筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリハビリ、ガイドラインもご紹介
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は原因不明の神経変性疾患であり、リハビリの対象となりうる疾患の一つです。
今回はALSのリハビリ、またリハビリに関するガイドラインについてお話しすることにしましょう。
目次
ALSの主なリハビリ対象となる障害は運動、嚥下、呼吸器障害
ALSのリハビリは主に日常生活動作や嚥下訓練、発語や発声がうまくいかなくなった際に自分の意思を相手に伝えるためのコミュニケーションツールの訓練、呼吸リハビリなどが行われます。
●ALSで必要なリハビリは日常生活動作の自立維持と環境整備
ALSは脳から脊髄を通り、筋肉まで行き着く運動神経がうまく機能しなくなる進行性の難病です。
原因や治療法はいまだにわかっておらず、症状に対する対処療法が主な治療法となります。
そのためリハビリでも、困難な日常生活動作に対する対処的な訓練が主なものとなります。
たとえば、手すりを使って安全に段差昇降する方法や杖の使用法、手すりや段差の解消などバリアフリーのための住宅改造などが主な検討課題となります。
●ALSはほかに構音障害、嚥下、呼吸リハビリも必要
ALSでは全身の筋肉に痩せが生じうまく働かなくなりますが、顔や舌、のど、呼吸に関わる筋肉も同じように痩せが生じ、筋力も弱くなります。
そのため、発声が困難になったり、ろれつがまわりにくくなります。
食べ物を飲み込む力も低下しますので、機能を保つために言語聴覚士によるリハビリが必要となります。
主なものとしては、口の周りや舌の筋肉の筋力トレーニングや、顎の関節可動域訓練が重要なものとなります。
また呼吸筋は疲労度などに注意し、過剰な負荷をかけすぎないように運動リハビリを行う必要があります。
ALSのリハビリを行う上で注意したいこと。オーバーワーク
ALSの病態を考慮した上で、リハビリを行う際の注意点があります。
●ALSは筋肉が弱くなっていく。過剰な運動負荷は逆効果となることも
ALSは全身の筋肉が弱くなる神経の病気であるため、筋力増強訓練や日常生活動作訓練なども過剰に行うと疲労を起こしやすくなります。
目安としては、翌日に疲労感を残さない程度のリハビリにとどめるべきだといわれています。
リハビリの翌日にだるさや、今までできていた動作ができなくなるなどの兆候が見られたら、担当のリハビリスタッフに報告するようにしましょう。
ALSに対する主なリハビリとしては、関節の可動域維持のためのROM訓練やストレッチなどがガイドラインでも挙げられており、日常生活動作や呼吸機能の維持のためにも重要です。
例としては、立ち上がりや車椅子に座るために必要な関節可動域の維持、呼吸機能に重要な胸郭の可動域維持のための上肢の可動域訓練や、胸郭や体幹のストレッチなどが重要となります。
●食事の形態も嚥下などに関係するため考慮が必要
嚥下機能を保つための訓練も重要ですが、患者さんの現在の状態に合わせた食事形態の検討も対処的なリハビリとしては重要です。
固い肉などはミンチ状にして利用する、野菜も加熱時間を長くすることで柔らかくなり、咀嚼する筋肉への負担が減ります。
ご飯も水を多めにして炊く、野菜はサラダよりも加熱して柔らかくするなど、食事形態も見直しましょう。
ALSのガイドラインとリハビリ
2013年度にはALSのガイドラインも発表されました。
ガイドラインにはどのようなことが示されているのでしょうか。
●ALSのリハビリガイドラインはエビデンスが十分でない領域も
ALSの治療は疾患による症状がなくなる、もしくは症状の進行か止まるということが目標とはなりません。
そのため統一された治療法があるのではなく、それぞれの疾患に合わせた治療が重要となり、エビデンスの評価段階もさまざまです。
また患者さんや家族の方針によっても治療の方法が異なるため、エビデンスに基づいた治療方針の統一が困難であることも事実です。
●海外のガイドラインは?
アメリカやヨーロッパにおいてもガイドラインが設けられています。
その一部をご紹介しましょう。
アメリカのガイドライン | ヨーロッパのガイドライン | |
---|---|---|
評価項目 | 1)病気の告知 2)症状の管理 3)呼吸管理 4)栄養の管理 5)緩和ケア |
1)告知、2)ケア、3)神経保護治療、4)対処療法、5)遺伝子検査、6)人工呼吸管理について、7)経腸栄養法(胃ろうの増設)、8)コミュニケーション方法、9)緩和ケア |
特徴 | 栄養管理の面での胃ろうの増設やマスクを使った呼吸管理方法であるNIVと呼ばれる人工呼吸器の導入が延命に対してエビデンスの推奨レベルが高いと書かれています。 | 早期診断の重要性について明言されており、日本のガイドラインとよく似ています。 |
どちらのガイドラインにおいても、告知の重要性と呼吸管理、栄養面、緩和などの面でのエビデンスについて明記され、治療方針の参考となるように構成されています。
ALSのリハビリはできる限りの日常生活動作の自立と維持、そのための工夫が重要
ALSは進行性の神経筋疾患であるため治療は対処療法が主なもので、リハビリを行う上で過剰な負荷をかけすぎないなどの点に注意する必要があります。
日常生活をできるだけ自立させるために、その時の患者さんの状況に合わせて生活環境や食事などを考慮していくことが大切です。
参考:
日本神経学会 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013.(2019年6月24日引用)
日本神経学会 筋萎縮性側索硬化症診療ガイドライン2013 リハビリテーション.(2019年6月24日引用)
難病情報センター 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 指定難病2.(2019年6月24日引用)
厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業 ALS在宅療養者ガイドブック.(2019年6月24日引用)
-
執筆者
-
1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士