどが原因で逆流性食道炎にり患する方も多いのです。
逆流性食道炎では、一度嚥下して胃の中に入った食塊が、嘔吐をするように食道に上がってきてしまい、気管から肺内に入って細菌を繁殖させるケースもあります。

誤嚥性肺炎の原因疾患

高齢者は臓器全体の機能が落ち、食道の機能も落ちていることもあり、「嚥下して生理的狭窄部位に詰まらせずに胃内に食物を送る」という一連の動作がスムーズにできなくなる場合があります。
これに加え、誤嚥性肺炎を起こしている方の原因疾患の6割以上が脳卒中であり、次いでパーキンソン病、アルツハイマー型認知症が挙げられます。
脳卒中は片まひがあると正しい姿勢を自分で維持することが難しく、パーキンソン病や認知症でも崩れた姿勢を自ら正すことが難しい場合があります。
高齢による内臓機能低下に加え、脳疾患による後遺症が誤嚥性肺炎と大きな関わりがあるのです。
また、高齢者は背中が曲がっている方が多いかと思いますが、これは脊椎がつぶれたことが原因です。
骨粗しょう症があり、長時間不良姿勢でいることで脊椎の圧潰が起こっているのです。
骨はつぶれて背中が曲がっていても、周囲の筋肉組織・脂肪組織まで萎縮しているわけではないので、意識して背筋を伸ばそうとすれば伸ばせます。
姿勢は癖なので、直そうと思えば多少直せるのです。

つい、背中を曲げてしまう高齢者は、食事の時も背中を曲げて食道や胃を圧迫しています。
介助者は背中を伸ばすようこまめに声掛けをし、必要であれば整形外科で相談して骨粗しょう症の治療を開始しましょう。

食事の時の正しい姿勢

背筋を伸ばして姿勢良く 食べた後すぐに横にならない

1.椅子に座るとき

椅子の座面の高さは、膝が90度曲がる高さにし、足裏は床または足のせ台に着く高さにします。
体とテーブルの間は握りこぶし一つが入るくらい空けます。
背中が曲がると食事の時に食道が曲がり、嚥下の流れを妨げてしまいます。
また、足が上がりすぎても下肢が胃を圧迫し、嘔気を誘発するのです。
正しい姿勢を守れば、食道や胃が圧迫されません。

2.ベッドの時

足元をギャッジアップして足底に枕を入れ、下半身がずれないようにします。
この後、介助なしで食事をするときはベッドの頭側を60度まで上げます。
介助が必要な場合は、背もたれを30度以上にします。
背中、頭に枕を入れ、顎下に4本指が入る程度空けます。
さらに、腕を支えるクッションを入れます。
(参考:埼玉県歯科医師会 誤嚥性肺炎予防のための食事姿勢と口腔健康管理)

3.食事終了後

食事が終わるとすぐに横になりたいという高齢者は多いものです。
しかし、すぐに横になると、逆流性食道炎にり患しやすく、すでに内臓機能の低下があれば、嘔吐や胃から少量の食物の逆流が起こることも考えられます。
食事終了後は最低30分、できれば1時間は横にならず座った姿勢を保つのがお勧めです。
食事後に眠くなるのは、急激な血糖上昇により血圧が低下することが原因ともいわれています。
食事摂取の速度が速いと、急に血糖値が上昇するので、食事はよく噛んで時間をかけて(できれば15~20分以上)とるように声掛けをしましょう。

不良姿勢を正して誤嚥性肺炎の予防に努めよう

食事の時に姿勢が悪いと食道や胃を圧迫し、誤嚥するリスクを高めます。
脳梗塞後のまひ・認知症・パーキンソン病などがあると姿勢を維持することは難しい場合もあります。
しかし、食事介助につく方が正しい姿勢を知り、こまめに声掛けをすることで姿勢を保てる場合もあるのです。
さらに食事終了後の姿勢・口腔ケアにも気を配り、誤嚥性肺炎を予防していきましょう。

参考:
厚生労働省 人口動態統計月報年計(概数)の概況(2021年6月27日引用)
厚生労働省 2. 高齢化に伴い増加する疾患への対応について(2021年6月27日引用)
埼玉県歯科医師会 誤嚥性肺炎予防のための食事姿勢と口腔健康管理(2021年6月27日引用)

  • 執筆者

    島谷 柚希

  • 小児外科・整形外科病棟・総合病院の外来などを経て2015年より医療・看護ライターに。並行して派遣看護師としてデイサービス・整形クリニック・健診機関などで勤務しています。看護師歴は20年以上。看護の知識と実践で得たことを糧に、読者様にわかりやすい記事を届けます。

    保有資格:看護師・介護支援専門員

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