アメリカでの新型コロナウイルスワクチン接種はどうなっている?スケジュールと廃棄で問題点が浮上
日本でも本格的に始まった新型コロナウイルスのワクチン接種。
一足早くに接種を始めたアメリカではどのように進み、どのような問題が起こっているのか。
筆者の住むアメリカで起こっている問題をお話しします。
目次
アメリカでは年齢や職業でクラス分けして段階的に新型コロナウイルスワクチンを接種
いち早く新型コロナウイルスワクチン接種が始まったアメリカでは、医療従事者の次にどういった属性の人が接種対象になるのでしょうか。
今後日本でも始まる一般接種の予測の参考になると思いますので以下に記します。
●医療従事者の次は高齢者と教職員。老人ホームの利用者やスタッフも優先
アメリカでは、年齢や職業などでクラス分けして段階的にワクチン接種できるように計画されています。
フェーズ1a: | 医療従事者、長期入院もしくは入居施設の患者さんや入居者(老人ホームや医療介護施設に入居している人) |
1b: | 75歳以上の高齢者、人々の生活に必要不可欠な職業(教員、消防士、警察官、郵便局職員、公共交通機関に勤務する人、スーパーマーケットなどの職員)に従事している人 |
1c: | 64〜75歳の高齢者、16〜64歳のリスクの高い持病がある人、そのほかの必要不可欠な職業に従事している人 |
フェーズ2: | 16歳以上のフェーズ1以外の人 |
と区分されていて、感染するリスクがある人や感染すると重症化する恐れがある人、また感染源である新型コロナウイルスに暴露される可能性が高い人などから順にワクチン接種を行っています。
●アメリカではワクチンの費用はどうなっているのか
現在のところアメリカでは、ワクチン接種の予約の際に保険証の番号などを聞かれることはありません。
国民のすべてが医療保険を持っていないアメリカにおいても、今回の新型コロナウイルスワクチン接種は医療保険の適用になり、医療保険のない人は州から諸経費が支払われます。
そのためワクチン接種者本人が費用を負担することはありません。
パンデミック終息のために、国が費用を負担して路上生活者でもワクチン接種ができるようになっています。
アメリカの新型コロナウイルスワクチン接種スケジュールに関する問題
アメリカでは医療従事者の次に高齢者へのワクチン接種が行われ、インターネットでの予約、かかりつけ医でのワクチン予約が実施されました。
アメリカでは一体どのようなことが問題となったのでしょうか。
●高齢者のワクチン接種は電話予約かインターネットでの予約も。情報伝達に問題
アメリカにおけるワクチン接種に関する予約は、希望者が
- 1. ワクチン接種を受け付けている医療機関に連絡する
- 2. 管轄の保健局に電話して予約する
- 3. インターネットで地域の薬局もしくは保健所、医療機関での接種予約を行う
のだいたい3つの方法に分けられます。
つまり、英語の理解できない外国人や自宅にテレビやラジオなどの通信機器がなく情報を得られない人は取り残されてしまうということになります。
また、保健所や医療機関の電話も通じないことが多く、ワクチン接種の必要な高齢者が、詳細な情報を確認し、予約をするのが困難な状態であることが大きな問題となっています。
●ワクチン接種の予約はインターネットになじみのない高齢者には問題も
前項の3にあるインターネットでのワクチン接種予約は、インターネットやスマホなどをあまり利用しない高齢者にとっては大きな障壁となります。
薬局などで予防接種ができるアメリカでは、予防接種が気軽に受けられるという印象を受けるかもしれません。
しかし、大手薬局チェーン店やスーパーマーケットなどの場合、予防接種を受けるための予約を店頭でしようとしても、本社で予約をコントロールしているためインターネットでの予約しか受け付けていない店舗もあります。
そのため、近隣に住んでいる人や家族などが高齢者の予約の手続きを手伝っているケースもよく聞きます。
日本が行う予定の郵便による予約券の送付は、こうした通信技術や情報伝達から取り残されがちな高齢者にとっては得策といえるでしょう。
新型コロナウイルスワクチン接種における輸送とスケジュールの課題
対象である高齢者の人的な問題のほかにも、輸送やスケジュールなどでも問題が生じました。
●アメリカにおける大きな障壁は低温のワクチン輸送。天候にさえぎられ、2月はワクチン接種が進まなかった州も
アメリカは日本よりも国土が広く、輸送に時間がかかる点が懸念された課題の一つでした。
また、飛行機や陸路での輸送は天候に大きく左右されるため、冬の大雪や道路の凍結などで、一番冬の寒さが厳しい1月末から2月には滞りがちです。
ほかにもハリケーンや雨天などの天候に左右されやすい輸送事情は、ワクチン接種にも影響をおよぼす可能性があります。
日本の場合は輸送経路や手段が確立されており、アメリカほどの大きな影響はでないものの、ファイザー社のものであればマイナス70度という極低温での管理が必要な新型コロナウイルスワクチンの輸送においては温度管理が最大の難点となっています。
●ワクチン接種に際し、解凍後の使用期限とスケジュールを合わせることも大きな障壁に
新型コロナウイルスワクチンは極低温で保管されたワクチンであれば30日間、解凍後摂氏2〜8度に保たれた状態で5日間は保存することが可能です。
ワクチンは解凍してから接種しますが、いったん解凍してしまうと5日以内にワクチンを使い切る必要があります。
ワクチン接種をするときには、
- ○1日に可能な接種人数
- ○医療従事者の確保
- ○注射器の確保
- ○ワクチン接種後に一定時間アナフィラキシーにならないかどうかの観察が可能な場所
が必要となります。
たとえば、ワクチンを接種する予定だった人がコロナにかかってしまい来場できなかった、交通事情などの諸事情によって来場しなかった場合などには、スケジュールを改めて調整する必要があります。
しかし、あらかじめ解凍してしまったワクチンを無駄にすることはできません。
そのため、ワクチン接種の会場で余剰となってしまったワクチンを接種するために、若年層など対象フェーズ外の人たちが待機しています。
このことは不公平さから大きなニュースにもなっています。
また、余剰ワクチンを検索できるアプリまで登場しているようです。
日本でも健康問題などで直前に接種ができなくなった場合には、同様の問題が起こりうる可能性は否めないでしょう。
アメリカで起こっている新型コロナウイルスワクチン接種の問題は日本でも起こる可能性も
日本でもこれから行われる新型コロナウイルスワクチンの予防接種に際してアメリカで現在行われているクラス分けや課題などについて取り上げました。
輸送に関しては、季節や日本の輸送システムの関係からも大きな支障はでないかもしれませんが、接種スケジュールについては直前のキャンセルへの対応などは起こりうる問題となりそうです。
一部分はアメリカと同じ課題や問題が生じる可能性もありますので、今後の参考の一つとして皆さまの役に立ちましたら幸いです。
参考:
Michigan Department of Health & Human Services COVID-19 Vaccines Frequently asked questions(2021年3月16日引用)
CDC(Centers for Disease Control and Prevention) Phased Allocation of COVID-19 Vaccines(2021年3月16日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士