非運動性熱産生(NEAT)って何?生活習慣病や肥満の予防に大切な心がけとは
毎日をのんびりくつろいで過ごしている人と、せっせと活動しながら過ごしている人とでは、活動量に大きな違いが生じます。
運動習慣があっても、それ以外の時間を横になって過ごしているのでは本末転倒です。
今回は、日々の生活の中で高めていきたい「非運動性熱産生(NEAT)」について解説していきます。
NEAT(非運動性熱産生)とは?
NEATは「ニート」と読みますが、仕事や学校に行かない若者のことではありません。
まずはNEATにどんな意味があるのか確認していきましょう。
●NEATとは?
正式名称はNon-Exercise Activity Thermogenesisであり、これを略したものが「NEAT」になります。
日本語では「非運動性熱産生」といいますが、「非運動性」とは運動によるものではないことを、「熱産生」とは消費エネルギーのことを意味します。
身体活動にともなうエネルギー消費は、運動によるものと、運動によらないものに分けることができますが、このうち後者を指す言葉がNEATです。
運動 | 運動以外の活動 |
---|---|
体操、ウォーキング、ランニング、テニス、卓球、エアロビクス、ゲートボール、など | 料理、洗濯、窓拭き、子供や孫と遊ぶ、犬の散歩、買い物、趣味、畑仕事、階段昇降、など |
運動以外の活動によるエネルギー消費がNEATであり、スポーツや運動というよりも「活動」に分類されるものが含まれています。
これまではある程度強度の高い運動が注目されてきましたが、日常生活における何気ない活動によるNEATも、健康との関連が示されています。
●エネルギー消費の内訳とは?
NEATを高める習慣によってエネルギー消費は増えますが、総エネルギー消費量は次の3つの要素で構成されています。
- ●基礎代謝量…約6割
- ●食事誘発性熱産生…約1割
- ●身体活動量…約3割
特に何もせず安静に過ごしているだけでも、生命維持のためにはエネルギーが必要になりますが、このとき必要な最低限のエネルギーを基礎代謝といいます。
また、食事誘発性熱産生とは、食事をとって体の中で栄養素が分解されるときに、一部が熱となって消費されることを意味します。
個人によって特に差が生じやすいといわれているのが、エネルギー消費の約3割を占める「身体活動量」です。
身体活動量は、運動と運動以外の活動の合計によって決まるため、NEATを高めることが大切になります。
NEATが健康に及ぼす影響 生活習慣病や肥満との関係は?
NEATを高めるように心がけることは大切ですが、それによって健康面に良い影響があるのでしょうか?
NEATは生活習慣病や肥満とも密接な関係があるとされているため、健康管理のためにも情報収集していきましょう。
●肥満者はNEATが少ない
NEATの習慣が少ないと、肥満のリスクが高まることがわかっています。
Levineら(2005)の研究では、肥満の人と細身の人を比較したときに、肥満者では座って過ごす時間が1日あたり平均約2.5時間も長いことがわかっています。
肥満になると糖尿病、脂質異常症、高血圧になりやすく、生活習慣病のリスクが高まるため、NEATでコツコツと身体活動量を増やすことが大切です。
●座っている時間が長いと死亡率が高まる
Chauら(2013)の研究では、1989年から2013年までの論文から、1日の中で座って過ごす時間と病気で死亡するリスクの関連を調べています。
この調査から、座って過ごす時間が0〜3時間のときの死亡率が1.00だとすると、3〜7時間以上で1.02、7時間以上で1.05にリスクが上昇することがわかっています。
さらに、1日に10時間以上座っている人では死亡率が34%も増加すると結論付けています。
このように、「1日の中で座っている時間」に焦点を当てて行われている研究や調査は多く、NEATに関連したテーマはトピックのひとつになっています。
NEATを高める習慣によって、肥満や生活習慣病、心疾患のリスクを下げることが大切になります。
毎日の生活で心がけたい!NEATを高めるための具体例
NEATを高めることは健康上とても大切ですが、もちろん十分な休息をとって体を休めることも欠かせないため、何事もバランスが重要です。
