実は国も介護や少子高齢化に対して、さまざまな施策を打っている。知っておきたい施策を紹介
社会的に関心の高い、介護や少子高齢化の問題。
国は座して見ているわけではなく、多種多様な施策を打っています。
施策を知っておくことは、上手に制度を活用するためにも重要です。
どのような施策があるか、確認していきましょう。
国は介護や少子高齢化に対して、さまざまな施策を打っている
冒頭で解説した通り、国は介護や少子高齢化に対してさまざまな施策を打っています。
これらの施策は、産業の発展やより快適に過ごすために役立っています。
一方で施策の数が多いために、なかなか見つけにくいことも事実。
「国は何もしていない」と思ってしまう方も、いるかもしれません。
あなたに合った施策を見つける上で、国がどのような観点で施策を進めているか知っておくことはヒントになります。
本記事では代表的な施策を紹介する前に、基本的な観点と施策に興味を持つ重要性を解説していきます。
●施策を行う基本的な観点を知っておこう
介護や少子高齢化をはじめとした社会保障の施策は、以下の観点で進められているものと考えられます。
- ○社会保障の原資を増やす
- ○健康寿命を延ばし、医療費や介護費の支出を削減することと高齢者の生活向上を両立
- ○出生率を上昇させる
- ○人口の減少分を補う
- ○IT技術を活用し、人力に頼る時代ではできなかったサービスを提供する
- ○働きがいのある魅力的な職場をつくり、介護をめざす方を増やす
あなたの求めるサービスや施策は、上記のどれかに入っているでしょうか。
もしどれかに該当するようであれば、希望する施策が見つかる可能性があります。
●施策に関心を持つことで、あなたに合った制度を見つけやすくなる
現状では、待っていたら自動的にあなたにマッチした施策が入手できるようにはなっていません。
なにか現状を改善したい場合は、ご自身で積極的に情報を探し、必要な手続きを行う必要があります。
このため、不平不満を述べているだけでは現状を変えることができません。
一方で行政が提供する情報は、必ずしもわかりやすいとはいえません。
しかし施策に関心を持つことで、あなたに合った制度を見つけやすくなります。
専門家にアドバイスを受けることは、良い方法の1つといえるでしょう。
少子高齢化に対する4つの施策
現役世代1人に対する高齢者の数は、年々増え続けています。
また働き手も減少しており、特に介護職員が十分に集まらない施設も少なくありません。
このような事態に対し国は多様な施策を取って、少しでも高齢者が暮らしやすいよう努めています。
ここでは4つの施策を取り上げ、解説していきます。
●AIなど、IT技術の積極的な活用
現役世代が減少し続けることにより、今の仕組みでは満足ゆくサービスを提供することは難しくなっています。
一方で仕事を進める上で改善が求められる点や、必ずしも効率的とはいえない点もあるもの。
国は以下のように、AIなどのIT技術を積極的に活用する施策を打ち出しています。
- ○「居宅サービス事業所におけるICT 機器・ソフトウェア導入に関する手引き」の作成
- ○事業所間でケアプランのデータ連携を行えるよう、仕様を定める
- ○介護ソフトやタブレット機器、スマートフォン、Wi-Fi導入費用の助成
- ○介護ロボットを活用して、介護職員の業務負担を軽減し、利用者に過ごしやすい環境を提供する
- ○VISITやCHASEを活用し、科学的な介護を行う施設に対して介護報酬を加算する
VISITは「リハビリに関するデータ」、CHASEは「高齢者の状態やケアの内容等に関するデータ」を保管するデータベースを指します。
時流に乗るだけでなく、実務的な部分にも配慮された項目があることは知っておきたいポイントです。
現役世代が減少する局面でIT技術を採用することは、適材適所の推進につながります。
「機械にできること、得意なことは機械に任せ、職員は人でなければできない業務を中心に割り当てる」ことが実現できるでしょう。
これにより、利用者に対するより良い介護が実現可能です。
●在留資格「特定技能」を新設し、積極的な外国人の採用につなげる
アフターコロナの時代でも、介護業界の採用難は続いています。
2021年1月における「社会福祉の専門的職業」の有効求人倍率は、3.34倍となっています。
新型コロナウイルスが蔓延する以前から、国は採用難を和らげる方法として、介護職に外国人の力を活用する施策を打ち出していました。
2019年4月から「特定技能1号」の在留資格が新設され、対象の産業分野に介護が含まれています。
このため、介護の知識や技能を相当程度持つ外国人の入職が実現しています。
国では介護分野について、2019年4月からの5年間で最大60,000人の外国人を受け入れる予定です。
日本語が話せるか不安になる方も多いと思いますが、特定技能の在留資格を得た方は試験などにより能力が認定されていますから、過度に気にする必要はありません。
