重症肺炎ではECMO(人工心肺装置)が必要?その仕組みと役割について解説します
世間では新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、肺炎が重症化するとはどういうことか、ICUに入ってどんな治療が行われるのか、不安になる方もいるでしょう。
また、「ECMO(人工心肺装置)」というワードをニュースで見て、「人工呼吸器とは違うの?」と疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。
重症肺炎とはどういう状態なのか、人工心肺装置とはどういうものかについて、わかりやすく解説したいと思います。
目次
ECMO(人工心肺装置)の目的は、機械を使って心臓と肺を休ませること
まず最初に、人工心肺装置の目的について、そして人工呼吸器との違いについて解説したいと思います。
●肺炎ではなぜ肺の機能が障害されるのか
肺や心臓の機能が大きく障害されると、酸素の取り込みやポンプ機能による送り出しなど、本来の役割を担えなくなります。
肺炎では、菌やウイルスの感染によって体の炎症反応が高まり、血管内から血管外へ水分が漏れでてきます。
そのため、空気の通り道が狭くなったり、酸素を取り込むスペースが狭くなるので、体への酸素の取り込みが障害されてしまいます。
その障害の程度によって、鼻チューブの酸素投与からマスクでの酸素投与、人工呼吸器や人工心肺装置の装着などさまざまな治療方法が選択されます。
●人工心肺装置は、機械を用いて心臓と肺の機能を補う
前述したように、酸素吸入などでは体へ十分な酸素量が入らない場合、人工心肺装置が用いられます。
重症肺炎における人工心肺装置の役割は、機械が酸素の取り込み機能を代わりに行い、その間に肺を休ませてあげることです。
本来、心臓から送られた血液は動脈によって全身に送られ、それぞれの組織で酸素を渡したあとは静脈によって心臓に戻ってきます。
その後、心臓に戻ってきた酸素量の少ない血液へ、新鮮な酸素を供給してあげることが肺の役割になります。
そのため、肺炎における人工心肺装置は、静脈から抜き取った(脱血)血液に酸素を供給して、再度体の中に戻してあげる(送血)ことが目的になります。
その際、特殊な膜を経て酸素が供給されるため、人工心肺装置はECMO(体外式膜型人工肺 通称エクモ)と呼ばれています。
●人工心肺装置と人工呼吸器との違いは?
肺の代わりをする装置として、一般的には人工呼吸器のほうがなじみ深いのではないでしょうか。
人工呼吸器は、人工的に空気を取り込むことが主な目的になるため、ある程度肺の機能が残存している必要があります。
人工呼吸器では、酸素を送る圧力や酸素濃度を調節しますが、肺の機能が重度に障害されている場合では効果が期待できません。
わかりやすく分類すると、肺の機能が中等度障害されている場合は人工呼吸器、重度に障害された場合は人工心肺装置と考えてよいでしょう。
人工心肺装置は全身状態に合わせて2パターンの働きがある
人工心肺装置は、肺の代わりをする場合と、心臓の代わりもする場合とで、大きく2つの治療パターンに分類されます。
●人工心肺装置はV-V ECMOとV-A ECMOの2パターン
◯重度な肺障害はV-V ECMO
前述したように、重症な肺炎などで肺の機能が極端に障害されている場合に人工心肺装置が使用されます。
この場合、静脈の血液に酸素を供給してあげることが目的ですので、静脈(vein)から抜き取り、静脈(vein)に返すというルートになるため、V-V ECMOと呼ばれます。
V-V ECMOでは、心臓の機能が十分に保たれていることが必要であり、あくまでも酸素の受け渡しを補助することが目的になります。
◯重度の心機能障害+重度の肺障害はV-A ECMO
V-V ECMOでは、肺の代わりをすることで酸素供給が可能ですが、心臓の機能が大きく障害されていると全身に新鮮な血液を送ることができません。
たとえば、重症の心筋梗塞や不整脈による心肺停止の場合、心臓のポンプ機能も障害されているため、なんとかして血液の送り出しをサポートしなければいけません。
このように、心臓と肺の機能が両方低下している場合、静脈(vein)から抜き取った血液を動脈(artery)へ送り出す場合はV-A ECMOと呼ばれます。
V-A ECMOの場合、新鮮な酸素を受け取った血液は、鼠径部(脚のつけね)の大腿動脈から心臓に向かって勢いよく送り出されます。
また、脱血と送血部位は異なりますが、心臓手術の場合も肺と心臓の役割を担うために人工心肺装置が用いられます。
人工心肺装置はPCPS(経皮的心肺補助)という呼び方をされる場合がありますが、このPCPSはV-A ECMOと同義語になります。
●人工心肺装置と一緒に使用される機器は?
