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認知症

国がすすめる認知症の患者さんを支える新しい社会とは 認知症施策大綱を解説

超高齢社会である日本では、増加し続ける認知症患者への対策とサポート体制の構築が大きな課題となっています。
認知症患者がサポートを適切に受けることで、住み慣れた地域で生き生きと自分らしく尊厳と希望を持って生活ができるようになります。
地域を核にした認知症サポーターの方との協力・連携を行うことなどを目標として令和元年に閣議決定された「認知症施策推進大綱」について今回は解説します。

認知症患者と家族を支える認知症サポーター

認知症の対策とこれまでの取り組み

認知症の対策とこれまでの取り組み

2007年に超高齢社会となった日本。
認知症患者は2012年には約462万人であったのに対し、2020年には600万人を超えて2025年には約700万人になり、今後も増加し続ける予測が立てられています。
そのため、国は認知症対策としてさまざまな取り組みを行ってきました。
2000年に介護保険法成立後、認知症に特化したサービスとして認知症グループホームを設立しました。
介護保険の要介護や要支援の認定数は2000年4月には約218万人であったのが、2020年10月には約678万人と増加しています。
今後、認知症の方は年々増加していくと考えられる上に、施設・病院での介護から在宅介護へ移行する流れが推進されているため、ご本人およびご家族を社会がサポートし、安心して生活できる仕組みが必要となっています。
認知症の方の意思が尊重され、住み慣れた土地で穏やかに自分らしく生活するために、2005年の認知症サポーターの養成講座の開始をはじめ、2012年にはオレンジプラン、2015年には新オレンジプランとして内容が改められました。

認知症サポーターとチームオレンジとは?

認知症サポーターとチームオレンジとは

認知症サポーターは「認知症を正しく理解し、認知症の方を温かく見守り、自分ができる範囲で手助けをする人」です。
さらに認知症の心理面や生活面を早期から理解したコーディネーターと認知症サポーターを患者さんとつなげる仕組みを作ろうという取り組みが「チームオレンジ」です。
認知症サポーターになるには、都道府県や市町村などの自治体や企業が開催する「認知症サポーター養成講座」の講習を約90分受講することで誰でもなることができます。
地域や職場で、認知症の患者さんや家族をサポートする認知症サポーターは腕につけているオレンジリングが目印となります。
「認知症サポーターだから必ずこれをやらなければいけない」といったような、なにか特別なことをする必要はなく、養成講座を受けたあとに無理なく自分の生活範囲でできる範囲のお手伝いをしてもらう形となります。
主な活動としては

  1. ①認知症患者さんの見守り
  2. ②認知症患者さんの気持ちを聞く、傾聴
  3. ③オレンジカフェ(地域住民と認知症の患者さん、そのご家族が交流できるカフェ)の開催
    https://ogw-media.com/kaigo/cat_manager/4197
  4. ④認知症患者さんの外出支援
  5. ⑤認知症サポーター養成講座を開催する際の協力
  6. ⑥子どもと認知症患者さんとの交流
  7. ⑦通所施設や入居施設の行事協力
  8. ⑧SOSネットワークなどへの協力

などが挙げられます。
認知症サポーターは2020年12月時点で約1,300万人いますが、特に企業や職場で活躍する認知症サポーターを400万人育成することを目標としています。

認知症の3つの予防とご本人にあわせた認知症の対応、ケアパスを

また、認知症の発症を予防するだけでなく、認知症になるのを遅らせる、認知症になったとしても進行をゆるやかにするということを目標にしています。
認知症の予防には、

  1. ①認知症の発症を遅らせ、認知症のリスクを減らす一次予防
  2. ②認知症の症状を早期発見・早期対応する二次予防
  3. ③認知症が重症化するのを防ぎ、行動や心理症状であるBPSDの予防をする三次予防

の3つの予防があります。
以下でそれぞれについてご紹介します。

①認知症の発症を遅らせ、認知症のリスクを減らす一次予防

認知症の発症を遅らせ、認知症のリスクを減らす一次予防

認知症の予防に関する、医学的根拠の収集、認知症になりやすい遺伝子や生活習慣などのリスクなどの研究を行っています。
運動不足や糖尿病、高血圧などの生活習慣病が認知症発症のリスクであることがわかっており、スポーツやボランティア、趣味などの社会参加が多いほど、認知症やうつ、転倒などのリスクが低い傾向にあります。
そのため、食生活の改善、運動の習慣づけや何らかの社会参加を行うことを推奨しています。
現在、空いているお寺や喫茶店などで認知症の患者さんだけではなく、高齢者などの住民自体と見守るサポーターが集まる憩いの場を増やす工夫をしています。

