視機能の低下したロービジョン患者さんには視覚補助具・スマホ・タブレットが便利!
超高齢化社会に伴い、緑内障や糖尿病などにより視力低下や視野欠損をきたす高齢者のロービジョンの患者さんは増えています。
高齢者は自身の心身の衰えの自覚から、積極的に見えるようになりたいと思う気持ちが低く、ロービジョンケアに前向きに取り組みにくいことが特徴です。
「見えないからできない」のではなく、「見やすくなってできる」ようになるために、スマホやタブレット、視覚補助具などの便利な道具を活用し、工夫をしましょう。
目次
視機能低下の種類、見にくさの表現について
失明とは、矯正視力(眼鏡などで補正した視力)が0.05未満から光を感じられないもの、もしくは、視野が中心10°以下になってしまったものをいいます。
WHOでは視力が0.05以上から0.3未満の状態を「ロービジョン」と定義しています。
成長や発達、あるいは日常生活や社会生活に支障をきたすようなロービジョンの視力や視野欠損の患者さんは超高齢社会の昨今、加齢に伴う病気やけがなどにより増加傾向にあります。
https://ogw-media.com/smile/cat_doctor/4503
患者さんの見にくさ、視機能低下の種類には下記のようなものがあります。
- 1. 像がぼやけてはっきり見えない
- 2. 像がゆがんで見える
- 3. まぶしい
- 4. 色がわからない
- 5. 視野が狭い、欠けている
- 6. 薄暗くなると見にくい
- 7. 視線を向けているところが見えない
などがあります。
今までなにげなく行っていたことが見にくいため徐々にできなくなっていることが多く、そういったことを「うっかりしているからだ」「歳だからしょうがないね」というように言われ、家族や本人も思い込んでしまっているかもしれません。
高齢のロービジョン患者さんの特徴とは
「高齢者の日常生活に関する意識調査結果」によると、高齢者の日常の楽しみとして、テレビやラジオ(83.2%)新聞や雑誌を読むこと(55.0%)、同じ趣味を持つなど気の合う人と集まってしゃべること(47.7%)と、情報を得て人と交流することに楽しみを得ている人が多いため、新聞や本・雑誌が読めない、身近な人の顔がわからないということは非常なストレスです。
健常な方であっても加齢に伴って、寒色(青や緑)の判別がしにくくなるため、シャツのシミに気がつきにくかったり、左右の靴下の色を間違えたりすることがあります。
また、急に暗いところに入ると見づらくなってしまうなど暗順応の低下といった特徴もあります。
若年者の10倍ほどの明るさが必要なこともあり、コントラストをしっかりつけた太い文字や濃い線を使ってわかりやすくすることが必要です。
特に高齢者のロービジョンの患者さんは身体能力が落ち、どうしても見えるようになりたいという意識が低くなりがちです。
保守的になってしまい、新しい考え方や物を受け入れにくくなってしまう傾向にあります。
見やすくなりたいという前向きな気持ちが薄くなりがちなため、ロービジョンケアのためのトレーニングや眼科への通院が継続できない可能性があります。
患者さんが気持ちよく生活ができるように具体的な目標設定をする
現在、どのように見えているか、何に困っているかを知るためには、まずは眼科を受診することが必要です。
眼科での視力検査や視野検査、眼底写真などの検査結果は患者さんがどのように見えているかの客観的なデータとなります。
眼科医や視能訓練士などの眼科スタッフから、眼科検査の結果を教えてもらい、本人がどのように見えているか、何に今困っているかをしっかり理解することが大事です。
視力や視野を失った患者さんにとって、本来の希望は「元通りに治したい」ということにあると思いますが、医学的にこれ以上の視力や視野が望めないとしても、「読み書きに不自由ないように良くなりたい」「孫の顔の写真が見えるようになりたい」「子供とスマホで電話をしたい」「料理をしたい」などと具体的に目標を設定することが大事です。
そういった目標達成のために視覚補助具を使用すると、見やすくなることも多いため、参考にしてもらえれば幸いです。
残存する視機能を最大限に利用するために使用する視覚補助具
視覚補助具ですが、以下のようなものがあります。
- 1. 屈折を矯正;眼鏡(遠用眼鏡、近用眼鏡、遠近両用など)
- 2. まぶしさを防ぐ;遮光眼鏡、タイポスコープ
- 3. 拡大する;至近距離用眼鏡、拡大鏡(ルーペ)、据え置き拡大読書器、携帯用拡大読書器、単眼鏡
- 4. 文字を音声にして拾い上げる→音声パソコン、スマホアプリ
- 5. 周りを囲むことで、本の読みたいところだけを拡大し、読み間違いを防ぐ→タイポスコープ
