介護が必要となるまでの経緯とは?そして、介護が必要になることで家族にはどれだけ負担がかかる?そのリアルな現場を実体験から報告します!
「いつまでも元気でいたい」
それは誰もが願うことです。
しかし、年を重ねれば重ねるほど、ちょっとしたケガや体調不良をきっかけに、介護が必要な状態になっていきます。
そこで今回は、筆者の祖父(当時90代)がどのような状況から介護が必要となり、それに伴って家族はどのような負担を担ったのかを報告します。
きっかけはひどい「風邪」
健康診断を行うと、結果はオールA。
スポーツ大会へは結果に関係なく、出場しただけで「最年長賞」をもらえるほど、元気に年を重ねていた当時90代の祖父は、家族みんなの自慢でした。
しかしその祖父がある年の冬、風邪をひきました。
いつもはお湯割りの焼酎を2~3杯飲んだあと、茶わん一杯のご飯とだされたおかずをすべて食べてしまうほど、お酒が大好きで食欲旺盛だった祖父が、その風邪をきっかけに食欲をなくし、寝込んでしまったのです。
家族も心配はしていましたが、「普段元気なじいちゃんのことだから、数日間寝込めばすぐに治るだろう」と思っていました。
一応、高血圧の薬をもらっている医師の診断も受けましたが、「胃腸の風邪でしょう」とのことで、おなかの調子を整えるお薬をもらうのみでした。
しかしこの風邪をきっかけとして、祖父はまさに坂道を転げ落ちるように、全身を弱らせていったのです。
●普段元気だから大丈夫、ではない!
内閣府が公表している2016年版高齢社会白書によると、介護が必要となった原因は、上から順に「脳血管疾患(脳梗塞など、脳の血管による病気)」「認知症」「高齢による衰弱」「関節疾患」となっています。
このなかで注目したいのが「高齢による衰弱」です。
筆者の祖父のケースの通り、それまで健康で過ごしていても、あることをきっかけとして急速に衰弱が進み、介護が必要となるケースがあります。
この原因が全体の3位であることを考慮しても、いかに高齢であることが衰弱を引き起こしやすいかがおわかりいただけるかと思います。
寝たり起きたりの生活から、イライラはピークに
地元のスポーツクラブに所属し、週に2~3回は体を適度に動かしていた祖父ですが、風邪をきっかけに家にずっと引きこもるようになりました。
食欲はほとんど戻らず、祖父の好物をだしても少ししか食べません。
そのためか、体力はどんどん落ち、次第に寝たり起きたりの生活になってしまいました。
まったく良くならない体調。
そして、徐々に弱っていく体。
ただの風邪をきっかけに体調を弱らせた祖父はすっかり弱気になり、自分で自由に動けなくなりつつあるイライラを、すべて祖母や同居する父母へぶつけるようになりました。
「今すぐ〇〇を用意しろ!」
「なんで俺の言うことが聞けねぇんだ!」
たとえ家族が家事などのほかの用事をしていても関係なく、祖父は自分の要求を大声で伝えるようになりました。
家族も、できる限り祖父の力になりたいという思いはあります。
しかし、あまりに連日大声で自分の要求ばかりを繰り返す祖父に対し、精神的に疲労を隠せなくなっていきました。
ちょうど同時期、孫である筆者が初めての出産をし、自宅で慣れない育児に入っていたこともあり、母親は遠方に住む私の手伝いをしたいと考えていました。
しかし、祖父のあまりにも急激な変わりように祖母が対応しきれないと判断。
結局1週間手伝いにくる予定が、2日間のみですぐに帰ってしまいました。
祖父が風邪をひいてから、家族の生活が祖父を中心に回るようになるまで、期間としては1カ月もかかりませんでした。
●家族の介護にかける時間
介護が必要になると、家族が介護を行う時間が多く必要となります。
こちらは2003年の資料ですが、同居している主な介護者の介護時間を見てみると、以下の表のようになっています。
ほとんど終日 | 27.4% |
---|---|
半日程度 | 10.0% |
2~3時間程度 | 10.1% |
必要な時に手をかす程度 | 37.9% |
