高齢者施設での介護事故は転倒がトップ!骨折リスクがある転倒事故への対応の仕方
高齢者施設では、80代・90代の高齢者の割合が多く、骨粗しょう症や筋力低下などで転倒するリスクが高い状況です。
実際に介護事故の中では転倒がトップで、骨折して入院すると寝たきりになる場合もあります。
転倒の予防や対策を行うことで、骨折リスクを最小限にくいとめることができます。
介護事故の7割以上が転倒や転落
2018年9月から2019年2月に4回にわたり、全国の介護老人福祉施設から安全管理体制の調査を行い、介護老人福祉施設は10,075件中1,188件から回答を得ました。
1施設当たりの入所者数は平均61.5人です。
介護老人福祉施設から回答(複数回答も含む)を得た結果、介護現場で事故として取り扱うのは、転倒や転落がトップです。
- 1)転倒・・・97.1%
- 2)転落・・・95.4%
- 3)誤嚥・・・89.6%
- 4)異食・・・89.1%
- 5)誤薬・・・94.0%
- 6)医療的ケア関連・・・78.9%
- 7)褥瘡・・・49.5%
- 8)離設・・・83.6%
- 9)その他・・・14.4%
- 10)無回答・・・1.5%
社会福祉協議会も平成24年度の「しせつの損害補償」の保険金支払いデータに基づいた統計をとりました。
その結果、転倒や転落事故が70%以上と圧倒的な数値です。
また、保険金支払いをした受傷種別のトップは骨折です。
そのことから、介護事故では、転倒や転落による骨折が高い率を占めていると考えられます。
老人施設 | デイサービス | ||
---|---|---|---|
事故種別 | 転倒・転落 | 72.1% | 70.3% |
誤嚥(誤嚥による窒息死含む) | 3.1% | 2.8% | |
異食(誤飲含む) | 0.1% | 0.2% | |
徘徊(離設含む) | 0.3% | 0.2% | |
利用者同士のトラブル | 0.5% | 1.4% | |
物損 | 6.6% | 5.4% | |
その他 | 16.9% | 19.3% | |
受傷区分 | 骨折 | 71.6% | 61.6% |
打撲・捻挫・脱臼・創傷 | 21.1% | 29.3% | |
意識障害・呼吸停止 | 1.3% | 0.9% | |
やけど | 0.6% | 1.5% | |
欠損・切断 | 0.2% | 1.1% | |
感染症 | 0.2% | 1.1% | |
その他 | 5.1% | 4.6% |
高齢者施設では、骨折につながる転倒などの介護事故を減らすために、ヒヤリハットや事故報告書を書いて対策を行っています。
転倒(転落)事故に対する予防と対策
高齢者が転倒して骨折すると、何カ月も入院になり、寝たきりになることが多いです。
転倒して骨折することを防ぐには、まず、利用者のADLを維持・向上することや転倒しにくい設備をつけること、転倒しても骨折しにくい工夫をすることの3点が挙げられます。
●ADLの維持・向上と移動時の見守り
高齢者の転倒は、足腰の筋肉やバランス機能が弱ってくるために起こります。
リハビリや健康体操などで、運動機能の維持・向上に努め、転倒リスクの軽減を図ります。
また、食堂や浴室などへの移動時は、職員の見守りでの誘導をしましょう。
●転倒や転落しにくい設備の設置
転倒を予防するためには、手すりや杖、歩行器などで、歩行を補助する福祉用具を活用するとともに、ベッドを最低床にすることやバリアフリー化、足元が明るい照明の設置などで予防します。
1)歩行補助の福祉用具活用
歩行にふらつきが見られる利用者には、杖や歩行器などの補助用具を活用します。
杖には、1本杖や3本杖、4本杖があるので、その人の状況に応じた杖を使いましょう。
杖では転倒する利用者には、シルバーカーや歩行器を活用できます。
たとえば、杖使用の入居者が転倒したため、シルバーカーのオパルにすると歩行が安定し、転倒しなくなりました。
2)施設のバリアフリー化
施設は最初からバリアフリーの設備ですが、床のカーペットのめくれや敷居の段差、電気コードなど、ほんの少しの段差が転倒につながります。
特に、介護職員の目が離れる居室での転倒が多いため、居室の足元に転倒につながるものがないかをチェックし、荷物を整理して動線を確保します。
歩行が不安定な利用者なら、居室のベッドから洗面所などの動線に可動型の平行棒や突っ張りタイプの手すりを取り付けることができます。
3)ベッドの高さは最低床が安全
ベッドから転落すると、頭を打って命の危険に至る可能性が高いです。
ベッドの高さは、最低床(20cmの高さになるベッドがある)か30~40cmの低床にして、頭側には柵をします。
転落するリスクがある利用者のベッド横にはスポンジクッションや布団などを置いて、転落して骨折するリスクを回避します。
4)足元を明るくする
歩行可能な利用者には、センサー付きの足元ライトやリモコン操作で点灯するライトを設置して足元を明るくします。
●転倒しても骨折しないための工夫
麻痺やパーキンソン病や視覚障害などがある利用者の場合、転倒リスクが高くなります。
認知症の方は転倒しても歩き回ります。
そのような利用者には、ヒッププロテクターやコルセット、膝関節装具などで転倒したときの骨折を最小限にすることができます。
ヒッププロテクターとは、両側の股関節部分にハードやソフトのクッションを入れられるプロテクターで、衝撃を分散させるため骨折のリスクを軽減します。
コルセットは、腰痛を防ぎ、起立性低血圧の防止などに効果があります。
膝関節にクッションが入っているサポーターは、転倒して膝をついたときに膝骨折を防ぎます。
転倒(転落)事故が起きたときの連絡体制
施設では緊急時の連絡体制やマニュアルが作成されていますが、事故が起きたときでも状況によって対応が異なります。
●緊急性がない転倒事故の場合
- 1.ナースに報告(ナース不在時は介護職員が判断)し、バイタルチェックや皮膚状況のチェックなどを行う
- 2.施設長などの管理者に報告する→状況により家族や緊急連絡先に事故報告をする
- 3.事故報告を書いて今後の対策を考える
●緊急性がある転倒や転落事故の場合
- 1.ナースや介護職員が状況判断して、嘔吐や高熱、歩行困難、意識障害など、緊急性が高いと判断した場合は、その旨を管理者に連絡する
- 2.管理者(あるいはナース)より主治医に連絡し、主治医の指示のもとに救急車の要請をする
- 3.管理者より家族に連絡を取る
- 4.管理者より自治体に事故報告をする
予防や対策で転倒による骨折リスクを軽減しよう
高齢者施設の介護事故では転倒が7割以上で、転倒した場合に骨折する率も高いです。
転倒を完全に防ぐことは難しいですが、歩行器や手すりなどの福祉用具の活用やヒッププロテクターなどの着用によって、骨折のリスクを最小限にとどめましょう。
参考:
厚生労働省 平成30年度調査 介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業 報告書(案).(2019年11月26日引用)
福祉施設における事故対応のハンドブック.(2019年11月26日引用)