訪問看護師が教える介護保険制度~申請からサービス開始までを分かりやすく~
最近、年齢を感じるようになった?
近い将来、介護が必要になりそうな家族がいる?
介護サービスを受けているけれど、よく分からない?
筆者は訪問看護師をしていますが、この仕事を始めるまで介護保険制度のことをほとんど知りませんでした。
どうすれば介護サービスが受けられるのか。
今なら初歩的だと思うことも、恥ずかしながらまったく知識がありませんでした。
介護保険制度は複雑で難しく、すべてを理解できるものではありません。
それでも、誰もが「介護を受ける側」になる可能性があるのです。
ここでは、介護保険の知識がほとんどない方に向けて、最低限知っておいてほしいことをお伝えします
介護保険制度
まずは介護保険制度が誕生した経緯や、その効果についてみていきましょう。
1)介護保険制度が生まれたワケ
介護保険制度は「介護が必要な高齢者を社会全体で支えよう」という仕組みです。
介護保険制度がつくられるまえは、「介護は家族がするもの」でした。
筆者が看護師になったばかりのころ、病院に10年近く入院している患者さんがいらっしゃいました。
退院できる状態だけれど、自宅に帰っても介護する人がいないという理由です。
このような状態を、社会的入院といいます。
当時も、老人福祉・医療制度で定められたサービスはありましたが、高所得者ほど利用者負担額が大きくなる仕組みになっていました。
つまり「サービスを使うよりも入院した方が安い」ということになり、それは社会的入院が多くなる大きな要因となっていました。
しかし病院は、生活する場として決して良い環境ではありません。
刺激が少なく、認知症や寝たきりを助長します。
実際に当時の日本は、いわゆる「寝たきり老人」の増加が問題になっていました。
そこで国は、老人福祉・医療制度だけでの対応、家族だけでの介護には限界があると判断し、介護保険制度が生まれたのです。
2)介護保険制度でなにが変わったか
介護保険制度の導入によって、利用者が自らサービスや事業者を選び、医療・福祉サービスを総合的に利用できるようになりました。
旧制度(老人医療・福祉制度)では、サービスが必要になったら行政に申請し、市町村がサービスを決定する「措置制度」でした。
介護保険制度では、利用者が直接事業者と契約を結ぶことでサービスを利用できる「契約制度」へと変わりました。
要介護認定
介護度を認定してもらうための「要介護認定」ですが、介護度によって受けられるサービスの内容も異なってきます。
介護認定の重要性から申請の方法までわかりやすく解説します。
1)何のために必要?
「介護が必要になった、さあ今日からサービスを受けよう」
と思っても、これだけではサービスを受けることができません。
65歳以上の人には、各市町村から介護保険被保険者証が交付され、介護保険による給付は要介護度によってどれくらい利用できるかが決まります。
「要介護度」とは「どのくらいの介護が必要な状態か」を数字化したものです。
極端な話をすると、認定によって「自立」と判断されればサービスは全額自己負担になってしまうのです。
要介護認定は、「介護量を決定する=自己負担額を知る」ためのものなので非常に重要な調査なのです。
2)認定の流れ
要介護認定は、介護がどれくらい必要なのかを、統一された基準で、客観的に判断する仕組みです。
以下に認定までの流れを簡単にご説明します。
○申請手続きは各市町村窓口へ。
○認定調査員が訪問(自宅や入院先など)し、状況調査を行います。(認定調査)
※「介護の必要量」で判断しますので、病気の重さと介護度の高さは一致しないこともあります。
○一次判定(コンピューター)、二次判定(審査会)で介護度を判定します。
○原則として30日以内に要介護度が決定します。
○要介護認定により、非該当・要支援1、2、要介護1~5のいずれかに認定され、介護度に応じて、区分支給限度基準額が決定します。(数字が大きいほど介護量が多い)
○どんなサービスを受けたいか、ケアマネジャーさんに相談しながらケアプランを立ててもらい、事業者と契約を結んでからサービスの利用開始です。
3)要介護度が決定しないとサービスは利用できないの?
