現在の日本のがんサバイバーはどの様に社会復帰を果たしているのか。使える制度もご紹介
医学の進歩により検診による早期発見や治療成績が向上し、がんと診断されても治癒する率も向上しています。
それに伴い、がんを克服した人たちの社会復帰や、仕事を続けながらがんの治療をするという選択肢をサポートする必要が増えています。
今回はがんからの社会復帰がわが国日本ではどのようにされているのか、がん患者さんをサポートする制度などについてもご紹介したいと思います。
目次
がんから生き抜いた人のみではなく、がんを体験した人すべてががんサバイバー
がんは生命を脅かすだけではなく、経済的な困難も伴います。
●がんサバイバーとは?がんの治療中、がんを完治した人の両方を含む
がんサバイバーという言葉を耳にしたことがありますか?
サバイバーとは生存者という意味で、日本ではがんを経験した人、つまりがんと診断された経験のある人をがんサバイバーと呼びます。
海外ではそこにがん治療者の家族も含まれる場合がありますが、日本では現在治療を継続している人、がんの治療を終えて寛解状態にある人が対象とされています。
つまり病院でがんの診断をされたその瞬間からがんサバイバーとなるわけです。
●がんサバイバーの仕事との関係は?減収や治療に必要な出費など経済的な困難を伴う
がんサバイバーは治療のための通院や入院のために、仕事を休んだり時短勤務を行う必要があることもあり、収入が減少する場合があります。
高額療養費制度などを用いても医療費の出費は家計には重く、収入の減収と出費の増大は二重にがんサバイバーへの負担になり、経済的な困難を伴います。
ほかにも、治療に際しての入院や抗がん剤投与のための入院などに関してはまとまった休みが取りにくいなど就労体制の整備が必要であり、休暇の取得により減収となるケースも多いのです。
がんサバイバーは寛解後も体力低下や薬の副作用などで就労に影響あり
がんサバイバーが就労可能な年齢の場合には、就労と治療の両立が重要な課題となります。
●がんサバイバーの30%が何らかの仕事への影響を感じている
厚生労働省の報告によりますと、がんと診断されたあと勤務者の34%が依願退職もしくは解雇され、個人事業主の13%が廃業に陥っています。
治療をしながら仕事を両立させることが困難であると考えている人が約7割にも達していることがわかります。
最近では、医療機関は仕事を続けながら治療を受けられる工夫、企業は仕事を継続しながら治療を受けられるように、がんサバイバーが就労する上で不利にならないように配慮が必要であると厚生労働省の計画で勧められています。
●がんサバイバーが仕事を行う上で、体力の低下や抗がん剤の副作用などさまざまな影響が
がんサバイバーが治療と仕事を両立するためには、受診や検査、処置に際して有給休暇などの休暇が必要となります。
時にはがん治療の副作用として起こる体調不良や免疫力低下のために自宅待機が必要になることもあります。
ほかにも抗がん剤による副作用で吐き気や食欲不振、めまいなどさまざまな症状が長期にわたり出現することがあり、仕事への影響が懸念されます。
また抗がん剤の副作用として広く知られている脱毛により、女性の場合には特に外観に影響を及ぼし、公衆の場に出たくないという方もいらっしゃいます。
そのような場合には上司に相談し、上司への相談が難しければ人事課もしくは病院にいるがん支援相談者などへ相談して、職場から主治医に情報提供依頼書(出典:厚生労働省 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインP.13)を作成してもらうのも良いでしょう。
その場合、あなたの署名がなければこの書類は相互に取引されないため、情報漏洩などの心配はありません。
がんサバイバーががん治療中に仕事をする上で気をつけること
がん治療中に現れる症状のなかで仕事をする上で気をつけること、受診や治療に際して必要となる休暇など、勤務先に確認しておくべき事柄についてお話ししましょう。
●受診や治療が必要な際には、休暇や休業が必要なことも。就業規則や福利厚生制度などを確認しておこう
まずは職場の就業規則や福利厚生制度を確認して、有給休暇や病欠が何日まで取得可能なのか確認し、上司に相談して仕事を調整してもらうなどの配慮をお願いしましょう。
