転倒による⾻折を防ぐ⽅法とは? 体の状態に合わせた具体的な対策を紹介します
高齢者が転倒による骨折をしてしまうと、介護が必要になったり、寝たきりになったりする危険性が高まります。
そのため、転倒による骨折を防ぐ正しい方法を知り、なるべく早く対策をすることが重要です。
今回は体の状態に合わせて、転倒を防ぐだけでなく、転倒したとしても骨折の発生を防ぐ方法を紹介します。
第一の対策は転ばない体づくり
転倒による骨折を防ぐためには、何よりも転倒しないことが重要です。
そのため、日頃から運動をして転倒をしない体づくりを継続する必要があります。
今回は転倒予防にオススメの運動を紹介します。
●ロコモーショントレーニングで転ばない体をつくる
足腰の力が弱ってくることが転倒に直結することは想像に難しくないでしょう。
そのため、足腰の力を保つ運動を継続することが重要です。
ロコモーショントレーニング(以下ロコトレ)は筋肉や骨、関節など歩いたり、立ったりするために必要な器官を鍛えるトレーニングです。
とても簡単で誰でもできるので、転倒予防にはオススメの運動です。
※ロコトレの詳しい方法は「健康寿命を左右する!ロコモティブシンドローム(運動器症候群)のセルフチェック・予防の方法」で解説しています。
●デュアルタスクトレーニングで脳を鍛えて転倒を防ぐ
体が衰えて転倒しやすくなるだけでなく、脳の機能が衰えて転倒しやすくなる場合があります。
それが、2つ以上のことを同時に処理するデュアルタスクという能力の低下です。
たとえば、ものを運んでいて何かにつまずいて転ぶというような場合が挙げられます。
そのため、デュアルタスクを鍛えるトレーニングをして、脳の情報を処理する機能を保つことが転倒予防の体づくりには重要です。
※デュアルタスクトレーニングのやり方は「二重課題(デュアルタスク)のトレーニング例は?リハビリ室ですぐに使える訓練のアイデア3つ」で紹介しています。
●活動する量の低下を防いで体の動きを保とう
しっかり日中に活動的な生活を送っていなければ、いくら上記のような運動をしっかりしても、体の動きは衰えやすくなってしまいます。
そのため、前提として毎日の生活の中で活動する量を保つことが重要になります。
オススメの運動はウォーキングで、スポーツなどの趣味がない人でも毎日の習慣に取り入れやすいです。
後述しますが、骨に刺激を与えたり、日光にも当たったりすることで骨折の予防にもつながる一石二鳥の運動です。
※ウォーキングの正しい方法については、「高齢者の介護予防におすすめなウォーキングのコツを理学療法士が解説します」で紹介しています。
転倒の危険性が高い場合は転ばない環境づくりを
体を鍛えていっても、高齢になったり、けがや病気をしたりしてしまうと、どうしても転倒の危険性が高くなってしまいます。
そのような体の状態であれば、転ばない環境をつくって、低下した体の機能を補う工夫をすることで、転倒による骨折を防ぐことができます。
●自宅の環境を調整しよう
転倒を引き起こすことがもっとも多いのが自宅の居間です。
玄関やトイレ、浴室など転倒をしやすそうですが、これらの場所は意識してバリアフリーにすることが多く、手すりの設置や段差の解消をするケースが少なくありません。
しかし、普段何気なく使っていて、特に危険な所もないような居間こそ、転倒のリスクが高い場所なのです。
以下に居間に潜む危険な箇所を紹介します。
- ○床に置いた新聞や雑誌、脱いだ服など
- ○めくれたカーペット
- ○暗い電気
など
このような場所でつまずいたり、滑ったりすることが転倒を引き起こします。
そのため、床にものを置かないように片付けたり、カーペットがめくれないように固定したりといった工夫が必要です。
●自分の身に着けるものを工夫しよう
周辺の環境を整えるとともに、自分自身で身に着けるものを工夫することが転倒を防ぐために重要です。
とりわけ、足に合わない靴やスリッパの着用は転倒の要因となります。
また、転倒予防の工夫がされた靴や靴下も開発されており、履物の工夫で転倒のリスクを減らすことができます。
歩くのが不安な場合は、屋内でも杖を使用するようにしましょう。
「家の床が傷つくから杖は嫌だ」と言われることもありますが、最近は杖先のゴムの幅が広い杖などがあるため、傷つける不安がないものを選ぶことができます。
さらに歩行の状態が悪い場合は、屋内用の歩行器の検討をしましょう。
歩行器の場合は段差があると使用しづらいので、住宅改修で自宅内の段差解消を一緒に検討するようにしましょう。
※高齢者の靴については、「高齢者の靴の選び方は足の状態や目的に注目!医療介護現場で正しい靴を履いてもらおう」で詳しく解説しています。
転んでも骨折を引き起こさないような対策も重要
運動をしたり、環境を調整したりして転倒を防ぐことが何より重要ですが、100%転倒を防げるわけではありません。
そのため、万が一転倒をしても骨折をしない対策を日頃からしておくことも重要です。
●骨を強くするための3つのポイント
転倒しても骨折をしない対策の基本は丈夫な骨を保つことです。
丈夫な骨にするためには、以下の3つのポイントがあります。
1.栄養
カルシウムやビタミンDは骨を強くする栄養素です。
日頃から工夫して取るようにしましょう。
2.運動
運動により骨に刺激を与えることで、丈夫な骨を保つことができます。
3.日光
紫外線に当たることで、体内でビタミンDを作ることができます。
日頃からこれらのポイントを意識した生活習慣を続けることで、骨折しにくい骨を保つようにしましょう。
※丈夫な骨の保ち方については、「骨粗鬆症の進行を止めよう!骨粗鬆症の治療と日頃から気をつけたい生活習慣」で詳しく解説しています。
●寝たきりを防ぐヒッププロテクター
転倒による骨折の中でも、足の付け根の骨折である、大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)は、転倒でもっとも起こりやすい骨折です。
また、脚の骨折ですので、歩くことが障害されやすく、結果として介護が必要な状態を招いたり、場合によっては寝たきりを引き起こしたりする骨折です。
そのため、転倒による骨折の中でも、大腿骨近位部骨折を防ぐことが重要なポイントになります。
ヒッププロテクターは、スパッツのようなパンツに衝撃を吸収するパッドがついており、転倒した際に生じる脚の付け根への衝撃を緩和することができます。
大手下着メーカーが開発した女性向けのガードルにパッドを使用したものや、腹巻のようなバンドにパッドを使用したものなどもあります。
これらのものを日頃から着用することで、万一転倒しても、骨折をするリスクを減らすことができます。
運動、栄養、環境を日頃から工夫して転倒による骨折を防ごう
転倒による骨折を防ぐためには、「転ばない体」、「転びにくい環境」、「転んでも骨折しにくい状態」の3つを保つことが必要です。
そのために、ご紹介した運動や栄養、環境の工夫をして、日頃から継続していくことが重要です。
いつから行っても遅くはないですので、すぐにでもできるところから始めて、転倒による骨折を防ぎ、元気で健康的な生活を送り続けましょう。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級