脳性麻痺にもタイプや重症度もさまざま。麻痺の種類やリハビリについて解説します
脳性麻痺とは、受胎時から生後4週間までの間に起こった脳の非進行性の病変に基づいた、永続的、変化する可能性のある運動もしくは姿勢の異常のことをいいます。
脳性麻痺は日常生活にほとんど支障をきたさないものから、重度で日常生活のすべてにおいて介助を要する状態、生命にまで影響を及ぼす状態までさまざまです。
今回は脳性麻痺の重症度やタイプ、それに対するリハビリについて解説します。
目次
脳性麻痺の重症度、筋肉の緊張具合の違いからさまざまな種類があり、リハビリや薬などの治療が行われる
脳性麻痺とひと口に言っても、さまざまな種類、重症度があります。
●脳性麻痺は、筋肉の緊張具合による分類と重症度によって分けられます
脳性麻痺にはさまざまな程度やタイプがあり以下のように分けられます。
1)筋肉の緊張具合による分類
アテトーゼ型:自分の意志ではコントロールできない筋肉の動きを伴うもの。不随意運動。
失調型:筋肉の動きをコントロールすることが不安定で、震えを生じたりするもの。
痙直型:筋肉の緊張度合いが高い状態で、他人が曲げようとすると抵抗を生じる。
固縮型:筋肉の緊張が常に高い状態、関節の動きが硬く歯車のような動きをする。
低緊張型:筋肉の緊張具合が低く、ぐにゃぐにゃとしている状態。
混合型:いくつかの筋肉の緊張具合が混ざり合った状態。アテトーゼ型と痙直型の組み合わせが多い。
2)運動麻痺の範囲による重症度
単麻痺:手足のうちいずれか一つが麻痺しているもの
片麻痺:右側もしくは左側いずれかの手足が麻痺しているもの
対麻痺:両方の手もしくは両方の足が麻痺しているもの
両麻痺:四肢のすべてが麻痺しているが、両上肢の麻痺が比較的軽いもの
四肢麻痺:四肢のすべてが麻痺しているもの
失調型、固縮型は四肢麻痺、痙直型は片麻痺・対麻痺・両麻痺・四肢麻痺などに分類されます。
このようにさまざまな分類方法が存在します。
●脳性麻痺の治療はリハビリや薬による筋緊張の抑制など
脳性麻痺に対する治療としては、対処療法が主であり、脳性麻痺の原因を治療し完治を目指すことはできません。
筋肉の緊張が高い場合には、薬や手術や注射などで筋肉や神経を部分的に遮断したりして筋肉の緊張を和らげる方法もあります。
リハビリでは、筋肉の高い緊張で変形が起こらないように関節可動域訓練を行ったり、歩行などの動作訓練、装具を用いた日常生活動作の訓練などを行うかたわら、ご家族への指導なども行います。
脳性麻痺は手足の麻痺以外に、知能低下や嚥下障害など、さまざまな症状が合併しリハビリにも影響する
脳性麻痺は手足の麻痺のほかにも、脳障害の後遺症として知能障害や嚥下障害、てんかんなどさまざまな合併症が起こり得ます。
●脳性麻痺は運動障害のほかにも知能・摂食・呼吸の障害やてんかんなどが合併することも
脳性麻痺は生後4週間以内に脳に加わったダメージによるものであり、前項でお話ししたような運動麻痺のほかにもさまざまな障害を併せ持つことがあります。
- 1)知能低下:認知障害や学習障害など
- 2)摂食障害:嚥下機能やそしゃく機能に障害が生じうまくご飯を食べられない、むせることがある
- 3)構音障害:口周囲の筋肉も麻痺するために、発声のコントロールがしづらいなど
- 4)呼吸機能障害
- 5)情緒障害:喜怒哀楽など感情の起伏がコントロールできない、行動障害も含むことがあるなど
- 6)てんかん
- 7)視力障害:低出生体重児などでは網膜症や斜視を引き起こすことも
- 8)聴覚障害
これらの障害は複数を合併する場合もあり、また脳のダメージを受けた部位により引き起こされる障害もあります。
●合併症はリハビリにも少なからず、影響を与える
運動障害により、筋肉の緊張が高くなることで関節の痙縮を引き起こし、関節の可動範囲が制限されることで拘縮や変形を生じます。
これらは日常生活動作の獲得に際しても大きな障害となることもあり、リハビリにも大きな影響を与えます。
ほかにも、前項に挙げたような合併した障害によってリハビリがうまく進められないことがあります。