その他 | 4.6% |
この資料で注目したいのが、「必要な時に手を貸す程度」という項目です。
全体の約4割を占めるこの項目ですが、これは「家族が常時側にいる」という前提になっています。
男性に限らず女性の社会進出が進むなかでは、自宅に必ず人がいるという状態にすることが難しい家族も増えています。
よって、たとえ介護にかける時間自体は少なくとも、家族が必ず家にいなくてはいけないという時点で、すでに負担を強いているということなのです。
祖父の場合は、祖母がすべての予定をキャンセルし、24時間付きっきりでした。
社交性が高く、お友達とのおしゃべりが大好きな祖母にとって、その時間がつくれないことは大きな負担だったに違いありません。
全身のむくみが出現。そして入院。
時間がたってもよくならない体調を心配した家族は、大きい病院で検査をしてもらうことにしました。
その結果、大きな異常は見られないものの全身が弱っており、特に心臓の動きも弱くなっていることがわかりました。
これまで健康が取りえだった祖父は、この結果にショックを受け、より家に引きこもってしまうようになりました。
家に引きこもり、寝たり起きたりを繰り返すことで全身の筋力はさらに落ち、心臓の機能も徐々に悪化していきました。
その結果起こったのが、息苦しさ、歩きにくさ、そして足や手のひどいむくみです。
それまでなんとか自力で行けていたトイレも失敗するようになり、紙のパンツをはいてもらうようになりました。
そして最終的には、祖父が自分で「病院に行く」といって病院へ連れていくことになり、そのまま入院となりました。
家から靴を履いて車に乗り込み、病院へ行くまで。
それが、祖父が自力で歩けた最後の姿となってしまいました。
風邪をひいてから病院へ向かうまで、その期間はわずか5カ月。
その後、全身の状態が悪化し最期のときを自宅で迎えるまで、わずか7カ月しかたっていませんでした。
●最期を自宅で迎えたい。でも…
先ほどご紹介した2016年版高齢者白書によると、最期を自宅で迎えたいと考えている方は全体の54.6%と半数以上となっています。
家族としても、なるべく自分の家族の要望はかなえたいところですが、実際にはなかなかかなえられないのが実情となっています。
家族が介護にかける時間は、介助量が多くなればなるほど増えていきます。
そのため、介護と仕事を両立させることができず、退職せざるを得なかった方も年間8万~10万人います。
また、介護のために仕事を辞めたという方のうち、本当は辞めたくなかったと回答している方も約5割と半数以上になっています。
つまり、介護が必要になるということは、自分の子どもや孫の世代が続けたいと思っていた仕事を、辞めるきっかけにもなりうるのです。
実際に筆者の場合は、母が仕事をやりくりして長期休暇を取得し、祖母と二人で介護を行いました。
たまたま祖母がまだ健康で介護ができる状態であり、娘である母も仕事の調整がついたこと。
このどちらかが欠けていたら、祖父を自宅で看取ることは不可能だったと思います。
最期を自宅で迎えるということは、それほど難しいことであり、また家族にも大きな負担を強いることでもあるのです。
まとめ
祖父の場合は、同居する祖母と母の頑張りによって、自宅で最期を迎えることができました。
その際に起こった出来事については、こちらの記事(「伝えてさえいれば…」自宅で祖父を看取った家族に対し、看護師の私が今でも悔やむ「3つの無知」)にて詳しく紹介しておりますので、合わせてご参照いただければと思います。
介護が必要になるということは、ご本人はもちろんのこと、ご家族にもさまざまな影響を及ぼします。
だからこそ、普段の健康管理がより重要だと、実体験からも強くお伝えしたいのです。
参考:
内閣府 2016年版高齢者白書(全体版) 3.高齢者の健康・福祉(2018年2月28日引用)
岩間大和子:家族介護者の政策上の位置付けと公的支援:レファレンス:2003年1月号:pp5-48