介護施設に入所しても選挙の投票はできる?方法や公正に行われるの?
これまで毎年欠かさず選挙の投票に行っていたのに、介護施設やグループホームに入ったらもう投票には行けないの?
大丈夫!投票は大事な社会参加の一つなので、入所しても可能な制度があります。
今回は、高齢者施設に入っても可能な投票システムをご紹介します。
介護施設に入ったら選挙の投票はできないの?
介護が必要になりグループホームや介護施設に入所しても、選挙時に投票は可能です。
各都道府県の選挙管理委員会の指定施設になっている介護施設・障害者施設・病院などに入院入所している場合には施設や病院内で「不在者投票」ができます。
指定施設に限られ、どの施設や病院でも可能ではありませんが、ある程度の規模(例:50床以上の施設など)の施設や病院なら施設内で不在者投票が可能になっています。
指定施設は市区町村のサイトに公開されていますし、直接施設に問い合わせて確認もできます。
※例:石川県 不在者投票制度について(病院、老人ホーム等の施設での投票【施設一覧】
なお施設入所者が選挙で投票するにはいくつか手段があり、
- ○施設内に不在者投票所が設置され、そこで投票する
- ○グループホームなどの外出が可能な利用者は、みんなで職員の送迎と見守りのもと地域の投票所にいく
※実施例:山形敬寿園 ~山形市長選挙~ - ○選挙のときだけ外出許可をとり、家族と地域の投票所に行く
といった方法があります。
入所者の自立度や頼れるご家族の有無などによって、都合の良い方法を選ぶことができ、在宅生活の頃と同じようにしっかり選挙に参加できるシステムとなっています。
施設内での不在者投票はどう投票する?公正に投票できるの?
今回は施設内に「不在者投票」場所が設営される場合の投票について紹介します。
選挙管理委員会の指定を受けた施設では、選挙時期になると施設内に「不在者投票所」が以下の手順で設置されます。
●施設スタッフの事前打ち合わせ
まず選挙前に施設長(不在者投票管理者)を中心に投票所設営に関わるスタッフが施設で打ち合わせを行い、公職選挙法に基づく手順を確認します。
●入所者に不在者投票の希望の有無を確認
そして入所者向けに「不在者投票のお知らせ」といった連絡が行われ、不在者投票の希望者を確認します。(希望者は「依頼状」に記入してもらうなどで確認をとる)
●投票用紙を選挙管理委員会に代理請求
施設長が入所者の代わりに「投票用紙」を市区町村の選挙管理委員会に請求します。
●不在者投票の実施
施設があらかじめ設定した不在者投票日に、施設長(不在者投票管理者)などのスタッフが、施設内投票所を設置します。
施設内の広めの部屋(ホールや会議室など)を使用し、一般の投票所と同じような動線で会場設置が行われます。
たいていバリアフリーで車いすでも投票できますし、不在者投票立会人(投票の監視)・不在者投票事務従事者(投票名簿確認などを担当)もいて、一般投票所と同様の雰囲気です。
※足の悪い入所者は施設スタッフに車いすを押してもらい会場の部屋へ向かいます。
※移動も困難な重篤患者の投票は、不在者投票管理者の管理のもと、不在者投票立会人の立ち会いが可能な状況に限って居室のベッドで投票できます。
●投票後の投票用紙を各市区町村選挙管理委員会へ返送
投票が終わると、施設の管理者および不在者投票事務従事者のスタッフが、投票された用紙を市区町村の選挙管理委員会へ返送します。
※施設内投票実施例:ケアホーム船橋 ~千葉県知事選挙不在者投票~
<施設内の不在者投票での公平性の確保>
介護施設で不在者投票所を設営すると、「自筆が困難な場合、職員が代筆したりして不公平な投票にされないか?」と心配する人もいるでしょう。
こうした事態を起こさないため、投票場所では心身や視覚の故障などの理由で自筆困難な方は、受付で「代理投票」を申し出れば、「代理投票補助者2名」が投票をサポートします。
この「代理投票補助者」は、「不在者投票立会人」の意見を基に選ばれ、1人が入所者の指示で候補者名を投票用紙に記入、もう1人が入所者の言う通り記入したかチェックします。
このシステムにより、たとえば投票事務に関係のない付き添いの介護スタッフが代理投票することはできず、2人のスタッフによるダブルチェックで公正な投票ができます。
※付き添いの家族であっても代筆はできません。
また投票用紙に記載後は、本人が「専用内封筒に入れて封をする」→「さらに外封筒に入れ封をする」→不在者投票管理者(施設長)に提出→金庫などで保管され選管に送られる…という、後からスタッフが開封することもできない厳重な仕組みになっています。
<郵便等による不在者投票が利用できる場合も>
入所先が不在者投票の指定施設になっていなくても、障害や疾病などのために投票所へいけない方は、郵便等で不在者投票ができる場合があります。
身体障害者手帳や介護保険被保険者証を持ち、条件にあてはまる等級や要介護度であれば自分で投票用紙を選挙管理委員会から取り寄せ、郵送で投票が可能です。
細かな要件がありますので、必要な場合は各自治体の発表を参照してください。
例)金沢市 郵便等による不在者投票 「郵便等による不在者投票をすることができる人」
成年後見制度の利用者は投票できる?
