就業不能保険や所得補償保険を上手に使い、働けない事態に備えよう
病気やけがにより収入が途絶えると、日々の生活に困ってしまうもの。
就業不能保険や所得補償保険は、働く方の万が一に備える保険です。
本記事では保険の特徴など、保険選びに重要なポイントを解説します。
働けない事態に備えるためにも、ぜひお読みください。
目次
就業不能保険や所得補償保険は、働く人の生活を守る保険
就業不能保険や所得補償保険は、働く方がけがや病気などで収入を得られなくなったときに、契約時に決めておいた保険金が支払われることが特徴です。
収入の減少や生活費も保障の対象となりますから、働く方の生活を守る保険といえるでしょう。
生命保険会社では「就業不能保険」、損害保険会社では「所得補償保険」と呼び名は異なりますが、基本的な機能は同じです。
以下、これらを「所得補償保険等」と略します。
所得補償保険等には、3つの特徴があります。
それぞれについて、詳しく解説していきます。
●加入条件は、働いて収入を得ている方とする場合が多い
所得補償保険等の加入条件は働いている方など、なんらかの収入を得ている方としている場合が多いです。
収入を補てんする保険という趣旨を考えれば、妥当な条件といえるでしょう。
但し保険によっては、以下のような商品もあります。
このため、事前に加入条件をよく確認しておきましょう。
●団体扱いで加入できる保険商品もある
職場のなかには福利厚生の一環として、団体長期障害所得補償保険(GLTD)に加入する場合があります。
全員が加入する場合は会社が保険料を支払うため、以下のメリットがあります。
- ○従業員の自己負担がない
- ○自分自身で保険を選び契約しなくても、いざというときの収入減に備えられる
労務行政研究所が2018年に調査した結果によると、GLTDを取り入れている企業は全体の10.5%と、決して少ない数字ではありません。
一方でGLTDは傷病手当金を補完するものと考える企業が多いこともあり、支払われる金額は月収の3割程度となる場合が多いです。
お勤めの方は福利厚生の制度をチェックし、GLTDが採用されているか、いざというときにいくら支払われるか確認しておくと良いでしょう。
●医療保険との併用も可能。退院後も受け取れることが特徴
所得補償保険等は、医療費の負担を軽減する目的の医療保険とは性格が異なります。
このため、医療保険との併用も可能です。
就業不能保険や所得補償保険ならではのメリットには、以下の項目が挙げられます。
- ○仕事ができない状態であれば、退院後や自宅療養期間も受け取れる
- ○1年間や2年間など、比較的長い期間の受け取りが可能
鳥越らはGLTDの支払理由のうち、65%が精神の障害と指摘しています。
また新型コロナウイルスに罹患した方のなかには、後遺症のためなかなか職場復帰できない方もいます。
所得補償保険等は、このような長期間の療養にも備えられる保険です。
●収入保障保険や失業給付とは、目的が異なる
いざというときの収入を保障してくれる保険には、以下の2種類があります。
- ○収入保障保険
- ○雇用保険の失業給付
これらは所得補償保険等と目的が異なることに留意が必要です。
収入保障保険はあなたが亡くなったときや高度障害となったときに、家族の生活費を一定期間補償する保険です。
一例として子どもを持つ家庭で、教育費がかかる期間だけ収入保障保険で備える目的が挙げられます。
このため、ご自身の収入を補てんする趣旨の保険ではありません。
また雇用保険の失業給付は以下の通り、「いつでも働ける状態なのに仕事が無い方」が対象です。
「失業」とは、離職した方が、「就職しようとする意思といつでも就職できる能力があるにもかかわらず職業に就けず、積極的に求職活動を行っている状態にある」ことをいいます。したがって、次のような状態にあるときは、失業給付を受けることができません。 ○病気やけがのために、すぐには就職できないとき (以下略) |
このため病気やけがにより働けない方は所得補償保険等の対象となる一方で、失業給付の対象とはなりません。
ただし病気やけがが良くなり働ける健康状態になれば、ハローワークに求職の申し込みと雇用保険の手続きを行った上で、失業給付を受給し始めることができます。
就業不能保険や所得補償保険の選び方。5つのポイントを解説
