肉離れになったらどうする?適切な対処法と、予防のポイントを知ろう
肉離れは、誰しも一度は耳にしたことがある程非常に身近なけがといえます。
何度も繰り返している方は、もしかしたら正しく治っていないことや、普段の使い方に問題があるかもしれません。
そこで今回は、肉離れがどこに起きやすいのか、初期治療としてどう対応すれば良いか、予防のために是非やっておきたいことをまとめました。
肉離れは、筋肉自体の傷つきではなかった
ここでは、肉離れの病態について触れていきたいと思います。
●肉離れの病態解明。筋肉と腱の境目が痛んでいた?
そもそも筋肉は、筋繊維(せんい)と呼ばれる細い糸のような組織が集まってできています。つまり肉離れは、力に耐えきれず、この筋肉の糸がプツンと切れてしまった状態だろうとされていました。
しかし昨今の研究結果から、筋繊維の損傷ではなく、筋肉が腱(けん)に移る場所(筋腱移行部)に損傷が起きていることがわかりました。
腱は筋肉が収縮した力を骨に伝える役割を担っており、ほとんど伸び縮みをしません。
筋肉の収縮に伴い、筋腱移行部にも引っ張る力が加わります。
この力が限界を超えて、筋腱移行部が引き離されるように傷ついた状態が肉離れです。
●似ているけれど違う、肉離れと筋挫傷(ざしょう)について
ラグビーのタックルやバスケットでの競り合いなど、接触による受傷は筋挫傷(ざしょう)といわれ、これは筋肉自体が圧力に耐えられず傷つくことで、損傷し痛みを引き起こします。
受傷のきっかけにより、傷つく場所が異なりますので、どのような状況で発症したかを覚えておくことが、治療を進めていく上で重要な情報となります。
肉離れの治療について、詳しく解説
肉離れは、初期の治療が重要になり、経過を左右するといっても過言ではありません。
治療の考え方とその実際について述べていきます。
●RICE処置を徹底し、炎症の炎を早く消そう!
肉離れが起こると、その場所に炎症が起こります。
これは、傷んだ組織を修復するための正常な身体の反応です。
一般的に傷ついた組織の炎症のピークは、受傷から48~72時間とされています。
この期間は何をしても痛みがある状態ですので、無理して動かさず、初期治療としてRICE処置を行います。
RICE処置とは、Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙げる)の頭文字を取った処置のことです。
RICE処置を行うことで、けがをした場所の必要以上な腫れを抑え、組織の修復を促します。
また、この時期にレーザー療法を組み合わせることで、炎症による痛みを和らげることが可能となりオススメです。
●どのくらいの期間で組織は治る?
たとえば、包丁で手を切ってしまった場所が治癒する期間と、転んで骨折をした場所が治癒する期間は当然違います。
そもそも正常な組織修復に要する期間は、各組織で概ね決まっているのです。
簡単にまとめると、以下のようになります。
組織 | 修復に要する期間 |
---|---|
皮膚 | 約1週間 |
筋肉(軽症) | 約2~3週間 |
筋肉(重症) | 約2カ月~ |
腱 | 2カ月~ |
この期間にけがをした場所に過度な力や不要なストレッチを行ってしまうと、修復に要する期間が伸びてしまい、場合によっては適切な修復が得られなくなる可能性があります。
●痛みが落ち着いてきたら、ストレッチ開始!
炎症や痛みが落ち着いてきたら、少しずつ軽い負荷でストレッチを開始していきます。
開始する目安になるのが、ストレッチをしたときに筋肉の痛みを伴わず、伸びている感覚が得られるようになってきたときです。
一見矛盾しているように思われるかと思いますが、組織が修復する過程を安静にし過ぎてしまうと、修復された組織の並びが絡んだ毛糸玉のようになってしまい、正しく伸び縮みする機能を失ってしまいます。
このため、適切な刺激を加えながら組織を修復させていくことで、正しい組織の並びをつくるように促していく必要があります。
また、組織を狙って刺激を加えることが可能な電気刺激装置による治療もオススメです。
どこでもできる!予防するための対策と簡単なストレッチ
ここでは、最も肉離れを起こしやすい筋肉である、腿裏のハムストリングスという筋肉を例にして、述べていきます。
●運動前にはしっかりとウォーミングアップをしましょう!