②認知症の症状を早期発見・早期対応する二次予防

認知症の症状を早期発見・早期対応する二次予防

認知症予防から人生の最終期まで、認知症の進行具合に応じ、相談先やいつどのような医療、介護サービスを受ければよいのかを標準的に示す、認知症ケアパスを作っていくことも地域で整理していく今後の目標とされています。
地域の高齢者の保険、医療、介護に関する総合相談窓口である地域包括支援センターおよび認知症疾患医療センターを含めた認知症に関する相談体制を地域ごとに整備し、窓口へのアクセスの方法についても整備していくこと、認知症ケアパスを使うことで、スムーズに患者さんや家族がサポートを受けられるように地方自治体で整備していくことが重要です。
現在約6割の市町村が認知症ケアパスを利用しています。

③認知症が重症化するのを防ぎ、行動や心理症状であるBPSDの予防をする三次予防

認知症が重症化するのを防ぎ、行動や心理症状であるBPSDの予防をする三次予防

認知症を発症した後、性格や環境、人間関係などの要因により精神状態や行動に支障が起きること、BPSD(認知症の中核症状と行動・心理症状)が現れることで、生活や介護に困難をきたします。
どのようにBPSDを予防し、どのようにケアして向き合っていくかを、国として考え、取り組んでいこうとしています。
認知症を引き起こす病気の種類や個人の性格により、出現する行動心理状態・BPSDは異なります。
そこでスウェーデンのケアプログラム、NPI(Neuropsychiatric inventory)を参考に、BPSDを10個の項目に分けて評価の尺度とし、介護者が感じている困難を見つけ出し、対応することを目的としています。
10個の項目のうち、認知症疾患医療センター外来受診者で認知症の患者さんの心身の症状について、表出割合が高い順に列挙していきます。

  1. ①無関心(57.5%)
  2. ②興奮(54.2%)
  3. ③易刺激性(44.7%)
  4. ④不安(39.7%)
  5. ⑤妄想(36.9%)
  6. ⑥うつ(30.7%)
  7. ⑦脱抑制(26.3%)
  8. ⑧異常行動(22.9%)
  9. ⑨幻覚(22.2%)
  10. ⑩多幸(8.4%)

また項目ごとに介護者自体がどのように気持ちの負担が大きいかを評価するNPI-Dもあり、点数順に並べると、②興奮③易刺激性⑤妄想⑦脱抑制となり、この順に介護負担が高いことがわかっています。
介護者やご家族が原因でこのようなBPSDが認知症の患者さんに現れるわけではなく、認知症という脳の病変により不安を抱きやすいため興奮しやすく、怒りっぽくなっていることを理解しすることが重要です。
介護者やご家族が楽しい雰囲気をつくり、褒められたり、おだてられたりすることができるようになれば、不安がなくなり、問題行動が減るためにそのような対応が求められます。
現在、NPIを利用することで、認知症患者の行動に困ってしまう頻度が減った、認知症患者にどうしたらよいかわからないと思う頻度が減ったという解答が多く、効果はあると考えられます。

認知症の患者さんが生き生きと生活するために

超高齢化社会の中で、認知症が身近な病となってきた昨今でも、実際に認知症を発症した患者さんご本人はショックですし、ご家族の方も、どのように接してよいかわからず困る部分も大きいかと思います。
認知症サポーターに相談する、あるいは興味を持って自分が認知症サポーターに登録し、地域の方と連携をとってみるのはいかがでしょうか。
地域とつながりを持ち、認知症患者さん自身も見守りを受け、同じような仲間ができることで、生き生きと生活ができ、認知症の進行を予防することができます。
また、家族もいざとなれば相談できる存在が身近にあることを確認できれば、より安心して生活がしやすくなるでしょう。
特に手がかかってしまうのは、認知症の中核行動であるBPSDが発現してしまった場合ですが、今どのような状況にいるのかを患者さん本人と家族が正しく理解すること、対処の仕方を専門の方と一緒に考えていくこと、新たなBPSDを予防することを一緒に学んでいくことで安心感を得られるのではないでしょうか。
ご本人さんが尊厳を持って、ご家族と良い関係を持ちながら、住み慣れた地域でなるべく長く生活するために、継続して検討していく課題でもあります。

参考:
山口晴保, 他: 認知症疾患医療センター外来のBPSDの傾向:NPIによる検討. 認知症ケア研究誌1: 3-10, 2017.
厚生労働省 「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」について(2021年1月17日引用)

  • 執筆者

    佐々木

  • 大学卒業後9年目医師です。 外科系医師として勤務し、手術の傍ら、医療系のライターの仕事をしています。救急の分野を得意とし、医学的根拠に基づいた記事を提供していきたいと思っております。

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