「座っている時間、横になっている時間が長すぎる」という実感がある方は、ぜひ毎日の生活でNEATを高めていってください。
●座る・横になる時間を減らす
一日の大半を座ったまま過ごしているという方は、まずここから見直す必要があります。
定年後の方、デスクワークの方ではどうしても座った姿勢で過ごす時間が長くなってしまいがちです。
横になったりしたままテレビを見る習慣がある人は、少なくとも体を起こして椅子に座った姿勢で視聴してみてはいかがでしょうか。
机に向かって作業をする時間が長い方なら、1日の中でスタンディングを利用する時間を設けることもおすすめです。
●姿勢の保ち方を意識する
悪い姿勢になると「楽だ」と感じる方もいるはずですが、それだけ体の筋肉が使われていないというサインでもあります。
立っているときも、座っているときも、背筋を正し、良い姿勢を保っていると、NEATを増やすことにつながります。
座っているときは、あえて椅子の背もたれを使わずに姿勢を保つことを実践してみるのも良いでしょう。
●座って過ごすときはときどき体を動かす
自宅でテレビを見たり、机に向かって作業したりするときには、長時間座ったままの姿勢になってしまいます。
たとえば、テレビ番組がひとつ終わったら足踏みをしたり、1時間座っていたら1分は立ってストレッチをしたり、自分でルールを決めてみてはいかがでしょうか。
習慣として定着するまでには少し時間がかかりますが、健康のためと思って継続してみてください。
●家の掃除をする
掃除の合格点は人によって異なりますが、きれいな環境で過ごすことを嫌がる人はいないものです。
NEATを高めるという目的で家の掃除をしてみると、体を動かす機会になりますし、家がきれいになると家族にも喜ばれるはずです。
掃除機をかける、洗濯をするといった基本の家事のほかに、「今日は玄関の床を磨こうかな」「窓を拭いてみようかな」と、普段なかなか手が届かない作業をしてみるのも良いきっかけになるでしょう。
なお、NEATに該当する活動は運動の強度(METs)が「3METs以下」であることが目安となります。
もちろん3METs以上の運動を習慣化することも大切ですが、どんな運動・活動の例があるのか詳しく知りたい方はこちらの記事(高齢者にとって理想の運動量はどのくらい?目安を知って健康増進に役立てよう!)もご参照ください。
NEATを高める習慣は心がけ次第で実践できる!
「健康のための運動」と聞けば、スポーツジムに通ったり、毎日決められたメニューで運動をこなしたり、継続するのが難しいと感じられる内容も多いでしょう。
しかし、NEATを高める習慣は、ちょっとした心がけで身につけることができます。
「面倒だ」「おっくうだ」という気持ちを捨て、テレビの前で横になって過ごす、ベッドや椅子でじっとして過ごす時間を減らしてみてはいかがでしょうか。
特別な道具がなくても手軽に実践できるため、ぜひNEATを意識しながら生活してみてください。
参考:
厚生労働省 e-ヘルスネット 身体活動とエネルギー代謝.(2019年4月21日引用)
Levine JA et al.: Interindividual variation in posture allocation: possible role in human obesity. Science28(307):584-586, 2005.(2019年4月21日引用)
Chau JY et al.: Daily sitting time and all-cause mortality. PLoS One 8(11), 2013.(2019年4月21日引用)
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執筆者
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作業療法士の資格取得後、介護老人保健施設で脳卒中や認知症の方のリハビリに従事。その後、病院にて外来リハビリを経験し、特に発達障害の子どもの療育に携わる。
勉強会や学会等に足を運び、新しい知見を吸収しながら臨床業務に当たっていた。現在はフリーライターに転身し、医療や介護に関わる記事の執筆や取材等を中心に活動しています。
保有資格:作業療法士、作業療法学修士