集中治療室(ICU)では人工心肺装置以外にもさまざまな医療機器が使用されています。
重症肺炎の場合では、V-V ECMOでの肺保護だけでなく、人工呼吸器もセットで使用されます。
「肺を休めるための人工心肺装置なのに、人工呼吸器も使うの?」と疑問に思うかもしれませんが、肺の膨らみを保つために欠かせません。
酸素を取り入れる必要がないため高濃度の酸素は使用せず、圧力を調整して肺の膨らみをサポートしています。
また、重症の心機能障害の場合、V-A ECMOに加えてIABP(大動脈バルーンパンピング)という機器が用いられることがあります。
IABPは、大動脈内でバルーンを拡張または収縮させることで、心臓のポンプ機能をサポートすることが目的です。
高度な医療機器がついているとリハビリはしない?リハビリ専門職が答えます
最後に、ICUで勤務するリハビリ専門職の立場から、複数の医療機器がついている重症な患者さんへのリハビリについて述べたいと思います。
●リハビリの適応は、医療機器の種類や全身の状態によって異なる
ここでは、いくつかの機器を例に挙げて、リハビリの適応やその内容についてご紹介します。
◯人工心肺装置がついている場合
人工心肺装置がついているということは、機械を使ってなんとか生命を維持している状態になります。
また、鼠径部のチューブのずれや損傷などは生命維持に直結するため、原則ベッド上安静となります。
加えて、血圧や心拍などが安定していても、チューブ類やアラーム音が精神的ストレスになるため、患者さんは鎮静剤で眠っていることも多いです。
ただし、集中治療に特化し、高度なトレーニングを積んだスタッフが多く在籍している病院では、体を起こすリハビリが行われる場合もあります。
◯人工呼吸器がついている場合は?
ECMOがなく人工呼吸器のみの場合、体内の酸素量や血圧の状態などを確認しながら、起きる練習を進めていくこともあります。
ただし、リハビリによって体内の酸素量が低下する場合や、治療の必要上、鎮静剤で眠っておられる場合などは、手足の関節運動程度にしています。
◯長時間の透析をしている場合は?
ICUでは全身状態が不安定な方に対して、長時間の透析(24〜48時間)を行うことがあります。
透析中は血圧が下がる患者さんが多く、あまり積極的な運動を行うことは推奨されませんが、ベッド上での下肢運動などを行うことがあります。
全身状態が安定している場合は、理学療法士や看護師など多職種が協力して起きる練習を行います。
●全身の状態を把握し、1日でも早くリハビリを開始することが大切
肺炎や心不全でICUに入室した場合、人工心肺装置や人工呼吸器などの医療機器が用いられるため、ICU入室=重症ということになります。
そのため、集中治療の領域では生命維持が最優先となりますが、治療上の安静期間が長くなると全身の筋力低下や認知機能低下につながります。
「集中治療が必要なのにリハビリ?」と疑問を持つ方もいると思いますが、そこには理由があります。
病気自体が良くなっても、運動機能が落ちて寝たきりになってしまったのでは、退院後に自立した生活が送れなくなります。
特に、高齢者が重症感染症や心不全で入院した場合、身体機能の低下が速く、場合によってはもとの状態まで改善しないこともあります。
ただ、一般的なリハビリとくらべるとハイリスクであるため、治療経過の把握や検査結果の解釈など、職種間での情報共有が必要になります。
そのため、ICUでのリハビリに関しては、十分な知識と技術を持ったスタッフが担当しています。
ICUスタッフからのメッセージ、「ICUでも患者さんは頑張っています!」
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、「重症化」や「人工心肺装置」というワードがでると不安に思う方も多いでしょう。
ただ、もしご家族や周りの方がそうなったとしても、「もう助からない」とすぐに悲観するのではなく、治療経過を見守ってあげてほしいと思います。
2020年4月現在、世界中で外出規制や営業停止など暗いニュースが多いですが、医療現場では日々戦いが繰り広げられています。
勤務している医療スタッフはもちろんですが、1番頑張っているのは患者さん自身であり、つらいなかでも懸命に治療やリハビリに向き合っておられます。
まだまだ苦しい状態が続くかもしれませんが、再び元気な日本が戻ってくるよう、わたしたち一人ひとり理解しあって協力し、この困難を乗り越えていきましょう。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士