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歩行障害・認知症・尿失禁。その認知症、治療できるかもしれません。特発性正常圧水頭症(iNPH)をご存じですか?その2

前回の記事「その1」では、認知症は老化現象ではなく、病気に伴う症状であること、なかには治療できる認知症があることをお話ししました。
今回の記事「その2」では、治療できる認知症のひとつ、特発性正常圧認知症についてご紹介するとともに、認知症の予防、早期発見・治療の必要性についてお伝えしたいと思います。

iNPHは歩行障害・認知症・尿失禁の3つが代表的な症状

治療可能な認知症の一つ「特発性正常圧水頭症(以下、iNPH)」では、歩行障害・認知症・尿失禁が3大兆候であり、この順に出現しやすいとされています。

●患者さんのほぼ100%にみられる歩行障がい

iNPHの患者さんの歩行は、すり足で歩幅が小さく、安定しない歩行(小刻み歩行)になるという特徴があります。
この歩行では、身体を安定させることもできないため転びやすくなります。
この小刻み歩行はパーキンソン病の患者さんにもみられますが、iNPHではパーキンソン病による小刻み歩行にくらべ、両足が開き気味(開脚歩行)になるという特徴があります。

●認知症は「自発性の低下」が目立つ

認知症の症状というと、さっきあったことを忘れるなどの記憶障害を想像する方が多いのではないでしょうか。
しかしiNPHに伴う認知症では、記憶障害よりも何となく元気がない、ボーっとしているなど自発性の低下が目立つという特徴があります。
筆者が脳外科病棟に勤務していたときにも、「元気がなく食欲も落ちてきた」という症状で内科を受診したものの検査結果には問題がなく、念のためにと脳外科を紹介されて来院した方がiNPHだった、ということがありました。

●尿失禁のみでの判断は難しい

尿失禁も3大兆候のひとつではあります。
しかし、ほかの症状と違い尿失禁はご高齢の方には比較的よくみられる症状なので、尿失禁のみでiNPHを疑うのは難しいのが現状です。
よって尿失禁単独ではなく、ほかの2つの症状がでていることや、次項でお話しする画像とあわせて総合的に診断することになります。

過剰な髄液をチューブでつなぎ体のほかの部分に流す「シャント手術」

頭部MRIまたはCTの画像では、髄液が過剰なことから脳室の拡大が認められます。
この画像と、前項の兆候とをあわせて、iNPHと診断します。
また、腰椎穿刺(ようついせんし)といって腰から針を刺し、髄液を30mlほど抜いて症状が改善するかを調べるテストを行うこともあります。
このテストをタップテストといいます。
先にご説明したとおり、髄液は脳と脊髄の周囲を流れていて、お互いに行き来していますから、腰から髄液を採取すれば脳の髄液量も減ることになります。
もしこのテストで症状が改善すれば、iNPHが強く疑われることになります。
iNPHには薬のみの治療は有効ではないので、体の中に細いチューブを埋め込み、脳または腰からほかの部位(おなかなど)に過剰な髄液を流して、吸収させる手術を行わなければなりません。

この手術をシャント手術といいます。
症状が軽度で早期であるほどシャント手術の効果は高く、症状の改善が期待できます。

●娘さんがiNPHを知っていて早期治療ができた例

信子さん(仮名)85歳
ご主人を亡くしたあと、一人暮らしをしていました。
娘さんがときどき様子を見に行っていましたが、どんどん元気がなくなり、食欲も低下。
周囲はご主人を亡くしたショックと考えて、精神科の受診を勧めました。
精神科では、うつと診断され、薬を処方されましたが症状は改善せず、むしろまったく意欲がなくなるなど、その症状は悪化してしまったのです。
あるとき、信子さんが転倒によって骨折し入院した際に、娘さんから「iNPHではないか?」との申し出があり、脳外科を受診して検査したところ、iNPHが強く疑われました。
その後、信子さんは脳外科に転科してシャント手術を実施。
信子さんの認知症は改善し、一人暮らしを継続できるようになりました。

このケースでは、娘さんがたまたまテレビで特集していたiNPHのことが頭に残っており、ご自身で調べていたことで早期治療につなげることができました。

「治る認知症」も「治らない認知症」も早期発見・治療が大切な理由

不安定な歩行、ボーっとしている、トイレの失敗が増えた。
これらの症状はご高齢の方にはさほど珍しいことではありません。
それゆえ、たとえ認知症を疑っても症状が軽度のうちは、専門の病院へ行こうと考える方は少ないでしょう。
ご本人もご家族も、できれば病院へは行きたくないのが本音ではないでしょうか。
しかし認知症は、自宅で様子を見ているうちにどんどん進行していきます。
症状がひどくなっているなら、原因となる病気も進行しているということです。
iNPHのように、はじめは脳そのものに損傷がない場合でも、病気が進行すれば(過剰な髄液が脳を圧迫し続ければ)、いずれは脳もダメージを負ってしまいます。
脳そのものがダメージを負ってしまうと、その1でご説明したように脳の機能が再生することはありません。
iNPHは先ほどの信子さんのケースのように、その症状からうつやパーキンソン病と間違われて、長く内服治療をしている例も見られます。
いくらiNPHが「治る認知症」であっても、発見が遅れ、症状が進行すると「治らない認知症」になってしまうのです。
ですから、治る認知症においては、脳がダメージを受けるまえに治療することが非常に大切なのです。
では、治らない認知症の早期治療の意味は何でしょうか。
治らないのですから、早期治療の意味はないと思う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、治らない認知症であっても早期治療は重要です。

認知症の進行には段階があり、初期には忘れたという自覚がなくなる程度ですが、後期では意思の疎通が難しくなり、全面的な介助なしでは生命を維持することも困難になります。
治らない認知症であっても、たとえばアルツハイマー病では治療で進行を遅らせることができます。
ご家族が認知症になって人格が変わったようになったり、いろいろなことを忘れてしまうのは悲しいものです。
しかし、できるだけ早期に治療を開始すれば、症状の軽い状態を長く保つことができ、症状の進行に備えて心の準備をすることもできます。
また脳出血や脳梗塞をおこさないよう、血圧や血糖のコントロールなどの予防をしっかりと行い、脳血管性認知症のリスクを減らすことができます。
「治る認知症」と「治らない認知症」、どちらも早期に治療することによって、より大きな効果が期待できるのです。
たかが物忘れと思わず、「認知症かも」と少しでも感じたら、なるべく早く専門病院を受診することをお勧めします。

まとめ

本記事では「治療できる認知症」についてご紹介しましたが、たとえ「治療できる認知症」であっても、その原因となる病気を知らなければ発見が遅れ、治療ができない認知症になってしまう可能性もあるのです。
特にiNPHのように明らかな原因がなく、いつから始まったのかがわかりにくい病気では、知っているか否かが重要になってきます。
深刻な高齢化が進む日本において、認知症は身近な問題ですから、私たち一人ひとりが病気に対する正しい知識を持っておくことが大切です。

参考:
天津栄子:訪問看護研修テキスト ステップ2 ③認知症の看護.日本看護協会出版会,東京,2005,pp13

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