新型コロナウイルスの影響が少なくなれば、該当者も増えることでしょう。
なお訪問介護のサービスは、特定技能の対象外となっています。
●子どもを育てやすい環境づくり
出生率のアップは少子化に対する最も有効な対策ですが、意欲だけでは実現できません。
そもそも子どもを産み育てることで、家庭には以下の大きな負担がかかります。
- ○出産や育児といった時間
- ○子どもを一人前に育てるための、経済的な負担
- ○職場を離れることから来るキャリアのブランクと、再就職への不安(収入の低下も含む)
上記に挙げる負担を家庭にばかり押し付けることは、出生率の低下につながります。
国では以下のように、子どもを産み育てやすい環境づくりを進めています。
- ○育児休業の充実。女性だけでなく、男性の取得も推進
- ○待機児童の解消に向けた対策
- ○幼児教育・保育や高校の実質無償化
- ○不妊治療の助成(1回30万円)
上記のように、子育てにおけるさまざまな段階で支援が行われています。
●保険料の収支を改善させる施策の実施
公的保険の財務強化には、保険料収入を増やし、支出を抑える点も重要です。
以下に挙げる施策は、代表的な項目です。
- ○70歳までの就業機会を確保する
- ○高い所得を得ている方は、所得に応じた保険料が課される
- ○現役並みの所得がある方は、健康保険や介護保険の自己負担割合が3割となる
これにより収入を増加させ、安定した運営が可能となります。
もっとも住民税が非課税の場合など、生活が苦しい世帯からは多額の保険料を取ろうとしても無理です。
むしろ、保険料をより安価に設定していることも忘れてはいけません。
国は「現役世代だけではなく、支払える能力を持つ高齢者を増やし、制度を支える」方針で進めているものと考えられます。
介護に対する4つの施策
介護に関する費用は年々増加しており、保険料負担も重くなっています。
だからといって一律にサービスを切り下げることは、利用者をはじめ介護に関わる方に喜びをもたらしません。
健康で過ごせる日々をできるだけ長く続けてもらうことや働きがいのある職場づくりをしながら、支出を減らす取り組みを行えるとベストです。
ここでは4つの施策を取り上げ、それぞれの内容を解説します。
●通院等の介助サービスの使い勝手がよくなる
通院等の介助で複数の医療機関を受診する場合、これまではいったん帰宅してから次の医療機関に向かう必要がありました。
2021年度の介護報酬改定では「出発地または終点が自宅」という条件を満たせば、以下の移動を行った場合も算定可能となります。
- ○医療機関どうしの移動
- ○デイサービスから医療機関への移動
このため余分な時間をかけて移動する必要がなくなり、スピーディーかつ効率的な移動が実現できます。
1人の利用者にかける時間が短くなることから、より多くの方がサービスを利用できることもメリットの1つです。
●健康寿命を延ばす取り組み
健康寿命を延ばすことで、一生のうちで快適に過ごせる期間が長くなります。
加えて寿命と健康寿命の差を小さくすることで、介護を要する期間を縮めることができます。
これは高齢者にとってうれしいだけでなく、介護費用の削減にも寄与します。
このため国は以下の施策を取り、健康寿命を延ばす取り組みを行っています。
- ○「スマート・ライフ・プロジェクト」による、国民や企業への啓発活動
- ○高齢者の保険事業と介護予防の一体的な実施
- ○介護予防に資する通いの場への参加率を6%に
- ○健康支援型配食サービスの推進等
2016年の健康寿命は男性で72.14歳、女性で74.79歳でした。
国は2040年までに、健康寿命を3歳以上伸ばすことを目標としています。
実現すれば「75歳以上でも元気はつらつの高齢者」が当たり前となることでしょう。
●より良いサービスを提供する施設に、より多くの介護報酬を支払う
介護施設や職員がより良いサービスを提供するためには、使命感はもちろん必要ですが、それに加えて仕事に対する報酬を上げることも有効です。
このため国は継続して、以下の施策を取っています。
- ○より良いサービスを提供する施設に対して、より多くの介護報酬を支払う
- ○介護職員の待遇を改善する
施策の例として、以下のものが挙げられます。
- ○勤続10年の介護福祉士レベルの人材が年収440万円に、または月平均8万円の処遇改善を行えるよう公費を投入(特定処遇改善加算)
- ○入浴介助加算を2種類(ⅠとⅡ)に細分化
- ○ADL維持等加算を10倍にした上で、対象施設の拡充
- ○看取り介護加算を、45日前から行えるよう改定
なお介護報酬については、「2019年10月に介護報酬改定!技能や経験ある介護職員に朗報」「2021年介護報酬改定で入浴介助加算に新たな区分が新設!算定要件や算定のポイントを解説します」記事もあわせてご参照ください。
●在宅介護や介護予防事業の推進
厚生労働省は、在宅介護の推進に取り組んでいます。
在宅介護には利用者と介護事業者それぞれについて、以下のメリットがあります。