ついつい面倒になり、雑になりがちなウォーミングアップですが、身体を温めることで筋肉の柔軟性を高めるとともに、関節の可動域を広げて局所的な過負荷を避けることができます。特に普段運動習慣があまりない方は、筋肉や関節がより動きにくい状態となっていることが想定されます。
ウォーミングアップが十分か判断する客観的な指標として、目標心拍数があります。計算式で表すと、
目標心拍数=最大心拍出量(220ー年齢)×目標運動強度%
となります。
ウォーミングアップは、目標運動強度として50%程度が望ましいとされているので、この数値を目安にウォーミングアップを行うことをオススメします。
●バランス良く筋肉をつけて、肉離れを予防しよう!
筋肉の前後のバランスが乱れることで、対側の筋肉が相対的に弱くなり、肉離れになりやすくなることがあります。
最も多い例が、大腿四頭筋とハムストリングスの筋肉バランスの乱れです。
通常、大腿四頭筋とハムストリングスの筋力の比率は、大腿四頭筋のほうが強いとされています。
しかし、大腿四頭筋のトレーニング過多や、ハムストリングスの筋力低下が起きると、相対的にハムストリングスの筋力が低下し、同筋の肉離れリスクが高まってしまうのです。
簡単な目安となるのは、トレーニングジムにある、レッグエクステンションとレッグカールの器具で、持ち上げられた重量の比率です。
大腿四頭筋の筋力とハムストリングスの筋力の比が半分以下になると、ハムストリングスを痛めるリスクがぐんと高まります。
前後をバランス良く鍛えることで、肉離れしにくい状態をつくることが大切です。
●筆者も実践中!ハムストリングスの簡単な筋トレの方法はこれ!
ハムストリングスを鍛える簡単な方法として、オススメなのがお尻上げ運動です。
- 1.仰向けに寝て、両方の膝を立てます。
- 2.お尻と腿裏に力を入れて、お尻を持ち上げて3秒止めます。
このときに、腿裏がつりそうになる場合は、ハムストリングスがかなり弱くなっている証拠なので、無理せず膝を曲げる角度を増やして、できる範囲で行いましょう。
●日頃からできる、簡単なストレッチ方法はこれ!
運動不足や、座る姿勢が長い方は、特にハムストリングスが固くなりやすい状態です。
こうした方は、通常よりも筋肉が伸びにくくなっているため、日頃からストレッチをして柔らかい状態を維持することが大切です。
椅子に座りながらでも、簡単に行える方法を紹介します。
- 1.椅子に浅く腰掛け、姿勢を正します。
- 2.伸ばしたい足の膝をまっすぐ前に伸ばし、爪先を天井に向けます。
- 3.身体をまっすぐにしたまま、両手で立てた爪先を触るよう身体を前に倒します。
- 4.腿裏が伸びたと感じたところで、20秒止めます。
このストレッチを1回に2~3セット、気がついたときにマメに行うことで徐々に柔らかくすることが可能です。
日頃の身体の使い方や、習慣を見直してみましょう!
肉離れは、ウォーミングアップや弱くなった筋肉のトレーニング、ストレッチの方法を習得し、習慣づけることで予防することができます。
この機会に、ご自身の身体や運動の取り組み方を見直し、けがの予防に努めてみるのはいかがでしょうか。
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執筆者
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理学療法士として、整形外科に勤務する傍ら、執筆活動をしています。
一般的な整形分野から、栄養指導、スポーツ競技毎の怪我の特性や、障害予防、 自宅でできる簡単なエクササイズの方法などの記事を書くのが得意です。
仕事柄、介護部門との関連も多く、介護の方法を自分が指導することもあります。
保有資格等:理学療法士、福祉住環境コーディネーター2級