もし勤務先に産業医や産業看護師などがいれば、直接相談すると上司に話しにくいといった場合にも橋渡しをしてくれる存在となります。
年次休暇や病欠、有給休暇が何日取れるかなどは企業によって異なり、またがんの重症度によっても治療に必要な日数も大きく異なります。
がんと診断されるとすぐに離職を決断してしまう方が多いようですが、上司に相談、派遣社員の場合でも派遣先などに相談して休暇の範囲内でがん治療と仕事の両立が可能かどうか検討してからでも遅くはありません。
●がんサバイバーをサポートする公的助成・支援制度についてご紹介
がんサバイバーが治療中に生活や治療費に関するサポートをどのようにして得たらいいのでしょうか。
公的な制度や助成についてお話ししましょう。
○治療費の補助となるもの
a)高額療養費制度:同じ月に支払った医療費がある一定の額を超えた場合には、超過した医療費があとで返金される仕組みです。
入院などであらかじめ限度額が超えることを予測できる場合には、限度額適応認定証を提示すると限度額までの医療費の支払い請求のみとなります。
この限度額は収入などにより異なります。
b)高額医療・高額介護合算療養費制度:医療保険、介護保険の双方を利用している場合、双方を合算して限度額から超過した費用が返金される制度です。
c)医療費控除:確定申告の際に、かかった医療費を所得から控除することが可能です。
○生活費などの補助
a)傷病手当金:会社員や公務員の被用者保険により、給与が貰えないときに一部の収入を保証するもの。
公的医療保険の窓口にて申請。
b)雇用保険による基本手当:離職前の2年間の間に12カ月以上の雇用があった場合には、ハローワークでの申請にて基本手当が助成されます。
c)老齢年金の繰り上げ支給:老齢基礎年金は60歳から繰り上げ請求が可能です。
年金事務所での申請。
d)障害年金:重度の障害が残存している場合には、障害基礎年金(国民年金によるもの)、障害厚生年金(厚生年金)、障害共済年金(共済年金)が、年齢と障害等級により支給されます。
e)介護保険制度:日常生活での介護や支援が必要な場合、症状と必要年齢に達していれば、サービスを受給することが可能。
ほかに小児に対して、特別障害児童扶養手当、特別障害者手当、障害児福祉手当などもあります。
治療を受けるのにもお金がかかりますので、受けられる公的助成などを活用し治療に専念できる環境をつくるようにしましょう。
仕事と治療の両立を目指し、離職を決断する前にさまざまな支援を利用しよう
日本のがんサバイバーの方々は仕事と治療の両立が困難であると考えがちであり、離職を選択してしまう方も多いようです。
最近の検診技術の向上によりがんと診断されるケースや医療の進歩によりがんを完治できるケースが増え、仕事との両立や職業復帰を考える必要性が増えてきています。
前述したように、職場や主治医との話し合い、公的助成などを活用して、がんサバイバーが仕事をしながらがんの治療にも臨めるようになることを切に望みます。
参考:
厚生労働省 がん患者の就労や就労支援に関する現状(2021年7月20日引用)
厚生労働省 事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(2021年7月20日引用)
大腸がん情報サイト 主な公的助成・支援制度の紹介(2021年7月20日引用)
がん情報サービス 生活費等の助成や給付など(2021年7月20日引用)
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執筆者
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1998年理学療法士免許取得。整形外科疾患や中枢神経疾患、呼吸器疾患、訪問リハビリや老人保健施設での勤務を経て、理学療法士4年目より一般総合病院にて心大血管疾患の急性期リハ専任担当となる。
その後、3学会認定呼吸療法認定士、心臓リハビリテーション指導士の認定資格取得後、それらを生かしての関連学会での発表や論文執筆でも活躍。現在は夫の海外留学に伴い米国在中。
保有資格等:理学療法士、呼吸療法認定士