先ほど、要介護認定を受けないとサービスは利用できないとお話ししたのに、矛盾しているように感じられるでしょうが、実はこちら「利用できます!」
訪問看護をしているとジレンマを感じることがあります。
筆者が実際に出会った利用者さんの例をお話しします。
さちこさん(仮名)90歳。
昨日まで元気で、自分のことは自分でできていたのに、転んだことをきっかけにそのまま寝たきりになってしまいました。
あわてて申請をして、認定結果が出るまで一カ月、ご家族だけで介護を頑張っていたそうです。
慣れない介護にご家族は疲労困ぱい。
お風呂に入れることもできず、さちこさんにはすでに床ずれができていました。
このような場合、一刻も早くサービスを利用したいでしょう。
要介護認定は、申請さえしていればその日からサービスを利用できます。
ケアマネジャーさんに「暫定」という形でケアプランを立ててもらいます。
(大体このくらいの介護度になるだろうという予測をたててプランを作成する)
サービス開始後に認定結果が出たら、さかのぼって払い戻します。
もちろん予測よりも低い判定が出てしまい、自己負担額が増えてしまう可能性もありますが、さまざまな理由ですぐにサービスを利用したい方もいるので、申請していれば判定まえでもサービスは受けられるということは、ぜひ覚えておいてほしいです。
区分支給限度基準額
区分支給限度基準額は、介護度ごとに設定される介護報酬額の上限のことです。
この上限を超えるぶんは、どんなに必要でも自己負担になりますのでしっかり確認しておく必要があります。
1)要介護度に応じて限度額は違う
介護保険制度は、要介護度に応じて区分支給限度額(以下限度額とする)を設定し、その範囲内でサービスを選択できる仕組みになっています。
介護度 | 区分支給限度基準額(単位) |
---|---|
要支援1 | 5003 |
要支援2 | 10473 |
要介護1 | 16692 |
要介護2 | 19616 |
要介護3 | 26931 |
要介護4 | 30806 |
要介護5 | 36065 |
限度額は1単位を10円で計算します。
しかしなぜ、「単位」などと面倒な計算をするのでしょうか。
大都市と地方では、地域差(物価や人件費など)があります。
この地域差を調整する目的で地域区分別加算が加えられます。
大都市などは、1単位当たりの金額が10円より少し高くなります。
要支援1の方は約5万円、要介護5の方は約36万円の範囲内でサービスを利用できます。
実際に支払うのはこの金額の1割または2割ということになります。
限度額が適用されない介護サービスもありますが、自宅で受けるサービスはほぼ適用されると覚えておけば大丈夫です。
2)区分変更する?しない?
要介護度は永久的なものではなく、定期的に更新する必要があります。
そのときの状態で要介護度も高くなったり低くなったりします。
定期的な更新以外に、区分変更申請があります。
介護量が増えたときなどに、ケアマネジャーさんから「区分変更をしましょう」というお話がでると思います。
要介護度が高いほど限度額も多くなることは先にご説明しました。
限度額が増えるのですから、お得な感じがしませんか?
すでに限度額いっぱいまでサービスを利用していて、さらにサービスを利用したいならば、もちろん区分変更をしたほうが良いと思います。
しかし厚生労働省が発表した「2016年介護給付費等実態調査の概況」によると、実際に使われている介護給付は、どの区分においても限度額の5割前後です。
つまり、要介護5(最大)の方であっても、要介護3の限度額で足りるくらいのサービスしか受けていないのです。
しかし区分変更によって限度額が高くなると、今までと同じサービスを受けていても、その利用料も同時に高くなります。
これは「介護量が増える」という理由からです。
デイサービスを例に見てみます。
要介護1 | 677(円) |
---|---|
要介護2 | 829 |
要介護3 | 979 |
要介護4 | 1132 |
要介護5 | 1283 |
要介護3と5の人では300円ほどの差があります。
月に20回デイサービスを利用する、自己負担一割の方でくらべると、ひと月あたり600円ほど違ってきます。
一年で考えるとかなり大きな金額です。
このように多くのサービスを利用する予定のない方は、区分変更をしなくても良い場合もあります。
まとめ
介護保険制度について、申請からサービス導入まで的を絞ってご説明しました。
介護保険制度はわかりにくく、筆者のように実際に関わっている者でも「どうだったかな?」
と悩むことがあります。
今回の記事では、介護保険制度の仕組みのほか、筆者が普段仕事をしていて、「知っておいた方がいい」と思うことをいくつかご紹介しました。
参考になることが少しでもあったなら、うれしく思います。
介護度判定のながれについては、こちら(介護度はどのように決まる?基準や判定方法をケアマネ視点でご紹介します)で紹介しています。