がんの生存率が10年後まで公表!データを正しく解釈するために知っておきたいポイントを解説します
これまでがんの生存率は5年後までの公表でしたが、2021年に初めて、国立がん研究センターから10年生存率が公表されました。
データを正しく見るためには、押さえておきたいポイントがあります。
主なポイントについて、確認していきましょう。
目次
画期的な「がん10年生存率」の公表。メリットとデメリットがある
がん10年生存率の公開は画期的といえます。
まずは2008年の「10年生存率集計報告書」をもとに、メリットやデメリットを考えていきます。
●5年を過ぎたがん患者に対し、有用な情報を与える
これまで「がん5年生存率」のデータは公開されていましたが、その後の経過は未公開でした。
がん10年生存率の公表に伴い、5年を過ぎたがんの経過を知ることも可能となった点はメリットといえます。
特に以下のがんは早期に治療した場合、5年生存率と10年生存率の違いが少ないことが特徴です。
- ○大腸がん
- ○子宮頸がん
- ○子宮内膜がん
- ○前立腺がん
患者さんにとっても、より先の未来まで見通せること、将来安心して過ごせる期待と希望を持てることがメリットに挙げられます。
●5年を過ぎても、生存率が低下し続けるがんもある
一方で残念ながら、治療後5年を経過しても生存率が下がり続けるがんもあります。
以下に挙げるがんはステージⅠの段階で治療を受けた場合でも、生存率は年を追うごとに低下し続けています。
- ○肝細胞がん
- ○肺がん
- ○食道がん
- ○膀胱がん
該当する患者さんが不安を感じることは、自然なことでしょう。
データを解釈する際に押さえておきたい4つのポイント
データを解釈する場合は、ぜひ知っておきたいポイントが4つあります。
それぞれのポイントを理解し、正しい解釈にお役立てください。
●13年前に「がん」と診断された方のデータ。医学は進歩を続けている
今回公開された「がん10年生存率」は、2007年と2008年にがんの診断を受けた方が対象です。
もちろんその間、医学は進歩を続けており、新しい治療法も生まれています。
このため、これから治療する方にそのままあてはまるとは限りません。
たとえば10年生存率が低いがんにかかった場合でも、早期に発見してしっかり治療すれば、長生きできる可能性はあります。
●年齢が高いほど、見かけの生存率は下がることに注意
高齢になると、すべての死亡を含めた生存率(実測生存率)はどうしても下がりがち。
これは、がん以外の理由で寿命を迎える方も多いためです。
一例として、以下の要因が挙げられます。
- ○心疾患
- ○老衰
- ○脳血管疾患
- ○肺炎
厚生労働省の2019年「人口動態統計」によると、死因のうち「悪性新生物<腫瘍>」による割合は27.3%。
7割以上の方の死因はがん以外であり、特に高齢者の場合は実測生存率を大きく押し下げる要因です。
たとえば厚生労働省の「簡易生命表」を見ると、75歳の男性が85歳まで生きる確率は62.8%。
たとえ100%近い成功率を誇る治療法があったとしても、この治療を75歳の男性に施した場合、10年後の実測生存率は62.8%以上になりません。
これは不合理ですから、治療効果を正しく知るためにはがんに絞った生存率を算出する必要があります。
そこで使われる指標が、「相対生存率」です。
相対生存率は、がんが原因で亡くならない確率を意味します。
たとえば男性で大腸がんにかかった方の生存率は、以下の通りです。
年代 | 実測生存率 | 相対生存率 | 95%信頼区間 |
---|---|---|---|
50歳代 | 62.3% | 67.6% | 65.5~69.6% |
60歳代 | 56.6% | 67.6% | 66.0~69.3% |
70歳代 | 40.6% | 66.4% | 64.3~68.5% |
80歳以上 | 15.3% | 60.2% | 54.5~66.3% |
引用:国立がん研究センター がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2008年10年生存率集計 報告書 p30
実測生存率は、加齢により減少しています。
一方で相対生存率は、50代から70代までほとんど同じであり、80歳以上でも大きく下がっていません。
50代と治療効果が大きく変わらないことは、心強いもの。
特に前立腺がんの場合、早期に発見した場合の10年生存率は100%に近い数値です。
このため高齢者であってもがんの治療を受ける意味は十分にあり、治療により健康を取り戻せる可能性もあります。
●生存率に差があるかどうかは、信頼区間に注目
年代が増すごとに生存率が下がると、元気になれるのかどうか不安に感じがちです。
年代ごとの生存率に差があるかどうかは、生存率の信頼区間に注目することが重要です。
一例として「2008年10年生存率」から、胃がんになった男性のデータを考えてみましょう。
年代 | 相対生存率 | 95%信頼区間 |
---|---|---|
40歳代 | 69.4% | 65.8~72.8% |
50歳代 | 71.6% | 69.9~73.3% |
60歳代 | 69.3% | 68.0~70.6% |
70歳代 | 63.1% | 61.5~64.7% |
引用:国立がん研究センター がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2008年10年生存率集計 報告書 p28
60歳代と70歳代を比較すると、95%信頼区間は重なっていません。
そのため、70代のほうが60代よりも10年生存率は低いと考えられます。
一方で40歳代は50歳代よりも、相対生存率や95%信頼区間が低くなっています。
しかし信頼区間は大きく重なっていることもあり、このデータだけで10年生存率に差があるとまではいえません。
●専門的な医療機関を受診した方が集計の対象。早期発見・早期治療が重要
