高齢者のうつ病で起こりやすい妄想とは?認知症・統合失調症との違いについても解説
うつ病は高齢者にも起こりやすい病気ですが、若い世代が発症した場合と違い「妄想(もうそう)」と呼ばれる症状が出現しやすい特徴があります。
「心配しすぎ」と周りから言われることが多くなったら、それはうつ病のサインかもしれません。
高齢者のうつ病で起こる「妄想(もうそう)」とは?
そもそも妄想(もうそう)とは、実際には起こっていないことを、本人は起こっていると確信して、周りが正しても思い込みが治らない状態のことです。
うつ病のなかでも高齢者の場合は妄想が出現しやすく、極端に自分自身を過小評価した考え方になる傾向から「微小妄想(びしょうもうそう)」と呼ばれています。
さらに、微小妄想は状態の違いによって3つの分類がありますので、それぞれの特徴について説明していきましょう。
●心気妄想(しんきもうそう)
医学的な異常が無いにもかかわらず、何らかの重大な病があるのではないかと健康上の不安を抱えて続けている状態が「心気妄想」です。
高齢になるほどに身体が弱りやすく、誰でも不調や不安を感じることはありますが、妄想の場合は何をしても不安を取り除くことができません。
通常は病院を受診して問題が無いと診断されるか、必要な治療を受けることで徐々に不安感が薄れていきます。
しかし心気妄想があると、病院受診を繰り返して問題が見つからない場合でも誤診だと思い、健康がいくら証明されても安心できません。
- 進行すると
- ○「ガンになってしまった」
- ○「不治の病でもう治らない」
- ○「もうすぐ死んでしまう」
などのように、根拠もなく命に関わる病気になったと思い込み、意欲や食欲の低下、睡眠障害などさまざまなうつ症状も強まります。
きっかけとして、健康診断などでちょっとした問題が見つかったことが不安材料となり、うつ病や妄想に発展することもあるようです。
●罪業妄想(ざいごうもうそう)
過去のちょっとしたミスや失態を深刻に感じ、自分を責め続ける状態が「罪業妄想」です。
もともとの性格として、自分のミスを許せないような完璧主義の方に見られる傾向があります。
罪の意識が高まると、自分は処罰されなければいけないと思い込み、周りの人たちが罪を犯していないことを説明しても受け入れることができません。
- ○「周りに迷惑をかけている」
- ○「もうすぐ警察が来る」
- ○「◯◯に悪いことをしてしまった」
などの発言を繰り返す場合には注意が必要です。
さらに深刻になると、自身の存在価値をすべて否定するようになり「悪い人間だから死んだほうが良い」など、自殺につながる可能性もあります。
また、事実ではない罪を妄想で作り上げることもあり、現在生きている人に対して「私のせいで死なせてしまった」というような、現実感の無い話にまで発展するケースもあるようです。
●貧困妄想(ひんこんもうそう)
金銭に関する不安が極端に強まった状態で、客観的に生活の心配がないような状況であっても現れることがあります。
- 年金や預金が十分にあったとしても
- ○「お金が足りない」
- ○「このままだと生活できなくなる」
- ○「〇〇さんにお金を返さなければ」
と発言することもありますが、多くのケースではどの程度足りず、いくらあれば大丈夫なのかという具体性はあまりありません。
うつ病のひとつの症状として、思考力や判断力の低下があり、ネガティブな感情が優位になって正しく物事を考えられないということがあります。
まさに貧困妄想でも同じことがいえ、不安だけが先行して論理的な発想ができません。
単純に金銭だけではなく、洋服や食料品などの物品が不足していると思い込むパターンもあり、何を中心に不安に感じるかは人によって違うようです。
状態が悪化すると「先々食べ物に困るから」と食事を取らなくなるケースもあり、当然身体の健康にも大きな影響を与えます。
認知症や統合失調症で起こる妄想との違いについて
高齢者で妄想が見られる疾患としては、認知症と統合失調症も代表的です。
うつ病で起こる妄想は、不安感などのネガティブな感情や思考がベースとなっていますが、このふたつの疾患にはそれぞれ別の特徴が見られます。
●認知症で起こる妄想との違い
認知症にもさまざまな原因やタイプがありますが、ここでは妄想が起こりやすいふたつのパターンについて紹介します。
まずは脳の全般的な萎縮から起こる「アルツハイマー型認知症」です。
記憶障害がメインで初期段階から妄想が起こることはあまりありません。
代表的な妄想は「物盗られ妄想」で、財布などの金銭や大切な物が盗まれたと思い込み、家族など身近な人を疑う傾向にあります。
うつ病の場合は、人を疑う以上に自分自身を責めやすい点に違いがあるでしょう。
もうひとつは「レビー小体型認知症」で、脳の一部にレビー小体というタンパク質の一種が集まりすぎることで発症します。
