高齢者に起こる喪失体験とは?うつの原因にもなる人生の大きな節目について
うつ病は若年層や中高年に多いとされていますが、実は高齢者も発症する可能性が高いことをご存じでしょうか。
その要因には高齢者の「喪失体験」が深く関係しています。
喪失体験を理解すると、うつ病の予防や改善にも生かせますので、しっかりと知識を身につけておきましょう。
高齢者の喪失体験とは
高齢者の「喪失体験」とは、年齢を重ねることで起こる身体や心、環境などの変化によって、今まであったものが失われていく現象です。>
高齢者とは65歳以上の人を指し、74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者として区分されています。
人によって喪失体験が起こるタイミングに違いはありますが、後期になるほど複数の体験が重なりやすくなるでしょう。
それでは、代表的な4つの喪失について説明していきます。
●「健康の喪失」
人の健康状態は加齢にともなって変化していき、高齢者になると心身の衰えを実感する方も増えるでしょう。
同時にさまざまな病気にかかるリスクが高くなるため、健康を損ねる可能性が高い状態でもあります。
代表的な心身の変化
- ○全身の筋力低下
- ○心肺機能の低下
- ○視覚や聴力など感覚器の衰え
- ○記憶力や思考力、判断力の低下
- ○免疫機能の低下
- ○歯や消化器など食事に関する機能の低下
- ○高血圧や糖尿病、脳卒中、ガンなど生命に関わる病気のリスクが高まる
- ○意欲の低下やマイナス思考 など
多くのケースとしては、75歳前後から機能の低下により徐々に自分でできることが減ってくるといわれています。
さまざまな不調によって健康の喪失を体験すると、今後の不安や死への恐怖など複雑な心理状況にも影響を与えるのです。
●「つながりの喪失」
仕事をしていた方は退職を迎え、同居していた子どもは自立して一人暮らしを始めるなど、高齢になるほどに家族や社会とのつながりが少なくなります。
新しい出会いも減りやすく、車の運転をしていた方は免許の返納などにより、外出方法が制限されて友人を訪ねることも難しくなるかもしれません。
そして、最も強い影響を与えるのが配偶者や友人の死によるつながりの喪失で、孤独感や絶望感を強めるきっかけになります。
年を重ねるごとに、大切な人たちとのつながりが無くなる可能性も増え、深い悲しみを抱く方も多いでしょう。
●「経済的な喪失」
退職後には毎月の収入は年金のみとなる方も多く、生活で貧しさを感じる人も少なくありません。
また仕事をするというのは、自身の力で生活するという経済的な自立も意味しており、金銭的な喪失だけではなく、生きる自信なども失う場合があります。
たとえ十分な貯蓄があったとしても、生活費に加えて病院代や自身の介護費用なども考えなければならず、いつまで生活が保てるか不安になるのは当然です。
蓄えが少なければ、さらに生活レベルが制限されるなど影響も大きくなるでしょう。
経済的な喪失は、将来や日々の生活への不安を抱えることになり、人によっては大きなストレス要因となります。
●「役割の喪失」
子育てが終わり、退職など人生の節目になると、ひとつずつ大きな役割を終えていくことになります。
人は目標や役割があるからこそ充実して日々を過ごせる部分もあり、節目のタイミングでは無気力になることもあるでしょう。
また心身の衰えなどほかの喪失体験が重なることで、次の生きがいを見いだせない場合もあることから「生きる目的の喪失」とも呼ばれます。
生きる気力とも関連のある役割の喪失を乗り越えるのは、人生の大きな課題のひとつといえるでしょう。
喪失体験で起こるうつ病について
さまざまな喪失体験によって、下記のような多くのマイナスの感情が複雑に絡み合い、生きる目的や気力を失うこともあるでしょう。
- ○悲しみ
- ○怒り
- ○後悔
- ○孤独感
- ○諦め
- ○否認
- ○焦り など
この状態が続くことでうつ病の発症リスクが高まり、高齢者に見られることから「老年期うつ病」ともいわれています。
うつ病になると
- ○抑うつ気分
- ○興味や意欲の低下
- ○食欲低下や食べ過ぎ
- ○睡眠障害
- ○疲れやすい
- ○強い罪の意識
- ○考えが鈍り集中できない
- ○自殺 など
精神的活動に大きく影響を与え、重度のケースでは自殺して命を落とすこともあるのです。
それでは、発症の原因にもなる喪失体験との関連性について、もう少し詳しく見ていきましょう。
●喪失体験が多いとうつ病になりやすい
高齢者に起こる喪失体験は、問題が次々に重なって起こりやすい特徴があります。
たとえば、自身の親が亡くなった直後に友人が亡くなったり、退職直後に自身が大病を患ったりと、さまざまなケースがあるでしょう。
心の整理がつく前に新たな喪失体験が起こると、ストレスや不安が強まりうつ病が発症しやすい状況になります。
特に統計上は女性のほうがリスクが高く、うつ病の既往がある場合は再発に注意が必要です。
また、配偶者との離婚や死別の直後もうつ病が誘発されやすいといわれています。
●認知症につながるリスクもある
うつ病になると集中力や思考力が低下して認知症のような状態になることがあり、これを「仮性認知症」といいます。
通常であればうつ病の改善とともに回復しますが、高齢者の場合は本当の認知症を発症するきっかけにもなるのです。
どちらの病気も強いストレスや不安感が原因として考えられているため、両方を併発することも少なくありません。
喪失体験から考えるうつ病の予防方法
環境や周囲の対応などによって、喪失体験から起こる心理的な負担は緩和することができます。