- 6. 読みものの角度をずらすことで、姿勢が楽になる→書見台
見やすくするための工夫として、
- 1. 明るさやコントラストを調整すること
- 2. しっかりと拡大、縮小すること
- 3. 距離を調整すること
- 4. 眼鏡をしっかり合わせること
- 5. 見やすい方向に眼もしくは物を動かすこと(偏心視)
視覚補助道具はこういった工夫をもとに作られています。
身体障害手帳(視覚障害)をお持ちの方や規定された難病指定の方はこのような視覚補助具を購入する際に給付金が支給される場合がありますので、各市町村の障害者窓口にご確認ください。
また遮光眼鏡や矯正眼鏡、弱視眼鏡は医師の意見書が必要ですので、かかりつけの眼科医にご相談ください。
●本や新聞が読みにくくて悩んでいる患者さんのために
どの年代の患者さんにとっても、一番の悩みは本や新聞が読めないことにあります。
特に学生さんは勉強のときに字が読みにくいと勉強ができないため、将来に大きな影響を及ぼします。
本を読むための視力は、5mの遠くの距離でどれくらいの大きさのものが見えるかを測る、遠見視力検査で調べることができます。
しかし、どの程度の字の大きさを読めるかというのは非常に重要であり、読書をする距離・文字の大きさで視力を測る近見の視力検査(MNREAD-Jなど)をしっかり行う必要があります。
勉学に困難を生じる可能性があるため、学生さんのために拡大読書器を使用するか、どの拡大教科書を使ったらよいかなどを検討する材料にもなります。
最近ではデジタル教科書の導入も検討されています。
読書をするに当たって「どれだけ拡大したら見えるか」「どれだけ明るくしたら見えるか」などが非常に大事になってきます。
まず、ご本人にとって本が読みやすい明るさがどれくらいなのかを聞いて、照明を設定することが大事です。
拡大機能を果たすものとして、虫眼鏡のような役割を果たし、拡大して字を読みやすくする眼鏡や、字を拡大する拡大読書器などがあります。
音声パソコンはネットの記事などを音声にして読んでくれます。
また、拡大読書器は拡大だけではなく、白黒のコントラストの反転ができるので、より読書が楽になります。
●スマホやタブレットは特に便利
スマホ、特にタブレットは非常に便利な視覚補助具になります。
持ち運びもしやすいこと、カメラの解像度が高いこと、画面を簡単に拡大縮小しやすいため、どんなに小さな字、遠くの小さなものでも簡単に拡大して見ることができ、明るさの設定や白黒の反転も簡単にできます。
壁に貼っている掲示物や黒板から、手元のレシートや値札までカメラを使用して拡大できます。
また、アームを利用して端末を固定すれば、手を使わないため両手で作業ができ、フラッシュやライトの機能を使用すれば暗い場所でも見やすくなります。
電子書籍を使用すれば見やすい大きさや配色での読書も可能です。
また、最近ではAmazonオーディオブックなどのサービスで、本を文字としての視覚ではなく、音声としてナレーションを聴くことでさまざまな本が読めるようになりました。
webのページを音声として読み上げてくれるNetReaderというソフトもあります。
マップを利用すればカーナビのように方向や距離を教えてくれます。
ロービジョン患者さんの気持ちに寄り添い、視覚補助道具をしっかり使おう
患者さんの視力や視野などの視機能の喪失により、行動範囲が狭くなってしまうこと、それに伴い普段できていたことができなくなってしまうことがあります。
まず、眼科にしっかり通って、眼科医、視能訓練士などの眼科スタッフと協力しながら、検査結果をしっかり知ることが大事であり、「ここまで見えている」「ここの部分が見にくいために困る」ということがご本人だけでなく、ご家族もわかることが大事です。
そして生活の中で具体的にどういったことで困っているのか、何をできるようになりたいのか、具体的な目標をしっかり立てましょう。
患者さんにとっての「生きがい」や「やりがい」を一緒に見つけていき、それに関連させてロービジョンケアを行うこと、さまざまな視覚補助具を使用すれば見やすくなることを確認できれば良いでしょう。
スマホやタブレットなども含め、便利な道具を利用して患者さんが少し見にくいかもしれないけれど、生活がしやすいように……そういった工夫がされることを祈っています。
参考:
内閣府 平成26年度高齢者の日常生活に関する意識調査結果 (2021年3月13日引用)
日本ロービジョン学会: 見やすい!を手に入れよう. 2016.
山本修一: 専門医のための眼科診療クオリファイ ロービジョンケアの実際. 中山書店, 東京, 2015.