特徴としては、実際には無いものが見える「幻視(げんし)」と呼ばれる症状が出現しやすいことです。
猫などの小動物から昆虫、子どもなどがそこに居るかのように感じ、そこから「誤認妄想」と呼ばれる状態に発展することもあります。
- ○「さっき◯◯さんが来た」(本当は来ていない)
- ○「死んだ母が生き返った」(生き返るはずがない)
というように、この妄想では存在しないはずの人が居るような誤った認識をするようになります。
うつ病では特に幻視のような、何かが見えるようになる症状はありません。
また、レビー小体型認知症では身体面にも異変があり、動きが固くなり震えも起こるパーキンソン症状が見られます。
●統合失調症で起こる妄想との違い
一般的には若い世代に多いとされる統合失調症ですが、実は高齢者にも発症する可能性があります。
40歳以上で発症した場合は「遅発性(ちはつせい)統合失調症」に分類され、特に被害妄想や幻覚が起こりやすいのが特徴です。
また、気分が沈むことや意欲を失うなどの感情に関する影響が目立ちにくいとされており、この点はうつ病と正反対の性質だといえるでしょう。
ただし、うつ病、認知症、遅発性統合失調症はそれぞれが合併して症状が複雑に出現している可能性もあるため、医師でも判断は簡単ではありません。
高齢者のうつ病や妄想に気づくポイント
うつ病や妄想の判断は一般人では難しいですが、抑うつ状態になっているかどうかは比較的感じ取りやすいでしょう。
一番苦しい本人は病気という意識がほとんど無いため、周りの人がちょっとした異変に気づけることが重要になります。
●本人の言動に注意しておく
以前とくらべて明らかに気分が沈んでいたり、意欲が無くなったりする場合はわかりやすいが、あまり目立たない変化がうつ症状のサインということもあります。
- ○病院を以前よりも頻繁に受診するようになった
- ○頻回に通帳を確認したり銀行に行くようになった
- ○「◯◯さんに謝らなければ」と誰かへの謝罪をよく口にするようになった
このような変化が見られた場合は、うつ病の妄想が始まっているかもしれません。
また、高齢者のうつ病は「喪失体験」がきっかけになる可能性が高いです。
配偶者が亡くなったり、病気をした直後だったりすると、うつ病の発症率も上がりますのでより気をつける必要があります。
喪失体験についてはこちらの記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
●早めの病院受診が大切
うつ病は早期発見、早期治療することで回復も早まり、何より本人の苦痛を和らげることができます。
そのためにも、先ほど紹介したような異変に気づき、早めに病院受診することが大切です。
「まだ大丈夫そうだ」「気の持ちようだ」などの素人判断は危険で、本当はさまざまな病気を抱えている可能性もあります。
少しでも気になるときには、最悪の事態に発展する前に以下の病院を受診するようにしましょう。
- 対応する診療科
- ○精神科
- ○精神神経科
- ○メンタルクリニック
- ○心療内科 など
早期発見・早期治療のためにうつ病の知識を深めよう
高齢者のうつ病では、自分に価値がないように感じる微小妄想が起こりやすく、さらに人によって健康面や金銭面、罪の意識などさまざまな不安から妄想が発展します。
認知症や統合失調症とは区別されるものの、合併している場合も多いため一般人ではどの状態なのか判断は困難です。
ただし、異常を感じて病院受診を勧めることは周囲の人でも可能でしょう。
早期発見・早期治療のためには、ちょっとした変化に気づけるように、うつ病に関する知識を深めておくことも大切です。
参考:
上野 秀樹 高齢者に認められる精神症状について(2021年8月21日引用)
古茶 大樹: 高齢者の幻覚・妄想. 日本老年医学会雑誌49巻5号, 2012.(2021年8月21日引用)
NHK 高齢者のうつ病とは?サインや症状、検査方法、治療法まとめ(2021年8月21日引用)
認知症ねっと 認知症の種類(2021年8月21日引用)
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執筆者
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総合病院に6年間勤務し、脳神経外科や整形外科のリハビリテーションを中心に、急性期・回復期・慢性期を経験。その後、介護支援専門員の資格を取得して家族と共に介護事業を設立。代表取締役であると同時に、現場では機能訓練指導員・介護職・ケアマネジャーを勤めプレイングマネージャーとして活躍。現在は、経営業務をメインに記事の監修やライターとしても活動中。
保有資格等:作業療法士、介護福祉士、介護支援専門員