就業不能保険や所得補償保険は、さまざまな保険会社から発売されています。
一方で商品内容は、大きく異なることも特徴の1つです。
ここではあなたに合った保険を選ぶために、チェックしたい5つのポイントを解説します。
●保障される内容と条件
所得補償保険等は病気やけがにより働けず、収入を得られない状態が保障の対象となることが基本です。
上記の状態に当てはまれば、入院や通院をしていなくても保障される点は、医療保険と異なるメリットです。
ただし「収入を得られない状態」の定義は、保険商品ごとに異なります。
いざというときに確実にお金を受け取るためにも、どのような状態なら保険金が支払われるか、契約前に必ず確認しておきましょう。
●支払われる金額と期間
所得補償保険等は、給与や月々の収入の代わりという趣旨があります。
このため、保険料を多く支払えば普段の収入以上の金額を受け取れるわけではありません。
実際には月々の収入額以上の契約ができないか、保険金を支払う際に所得証明書でチェックされる場合が多いです。
ふだんの収入が少ない方は、契約金額の選択肢が狭まることに注意が必要です。
また保険金が支払われる期間は、以下の通りさまざまです。
病気やけがで働けない期間は、ときに長期間におよぶ場合があります。
保険料の安さや加入のしやすさだけに目を奪われず、いざというときにどれだけ長く支払われるかチェックすることも重要です。
●保険期間や保険料
保険期間は商品により、以下の通りさまざまです。
- ○あらかじめ満期の年齢を定めた上で契約する
- ○1年や5年などの契約期間が設けられており、自動更新される
また保険料は、契約時に確定するタイプと更新のたびにアップするタイプがあり、商品により異なります。
それぞれの特徴は、以下の通りです。
- ○契約時に確定する場合は保険料が生涯変わらないため、生活設計を立てやすい
- ○更新のたびにアップするタイプは、契約当初の保険料が安く済む
事前にチェックした上で、ご自身のライフプランに合った商品を選びましょう。
●免責期間
所得補償保険等には、病気やけがで働けなくても保険金が支払われない「免責期間」が設定されています。
免責期間は7日~60日程度が一般的ですが、なかには4日間で良い保険や、1,095日といった長期間の設定が可能な保険もあります。
免責期間が長くなれば保険料は安くなりますが、いざというときの保障を受けにくくなります。
保障を受けずに済む期間がどれだけあるかにより、免責期間を選ぶと良いでしょう。
たとえば貯蓄が少ない方なら生活資金不足に陥らないためにも、できるだけ短い免責期間で済む保険がお勧めです。
一方で雇用されている方である程度の貯蓄が多い方なら、もっと長い免責期間の商品も選択肢となります。
●保障は60歳~70歳までとする保険が多い
何歳まで保障の対象になるかは、保険商品により異なります。
多くの所得補償保険等は、60歳~70歳までを上限とする場合が多いです。
ただし職業や商品によっては84歳まで加入できる場合もありますから、事前にチェックしておきましょう。
就業不能保険や所得補償保険がお勧めな3つのタイプ
働く方ならどのような方でも、就業不能保険や所得補償保険は役立ちます。
なかでもお勧めするタイプは、3つあります。
それぞれの理由も含めて、解説していきましょう。
●貯蓄があまりない方
貯蓄があまりない方は、病気やけがで仕事ができなくなると生活苦の危機にさらされます。
それでも入院していれば医療保険の給付を受け取ることが可能ですが、退院して療養を始めると受け取れなくなります。
お金がないから無理をしてでも働いた結果、また身体を壊すといった悪循環に陥ることは避けなければなりません。
このような方のために、所得補償保険等が役立ちます。
保険金を受け取ることで安心して療養できるため健康な体を取り戻せ、生活を再建できるチャンスが生まれることは大きなメリットといえるでしょう。
●借金の返済や教育費など、継続的な出費がある方
2つ目にお勧めする方には、以下のようにまとまった費用を、定期的に支払わなければならない方が挙げられます。
- ○住宅ローンなど、借金の返済
- ○教育費の支出
このような方も収入がストップすると、たちまち危機に直面することになります。
