こんな兆候は要注意!訪問看護師がすぐに医療機関受診を勧めるのは、こんなとき
自宅で急変したらどうしよう。
訪問看護師として在宅介護に携わるなか、介護者さんからよく聞く不安の言葉です。
急変をすべて防ぐことはできませんが、急変のまえには何らかの兆候があることが多く、それに一番早く気づくのは介護者さんです。
今回は、介護者さんが気づく兆候の重要性と観察のポイントについて、訪問看護師である筆者がお話しします。
介護者が感じる「何となくいつもと違う」は的を射ていることが多い
介護をしていて、うまく言葉にはできないけれど「何となくいつもと違う」と感じたことはありませんか?
介護者さんは一番長く利用者さんをみていますから、その勘は案外当たっています。
ところが、この「何となく」はぼんやりとした感覚的なものなので、報告されないことも多いのが現状です。
訪問看護師であっても、介護者さんからの情報提供がなければ、次回の訪問までそのことに気づくことができません。
そのため、「何となくいつもと違う」と感じたことは、ぜひ訪問看護師へ教えていただきたいのです。
●「何となく」をうまく言葉にするコツは「いつも」を知ること
気になることがあったら教えてほしいと言いながら、「何となく」だけでは伝わらないことも事実です。
このぼんやりとしたものが気のせいではなく、なにかの兆候かもしれないと伝えるにはコツがあります。
「何となく」を具体的に言葉で表現するには、「いつも」と比較してどうかを考えましょう。
私たちは、元気なときの自分にはさほど関心がないため、「いつもの自分」のことは意外とわからないものです。
たとえばご自身の平熱や、1日に何回トイレに行くかなど、すらすらと答えることができるでしょうか。
筆者が、祖母に平熱を聞いてみたところ
「何でもないときには熱を測らないからわからないわよ」
と言われてしまいました。
ヒトには個人差がありますから、体温が37℃でつらい人もいれば何ともない人もいます。
「体温が37℃で何となくおかしい」
これだけ聞くと、37℃なら様子を見ても良さそうです。
「平熱が35℃台なのに37℃もあるし、何となくおかしい」
この場合はどうでしょう。
いつもと違うことが伝わりますね。
このように、利用者さんのいつもの状態、特に安静にしているときの体温、脈拍、呼吸の回数、血圧、排泄のパターン、1日にどれくらい水分をとるか、睡眠時間などを知っておくと、比較もしやすくいざというときにも役立ちます。
脈拍や呼吸の回数は、確実な数字ではなくても大丈夫。
いつもよりちょっと早い、かなり早いという表現でも、十分参考になります。
高齢者によくある「困った事態」 発熱・転倒・痛み・食べないときに考えられること
どれもご高齢の方にはよくあることなので、長く介護をしている方は経験があるのではないでしょうか。
様子を見ていい場合がある反面、急変の兆候ということもあるのでやっかいです。
ここでは、この4つの症状からなにが考えられるかお話ししましょう。
●高齢者の発熱は日常茶飯事。だけど油断してはいけない
ご高齢の方は体温調節機能が低下しているので、簡単に発熱します。
一方で、免疫力が低下しているため、病気があっても症状がでにくいという一面もあります。
たとえば「肺炎なら高熱がでる」という定説は高齢者には当てはまりません。
肺炎になると、体に必要な酸素量を確保しようとして呼吸が早くなります。
そのため、たとえ微熱であっても、呼吸の回数はチェックしてみましょう。
また石田(2013)は、高齢者の肺炎では初発症状として、食欲不振や全身倦怠など非特異的症状や精神症状がでることが多いと報告しています。
ご高齢の方が発熱したら、息が荒い、食欲がない、だるそうにしている、急に意味のわからないことを言うなど、発熱以外の部分に注目してみましょう。
●転倒は生活を一変させることもある
ある日筆者のもとに「転んでしまった!」と1本の電話がありました。
それは100歳の玲子さん(仮名)の娘さんからでした。