この調査は、がんに対する専門的な治療を行える医療機関を受診した方が対象です。
そのため、以下の方のデータは含まれないことに留意してください。
- ○実際はがんにかかっているのに、本人の認識がない方(がん検診を受けていない方など)
- ○がん検診で「要精密検査」という判定を得たまま、放置している方
がんの診断を受けても早期であれば、治療により健康を取り戻せるケースも多いです。
また精密検査を受けた方で、実際にがんと判定される方は少数です。
この点でも「要精密検査」となった場合は、早めに再検査を受けることが重要です。
●がんのステージと罹患者の年齢を掛け合わせた生存率は公表されていない
10年生存率では、さまざまなデータを確認できます。
一例としてがんのステージ別、罹患者の年代別、性別などが挙げられます。
性別と年代、性別とがんのステージを掛け合わせた生存率も確認できる一方で、がんのステージと年齢を掛け合わせた生存率は公表されていません。
そのため各年代の生存率は、ステージⅠからⅣまですべて含んだ数字であることに注意が必要です。
たとえば70歳男性で「直腸がんのステージⅠ」と診断された方を仮定しましょう。
それぞれの10年生存率は、以下の通りです。
- ○70代男性の10年相対生存率:62.8~63.4%
- ○ステージⅠの10年相対生存率:91.9~92.3%
年代ごとの生存率はすべてのステージを含むため、「私はどうせ10年以内に死ぬ」と諦めることはよい選択といえません。
実際の生存率は、むしろステージⅠのほうに近い値になる可能性もおおいにあります。
早く治療を行うことで、体への負担も軽くなることが期待できます。
公表データから読み取れる内容は多いが、すべてではない
データから読み取れる内容は多いものの、すべてがわかるわけではありません。
ここまで解説した内容をもとに、データをどう読み取ればよいか考えてみましょう。
●公表データから読み取れる内容
公表データから読み取れる内容は、以下の5点です。
すべてのがんを総合した数値に加えて、がんの種類ごとに分けた数値が示されています。
- ○がんのステージに基づいた、10年後までの生存率の推移
- ○年代と性別に基づいた、10年後の生存率
- ○性別と観血的治療(手術など)の有無に基づいた、10年後の生存率
- ○年代別と性別で区分した症例数
- ○症例数が多数を占める年代
上記の通り、さまざまな角度でデータを分析できることが特徴に挙げられます。
●公表データだけではわからない内容も少なくない
一方で以下の情報は、公開されたデータだけではわかりません。
- ○がんのステージと年齢に基づいた、10年後までの生存率
- ○具体的な治療内容に基づいた生存率
- ○2009年以降に一般化した治療法による、10年後までの生存率
- ○ご自身が10年後も元気で過ごしているか
生存率は確率を示すものの、ご自身の将来を確実に示すものではありません。
また2009年以降の医学の進歩も、十分には反映されていないことに注意が必要です。
もし生存率が低いがんにかかった場合でも、主治医から「しっかり治療すれば治る可能性が高い」と示されたならば、悲観的になる必要はありません。
しっかり治療に専念し、回復を目指しましょう。
がん10年生存率は、あくまでも役立つ情報の1つととらえよう
がん10年生存率は有用なデータの1つですから、かかってしまったがんが治りやすいものかどうかという観点でチェックすることは有効です。
一方で、ご自身の寿命と直接関連するとは限りません。
生存率がよくても慢心せず、逆に悪くても悲観し過ぎないことが重要です。
あくまでも役立つ情報の1つととらえ、主治医の指示に従い治療に専念することが、最もよい結果につながります。
参考:
国立がん研究センター がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2007年10年生存率集計 報告書 p30(2021年5月23日引用)
国立がん研究センター がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2008年10年生存率集計 報告書 pp.30,34,36,40,42,46,53-54,56(2021年5月19日引用)
朝日新聞社 最新研究が切り拓くがん治療 日本癌学会が市民公開講座(2021年5月19日引用)
厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計月報年計(概数)の概況(2021年5月19日引用)
厚生労働省 令和元年簡易生命表の概況 pp.8-11(2021年5月19日引用)
国立がん研究センター がん検診 もっと詳しく知りたい方へ(2021年5月19日引用)
日本医師会 データで見るがん検診 がん検診によるがん発見データ(2021年5月19日引用)
NHK がん患者の10年生存率 国立がん研究センターが公表(2021年5月19日引用)
国立がん研究センター がん診療連携拠点病院等 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム初公開 2007・08年10年生存率(初)、2012・2012-13年5年生存率、2014・2015年3年生存率集計公表(2021年5月19日引用)
国立がん研究センター がん診療連携拠点病院等院内がん登録生存率集計(2021年5月19日引用)
井部俊子, 箕輪良行: 図解 看護・医学事典 第8版. 『図解 看護・医学事典』編集委員会(編), 医学書院, 東京, 2017, p156.
浅野晃: 挫折しない統計学入門-数学苦手意識を克服する-. オーム社, 東京, 2017, pp.178-184.
医療研修推進財団 7.3.1 2つの集団の平均値の差の検定と信頼区間の推定(分散が等しい場合)(2021年5月23日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