- ○利用者は、住み慣れた自宅で引き続き生活できる
- ○介護事業者は施設の建設や居室の割り当てを行うことなく、サービスを提供できる
このため介護サービスの充実はもとより、訪問看護や医療との連携も含めた施策を行っています。
また「健康寿命を延ばす取り組み」で解説した、介護予防事業の推進も行っています。
希望に合った施策がないか、積極的に調べることが重要
ここまで、国が実施するさまざまな施策を解説しました。
国や地方自治体では、マスコミなどでは報じられていない施策があるかもしれません。
仮に「予算をつけたのに使われない」結果となると、もったいないもの。
今は検索エンジンなどを活用し、瞬時に必要な情報を入手できる時代ですから、このメリットを活用することがあなたの将来を左右します。
より良い仕事や生活を実現するには、自ら動き積極的に情報を探すことが重要です。
参考:
厚生労働省 介護現場におけるICTの利用促進(2021年3月28日引用)
厚生労働省 地域医療介護総合確保基金を活用したICTの導入支援(2021年3月28日引用)
厚生労働省 介護ロボットの開発・普及の促進(2021年3月28日引用)
厚生労働省 介護分野のICT化、業務効率化の推進について p2,21-23(2021年3月30日引用)
厚生労働省 居宅サービス事業所におけるICT 機器・ソフトウェア導入に関する手引き Ver.1.1(2021年3月28日引用)
厚生労働省 令和3年度介護報酬改定の主な事項について(2021年3月30日引用)
厚生労働省 「医療・介護データ等の解析基盤に関する有識者会議」(第10回)参考資料集 pp.17-20(2021年3月30日引用)
株式会社Funtoco 介護人材不足の現状について【2020年度版】(2021年3月27日引用)
厚生労働省 一般職業紹介状況(令和3年1月分)について 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(除パート))(2021年3月27日引用)
出入国在留管理庁 新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組 pp.6-7(2021年3月27日引用)
厚生労働省 介護分野における特定技能外国人の受入れについて(2021年3月27日引用)
厚生労働省 介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針 p3(2021年3月29日引用)
内閣府 令和2年版少子化社会対策白書<概要> pp.5-7(2021年3月27日引用)
厚生労働省 不妊に悩む夫婦への支援について(2021年3月27日引用)
文部科学省 高校生等への修学支援(2021年3月27日引用)
厚生労働省 高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~(2021年3月27日引用)
厚生労働省 改正高年齢者雇用安定法が令和3年4月から施行されます(2021年3月27日引用)
厚生労働省 Ⅱ 費用負担の見直し pp.76-77(2021年3月27日引用)
厚生労働省 平成30年8月から現役並みの所得のある方は、介護サービスを利用した時の負担割合が3割になります(2021年3月27日引用)
厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト について(2021年3月30日引用)
厚生労働省 スマート・ライフ・プロジェクト(2021年3月30日引用)
厚生労働省 令和3年度介護報酬改定に向けて(自立支援・重度化防止の推進)(2021年3月30日引用)
厚生労働省 2019年度介護報酬改定について pp.2-3(2021年3月30日引用)
オージー技研 2019年10月に介護報酬改定!技能や経験ある介護職員に朗報(2021年3月28日引用)
オージー技研 2021年介護報酬改定で入浴介助加算に新たな区分が新設!算定要件や算定のポイントを解説します(2021年3月28日引用)
厚生労働省 在宅医療・介護の推進について(2021年3月30日引用)
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執筆者
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千葉県在住で、ITエンジニアとして約14年間の勤務経験があります。過去には家族が特別養護老人ホームに入所していたこともありました。2018年からは関東にある私大薬学部の模擬患者として、学生の教育にも協力しています。
現在はライターとして、OG WellnessのほかにもIT系のWebサイトなどで読者に役立つ記事を寄稿しています。
保有資格:第二種電気工事士、テクニカルエンジニア(システム管理)、初級システムアドミニストレータ