娘さんは、玲子さんを転ばせないために、筆者たち介護スタッフと、さまざまな対策を講じてきました。
今回は、娘さんがトイレに立ったわずかな時間に転んでしまったとのこと。
訪問したとき「頭の右側にたんこぶがある、右わき腹が少し痛むようだ」と、娘さんはすでに情報収集を始めていました。
ほかに、骨折などの疑わしいところはないかを観察します。
痛みの場所と程度
変形や、左右の手足の長さが違うなどがないか
皮下出血や腫れ
手があがらない、立てないなどはないか
玲子さんは受診の結果、右肋骨骨折が認められました。
幸いなことに頭部CTでは、脳への出血はありませんでした。
ただし、玲子さんはワーファリンという、血が固まりにくくなる薬を内服しているので、数カ月間は慢性硬膜下血腫に注意しなければなりません。
平成28年度の高齢者白書によると、骨折・転倒は介護が必要になった原因の12%を占めています。
ご高齢の方は、転倒がもとで寝たきりになることも少なくないため、転倒には特に注意が必要です。
●高齢者は痛みをうまく表現できない
訪問看護師である筆者は、痛みの判断が一番難しいと感じています。
ご高齢の方は痛みを具体的に表現することが上手ではありません。
数字や量で表すことのできない「痛み」は、以下の項目で確認しましょう。
発症の仕方 | どんなふうに始まったか |
---|---|
増悪・寛解 | どんなとき(どんな姿勢)で良くなる/悪くなるか |
強さ、性状 | どんなふうに、どれくらい |
場所 | どこが |
随伴症状 | ほかに症状はあるか、あればどんな症状か |
時間経過 | 時間とともに強くなる、痛くなったり落ち着いたりなど |
このなかで発症が突然や急激なもの、冷汗や呼吸が早い、おう吐などがあれば緊急性が高いと考えます。
よってこれらの訴えがある場合には、すぐに医療機関への受診を検討しましょう。
●食べたくないなら無理強いしない、いったん様子を見て
食べない理由は、老化に伴う自然な食欲低下から、病気や内服している薬によるものまで多岐にわたります。
筆者ら看護師もそうですが、量を食べさせることができれば介助が上手、と勘違いしがちです。
本当の食事介助上手は、利用者さんの状態を見ながら食べさせることができる人です。
まずは一食休んで、次も食べたくないようなら、急にor徐々に食べられなくなったのか、食べたくないのかor食べられないのか、少しは食べるのかorまったく食べないのかを確認します。
急に食べられなくなった場合は要注意です。
慌てないために。ご本人の意思確認と家族間の統一
お元気なうちから、亡くなるときの話をするのは不謹慎でしょうか。
筆者は元気なうちにこそ話したほうが良い、と考えています。
利用者さんがご高齢の場合、看取りはそう遠くない将来必ずやってきます。
そのときご本人に代わって意思決定をするのは、想像以上につらいものです。
筆者は両親ともがんで亡くしていますが、父のときは意識がなくなるまえに意思確認をすることができず、母と二人悩みながらさまざまな判断をしました。
いまだにあのときの判断が正しかったのか、わかりません。
母のときには、母の意思を尊重した最期を迎えることができ、悲しくても後悔はしていません。
話し合う時間があるうちに、ぜひ一度話題にしてはいかがでしょうか。
まとめ
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)をご存じですか?
ACPは意思表示ができなくなったときに備え、もしものときのことを前もって話し合う過程のことです。
話し合いは、ご家族だけでなくケアに関わるスタッフも含めて行われ、体調や気持ちが変わるたびに繰り返しどう生きたいかを考えていきます。
本記事の内容もACPの一つですから、どんな治療や対応を望んでいるのか、スタッフを交えて遠慮せずに話し合ってみてください。
参考:
石田直:高齢者肺炎の診断と治療.日本内科学会雑誌102(11),2990-2997,2013.
内閣府 平成28年度版高齢者白書