もし所得補償保険等を契約していれば継続的に保険金が支払われますから、必要な出費をまかなうことができ、安心して療養に専念できます。
●体を痛めやすい職業の方
体を痛めやすい職業の方も、所得補償保険等をお勧めするケースの1つです。
たとえば介護職員の場合は「パワーアシストスーツやマッスルスーツの活用で、施設での介護もラクラク」記事で解説の通り、腰痛に悩む方も多いもの。
「もし働けなくなったらどうしよう」という不安を抱えながら日々を過ごすことは、精神的にもよくありません。
所得補償保険等に加入することで将来への備えができ、日々の不安を和らげることができます。
いざというときの「安心」を買えることは、大きなメリットといえるでしょう。
安心して日々を過ごすためにも保険を活用し、働けない事態に備えよう
就業不能保険や所得補償保険は、人生の中で起こりうる「働けない」リスクに備える保険です。
医療保険や雇用保険などでは対応できない状況に備えられる保険といえるでしょう。
働けないリスクは誰にでも起こり得ますから、安心して日々を過ごすためにも早めの備えがお勧めです。
また保険の内容は商品によりかなり異なりますから、事前の比較検討が必須です。
併せて職場でGLTDの制度があるか、確認しておくと良いでしょう。
参考:
金融デザイン, さくら事務所: 損害保険を見直すならこの1冊, 自由国民社, 東京, 2017, pp.171-174.
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鬼塚眞子: 特集/トクする保険 ソンする保険 第1人者が発掘 お宝保険9連発. 週刊東洋経済2015年7月11日号: 79-80, 2015.
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全国健康保険協会 よくあるご質問 傷病手当金について(2020年11月23日引用)
フコク生命 入っておいたほうがいい?就業不能保険の3つのメリットと選び方(2020年11月21日引用)
チューリッヒ生命 就業不能保険の選び方(2020年11月21日引用)
ライフネット生命 マンガでわかる!もし、就業不能状態になったら(2020年11月21日引用)
NHK 後遺症が苦しい…新型コロナ “治療後”の悩み(2020年11月21日引用)
厚生労働省 雇用保険の具体的な手続き(2020年11月18日引用)
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日本商工会議所 全国商工会議所のナイスパートナー(2020年11月23日引用)
東京海上日動火災保険 トータルアシストからだの保険(所得補償)(2020年11月18日引用)
いずみライフデザイナーズ ほけん百花 三井住友海上 所得補償保険(2020年11月18日引用)
SBI生命 働く人のたより 特長(2020年11月23日引用)
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中電興業 本人向け所得保障オプション(2020年11月18日引用)
明治安田損害保険 団体長期障害所得補償保険(2020年11月18日引用)
日立キャピタル損害保険 個人向けLTD リビングエール補償内容(2020年11月23日引用)
アクサ生命 アクサの就業不能保障プラン 保険料例(2020年11月23日引用)
アクサ生命 アクサの就業不能保障プラン 保障内容(2020年11月23日引用)
ライフネット生命 就業不能保険「働く人への保険2」の保障内容(2020年11月23日引用)
日税サービス 全税共の団体所得補償保険(2020年11月23日引用)
東京保険医協会 第2休業保障制度(団体所得補償保険)(2020年11月23日引用)
独立行政法人 労働者健康安全機構 第3期労災疾病等医学研究「社会福祉施設の介護職職員における腰痛の実態調査、画像診断と予防対策に係る研究・開発、普及」研究報告書【腰痛】(2020年11月21日引用)
オージー技研 パワーアシストスーツやマッスルスーツの活用で、施設での介護もラクラク(2020年11月23日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