大学1・2年生の教育にも模擬患者が活躍!その背景と効果を解説
医学部や薬学部では、4年生などで模擬患者と対面する授業が実施されています。
この成果をもとに、1・2年生に対しても模擬患者の協力を得る授業が行われています。
本記事ではその背景と効果、および模擬患者としての心得を解説していきます。
模擬患者が大学1・2年生での教育にも求められる背景
模擬患者が大学1・2年生での教育にも求められる背景には、いくつかの理由があります。
ここでは主な理由を2点取り上げ、解説していきます。
●初対面の人や世代を超えた人間関係に慣れていない学生が多い
現代では核家族化が進み、また地域との関わりを持たなくても生活していけるようになっています。
このため学生は大学に入学するまで、地域の大人と関わりを持たないことも可能です。
このことは学生の意識にも影響を及ぼしています。
たとえば三宅らが行った研究報告には、「対人関係の希薄さにより同世代以外とのコミュニケーションを苦手とする学生が多く」と記されています。
また後藤らが2003年に行った研究報告では、大学生の苦手なコミュニケーションとして、以下の項目が挙げられています。
これらは、医療現場に出ると毎日のように遭遇する場面といえます。
- ○初対面の人との会話(人見知りによるものなど)
- ○マニュアル的な対応でなく、適切な応答と会話の維持が求められる場面
このように、初対面の人や世代を超えた人間関係に慣れない学生も多いです。
実習で模擬患者の協力を得ることは、学生をトレーニングする1つの方法となります。
●模擬患者参加型演習の効果が認められている
大学1・2年生から模擬患者と対面する授業が行われる背景には、医学部や薬学部などで行われている「模擬患者参加型演習」の効果が認められていることがあげられます。
実際に過去の研究では、模擬患者が参加する演習は学生に対し、さまざまな教育上の効果があるという報告があります。
太成学院大学・林らが2018年に公表した研究報告では、以下の項目が挙げられています。
- ○患者をイメージしやすい
- ○コミュニケーションの重要性の認識
- ○コミュニケーション能力の形成
- ○観察から得られる情報収集の重要性の認識
- ○対象への関心や言葉遣いの学び
このため、より教育上の効果を上げる目的で、大学1・2年生から模擬患者と対面させる実習を組む大学も出てきています。
大学1・2年生が模擬患者と対面することで得られる効果
大学1・2年生が模擬患者と対面することには、教員や学生間での実習では得られないメリットがあります。
模擬患者はどのような効果をもたらすのか、本記事では2つの点を取り上げて解説します。
●コミュニケーションの重要性が理解できる
患者さんに適切な対応を取るためには、コミュニケーションも適切であることが重要です。
模擬患者と対面することで、どのような会話をすれば必要な情報を得られるかを体験でき、コミュニケーションの重要性を早い時点から理解できるメリットがあります。
またコミュニケーションの取り方次第で、患者さんに安心感を与えることもできます。
実際に林らの研究報告では、以下の点が挙げられています。
- ○会話を重ねることで周辺情報も収集できる
- ○目先の情報収集が気になり質問攻めにすることは好ましくない
- ○コミュニケーションがスムーズに進まないとアセスメントが表面的にしかできない
また髙﨑らの研究報告では、模擬患者と対面することで「対象に合わせた言語的コミュニケーションを考える機会になっていた」と指摘しています。
質問の仕方によって返ってくる答えは変わり、得られる情報も異なります。
模擬患者と対面することで、コミュニケーションが仕事に重要ということを理解でき、学生の能力を向上させる動機づけとなります。
●現場に近い状況で実習ができる
模擬患者と対面する実習は、お互い初対面であることが特徴です。
これは教員と、または学生同士で行う実習と異なり、お互いに緊張感を持って接することとなります。
またこの状況はより現場に近いものであるため、学生は五感を使って模擬患者と向き合い、情報収集を行った上で対話をしなければなりません。