では認知症などで判断能力に欠くとされ「成年後見人制度」を利用している、「成年被後見人」の方は選挙の投票をすることはできるのでしょうか?
以前は成年被後見人になると選挙権がありませんでしたが、平成25年(2013年)5月に公職選挙法が一部改正され、成年被後見人も選挙権が回復しています。
同時に、指定施設等での不在者投票では、市区町村の選挙管理委員会が選んだ「外部立会人」を立ち会わせる努力義務も設定され、公正な選挙が行われるよう改正されました。
財産管理や計算などが難しく被後見人となった方でも、政治への関心が高く、毎回欠かさず投票に駆け付けていたという方はたくさんいます。
実際に法改正前に私が担当した患者様にも、財産管理が難しく成年被後見人になるが、ずっと応援していた候補者への投票ができなくなることが悔しい、という方がいました。
政治に参加できる選挙権を行使することは「生きがいの1つ」とする人もおり、それを奪うと生きる気力を失う人もいます。
金銭管理ができなくても政治的関心が低いとは限りません。
社会参加したいという想いの強い方は、施設入所後もぜひ不在者投票などを利用し、参政権を行使していただければと思います。
施設入所後も自分の意思で投票は可能!
たとえ施設に入所しても、選挙で投票し自分の意思を示すことは可能です。
また施設内の投票でも、公正に投票できるよう法整備されています。
これまでのように投票に行きたいという方、あるいは身内が施設に入所予定のあるご家族は、入所先でどのような投票が可能か、確認してみると安心できますよ。
各施設のウェブサイトには、行事として投票風景が載っていることもあるのでチェックしてみてください。
こちらの記事も参考にしてください:
訪問介護の「通院等乗降介助」の使い方~介護タクシーを利用した便利な通院の方法
参考:
金沢市 Q&A 病院に入院中(介護施設に入所中)ですが、選挙で投票する方法がありますか。 (2021年6月17日引用)
岡谷市 代理投票について (2021年6月17日引用)
千葉県 県政情報・統計 ちばコレchannel 選挙|指定施設(病院、老人ホーム等)での不在者投票の実施方法について (2021年6月17日引用)
上毛新聞 高齢者施設の入所者投票に課題 コロナ下の選挙、「不在者」指定は少数(2021年6月17日引用)
総務省 投票制度 成年被後見人の方々の選挙権について(2021年6月17日引用)
北海道伊達市 成年被後見人の方も投票できるようになりました(2021年6月17日引用)
朝日新聞デジタル 2013参院選 成年被後見人、取り戻した一票 投票して「すっきり」(2021年6月17日引用)
京都第一法律事務所 コラム 成年被後見人選挙権裁判(2021年6月17日引用)
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執筆者
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大学の社会福祉専攻を卒業後、内科・リハビリ病棟から精神科まで担う医療法人でソーシャルワーカーを勤めました。医療相談・地域連携をはじめ、入所施設の当直シフトもこなしていました。出産後はライターに転身。我が子の療育先で「やっぱりケアの専門職はすごい!」と感嘆する日々。多くの患者様やご家族の声に向き合った経験を活かし、一般の方には分かりやすい制度や社会資源の説明を、経営者・施設職員・コメディカルの方には明日の実践のヒントとなる情報をお届けします。
保有資格:社会福祉士、精神保健福祉士