たとえば、知能低下により指示に従えない、視覚障害により目的物が見えないなどのリハビリへの影響が考えられます。
脳性麻痺のリハビリは神経発達学的アプローチや感覚統合療法などの特徴的な治療法がある
脳性麻痺に対するリハビリは成人の脳卒中や骨折などに対するリハビリとは異なる点があります。
その違いについて解説します。
●脳性麻痺のリハビリが成人の脳卒中や骨折と異なる点は、成長過程にあるということ
脳性麻痺のリハビリに特徴的なものとしては、成長に伴うさまざまな変化です。
原始反射に体が支配される期間が長くなることで、運動制限となり成長にも影響を及ぼす場合もあります。
たとえば寝返りや座位、立位、歩行の獲得が通常の発達より遅れて起こるため、リハビリでは正常発達の月齢などを参考にしながら訓練を進めます。
成人の脳卒中や骨折などに対するリハビリはすでに一度獲得したことのある歩行機能を再び獲得するために行われますが、脳性麻痺のリハビリは獲得したことのない歩行機能を学習するという点でも異なります。
そのため次にお話しするような特徴的なリハビリアプローチを行います。
●脳性麻痺のリハビリは神経発達学的治療法や感覚統合療法など特徴的なものも
脳性麻痺のリハビリにおいても、立位や歩行のような日常生活動作や関節可動域の維持確保のためのストレッチや装具療法などのリハビリが行われます。
また特徴的なリハビリの訓練として以下のものがあります。
1)神経発達学的治療法
介助をしたことで得られた反応、筋肉の使い方などを獲得させる手技や、筋肉の緊張を抑制するような手技を組み合わせて行うことで、子どもの関節可動域の増大や正常な身体の反応や自発的な運動の誘発を目的とする治療法の一つです。
たとえば、脳性麻痺のお子さんの足の裏は床に触れる、荷重がかかることなどに大変敏感です。
座った姿勢で足を床につけたり体重をかけたりすることは、座位や立位などのさまざまな日常生活動作につながることにもなり、大変重要な獲得動作の一つです。
このように目的に向かってさまざまな促通、抑制手技を組み合わせてリハビリを行います。
2)感覚統合療法
子どもたちが自らやりたいと思う、もしくは求めている活動を、能動的に行わせてうまくいったと思える成功体験を感じさせることを目的としています。
トランポリンやバランスボール、ボールプール、ブランコなどの遊びを利用し、自発的な行動を誘導することをリハビリの一手段として取り入れます。
ヒトの五感をうまく統合できず、落ち着きがない、人とうまく関われない、自分の行動をうまくコントロールできない、対人関係をうまく築けないといった症状が見られるお子さんにも同様の治療法を用いることがあります。
脳性麻痺のリハビリにおいては個々の運動能力に応じて幼少から学童期にかけて歩行の獲得を目指す時期などに、適切なリハビリが適切な頻度で行われる必要がありますが、具体的な頻度は明確にはなっていないのが現状です。
また、最新の治療としてロボットスーツなどを用いたトレッドミル歩行訓練などを行うことにより、歩行時の転倒を回避して安全に歩行速度の改善が見られています。
脳性麻痺のリハビリは特徴的な治療法もあるが目的は同じ
脳性麻痺にはさまざまなタイプや運動麻痺の範囲による重症度があり、これらにより身体活動能力が大きく異なります。
また、合併した運動障害以外の症状によりリハビリに影響を及ぼしたり、体の成長に伴い筋肉の緊張や関節の可動域が狭くなったりすることもあります。
脳性麻痺のお子さんに対する運動療法は特徴的な治療法が用いられることもありますが、リハビリの目的は日常生活動作の改善や関節可動域の維持や増大を目的としており、家族の方への指導も含めた訓練が行われます。
参考:
日本リハビリテーション医学会: 脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版. 金原出版, 東京, 2014, pp.96-139.(2021年6月22日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士