もちろんすべてを解決できるわけではありませんが、少しでも不安やストレスを軽減できれば喪失体験を乗り越えやすくなり、うつ病の予防や生きる目的の獲得にもつながるでしょう。
●孤立感の解消が重要
超高齢社会となり、高齢者の独居が問題視されるように、単身や夫婦のみで生活をしている方が増えています。
孤立状態となると、喪失体験で起こる問題を解決しにくく、より大きな不安やストレスが生まれやすくなるのです。
人とのコミュニケーションは孤立感を解消しストレス発散のためにも重要です。
男性の場合はスポーツなどをとおして体を動かし、人と接することで気分転換になる方も多いでしょう。
そこで公民館などの地域のサービスを活用し、◯◯教室や趣味のサークルなどに参加することで、コミュニケーションの機会ができ孤立感解消にも期待できます。
要介護認定を受けていれば、送迎もあるデイサービスやデイケアなどもおすすめです。
家族としては、できる限り話を聞くように心がけることが大切で、離れている場合も定期的に電話をすることで孤立感が軽減されます。
近年はロボットペットを導入することで、高齢者が抱えるストレスを軽減して癒し効果があるとして注目されています。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
●役割や仕事は元気の源
子育てや仕事など大きな役割が終わった後にも、無理のない範囲で小さな目標や責任の少ない仕事などを持つことが大切です。
体力のあるうちは、ボランティアやシルバー人材などで新しい仕事を始めるのも良いでしょう。
趣味や習い事など、何か目標を持つことで生活にめりはりが生まれますが、プランターで植物を育てるなど簡単な役目を持つことも十分効果的です。
高齢になったからといって、何もできなくなったわけではありません。
役に立てることを実感し何か目的に向かって行動すると、意欲向上や自尊心も回復し、社会とのつながりも保ちやすくなるため、うつ病の誘発要因の軽減につながるのです。
ただし無理は禁物で、周囲が押し付けるようにすると反対にストレスが高まるため注意してください。
●うつ病に気づくためのポイント
うつ病は自覚しにくい特徴もあり、事前にどのような症状が現れるか、本人だけではなく周囲の人も知っておくことが大切です。
うつ症状の評価に用いられる「簡易抑うつ症状尺度」を参考に、気づくためのポイントを次にまとめました。
- ○熟睡できない、もしくは起きたくても起きられない
- ○悲観的で自分のことを「役に立たない」「死んだほうが良い」などと口にする
- ○2週間以内に体重が2kg増えた、または減った
- ○普段の生活でも疲れやすく、動作も緩慢でおっくうに感じる
- ○常に何かの不安を抱えている
- ○以前から好きだったテレビや趣味に興味がなくなった
これらが確認できたときには注意してください。
うつ病は「心の風邪」と表現されることもあり、迷ったときは気軽に病院へ相談するのが一番です。
対応する診療科は精神科、心療内科、メンタルクリニックなどが該当します。
喪失体験を経てその先を考える
高齢者には多くの喪失体験が起こり、不安やストレスを抱え込むことでうつ病にもなる可能性があります。
さらにうつ病から認知症に発展するケースもあるため、できる限り精神的な負担を軽減することが大切です。
そのためには人と接する機会を持って孤立感を解消し、いつまでも役割のある生活をすることで生きがいの獲得にもつながります。
参考:
日本生命 第6回年を重ねると「健康状態」はどのように変化するのか(2021年7月27日引用)
下山晴彦, 松澤広和, 他 老年期における喪失経験の受容と適応(2021年7月27日引用)
健康長寿ネット 高齢者の心理的特徴(2021年7月27日引用)
健康長寿ネット 健康長寿になるためのこころの持ち方(2021年7月27日引用)
健康長寿ネット 高齢者のメンタルヘルス(2021年7月27日引用)
榎本 博明(名城大学人間学部教授) 高齢者の心理(2021年7月27日引用)
厚生労働省 高齢者のうつについて(2021年7月27日引用)
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執筆者
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総合病院に6年間勤務し、脳神経外科や整形外科のリハビリテーションを中心に、急性期・回復期・慢性期を経験。その後、介護支援専門員の資格を取得して家族と共に介護事業を設立。代表取締役であると同時に、現場では機能訓練指導員・介護職・ケアマネジャーを勤めプレイングマネージャーとして活躍。現在は、経営業務をメインに記事の監修やライターとしても活動中。
保有資格等:作業療法士、介護福祉士、介護支援専門員
匿名 さん
2021年10月1日 10:33 PM
今日そのような高齢者の男性に電話して、喪失感が感じられるました。一ヶ月に2回ほど電話していましたが、二ヶ月ほど空いてしまいました。電話ーお困りのことはございませんか?ー家内が居なくなったからー奥様は4年前にお亡くなりになりました。でもいつもは言われていません。初めてです。いつもは奥様いらっしゃらなくなり寂しくありませんかーいや大丈夫だよ。今回ーテレビの音が大きくなっていました。耳が聞こえにくくなったのでは。83歳になりました。脳梗塞の後遺症で話し、手、足に麻痺が残りました。でも最初より動けています。が外は車椅子です。デイサービスに週4回行きます。思考力、判断力ー聞いたことに対して明らかに以前より考えていないとわかります。1人暮らしです。