林らの研究に参加した看護学部の学生からは、「授業よりも患者さんのことがわかってアセスメントや看護展開がしやすかった」という感想が寄せられています。
このため模擬患者と対面することによって、実践的な雰囲気のなかで実習ができ、学生の能力向上につなげることが可能です。
加えて、ほかの授業も実際の場面がイメージしやすくなり、学習効果が上がることも期待できます。
模擬患者が1・2年生と対面する際のポイント
模擬患者となるみなさまが大学1・2年生と対面する際には、重要なポイントがいくつかあります。
なかでも年上だからといって、先輩風を吹かせることは好ましくありません。
ここでは学生のスキルを向上させるために、模擬患者として重要なポイントを解説していきます。
●緊張をほぐす
高校や大学などでボランティア活動をよく行っていた学生はともかくとして、多くの学生は年齢の離れた大人との対応に慣れていません。
そのため模擬患者と対面した学生は、大変緊張しています。
まずは学生に緊張をほぐしてもらうため、話しやすい雰囲気を作ることを心がけましょう。
学生の話をよく聞いて対応することは、よい方法の1つです。
もっとも就職後はこのようなシーンが日常的となりますから、学生には慣れてもらわないといけないことは確かです。
しかし1・2年生は実習や就職まで時間がありますから、急ぐ必要はありません。
●気づきを与える
それぞれの学生には、多かれ少なかれコミュニケーションなどの課題があります。
これは欠点だけでなく、「もっとよい対応ができる」という面も含まれます。
これらの課題を改善するためには、学生自身で「課題がある」という認識を持つことが重要です。
そのため模擬患者は会話のなかで、課題を自分自身で認識できるように気づきを与えることが重要です。
自ら課題を認識して修正できれば将来の糧となりますから、うまく課題に気づいてもらえるよう、伝え方を工夫しましょう。
●長い目で見る
大学生活は4年間から6年間の期間があります。
特に1・2年生は実習に出るまでに時間がありますから、長い目で成長を見守ることが必要です。
そのため「今修正しないとダメ」などのような言動は、学生を委縮させる恐れもあるため望ましくありません。
学生も1人の大人ですから、行動を正すにはまず自分で納得することが必要です。
改善にはある程度の時間がかかりますから、学生の自発的な努力を期待しましょう。
学生の自発的な成長を促すことが重要
大学1・2年生で模擬患者の協力を得る授業を行うことにより、患者さんに対するコミュニケーション能力の向上をはじめ、学習効果の向上が期待できます。
そのためには模擬患者との対面がよい体験であること、また学生の自発的な成長を促すことが望ましいものです。
彼らは、実習に出るまでにはまだ期間があります。
模擬患者となる方は学生とのよい雰囲気作りに努め、また長い目で学生を見ることが大切です。
参考:
三宅由希子,青井聡美,他: コミュニケーション技術習得を目的とした模擬患者参加型演習における教育効果と効果的な演習形態の検討. 看護・保健科学研究誌 第18巻第1号:86-95,2018 .
林由希,熊谷桂子,他: 基礎看護教育における模擬患者参加型演習による学生の学び-対象理解のためのコミュニケーション-. インターナショナル Nursing Care Research 第17巻第1号: 91-99,2018.
髙﨑麗華,細谷ゆかり,他: 基礎看護学実習Ⅰ前後における模擬患者参加型学習の効果 中国四国地区国立病院機構・国立療養所看護研究学会誌 VOL.11: 1-4,2015 .
後藤学,大坊郁夫: 大学生はどんな対人場面を苦手とし、得意とするのか?-コミュニケーション場面に関する自由記述と社会的スキルとの関連-.(2019年3月21日引用)
栗田智未,内野悌司,他: 大学生が考える良好なコミュニケーションがもたらす変化のイメージ.(2019年3月21日引用)
厚生労働省 看護教育の内容と方法に関する検討会報告書.(2019年3月21日引用)
筑波大学 医学群医学類 コミュニケーション実習(1,2,4年次).(2019年3月22日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