コロナウイルスによる外出自粛で高齢者がフレイルになるリスクが増加!理学療法士が今すぐにできる対策や運動の方法を紹介
コロナウイルスの影響で外出自粛が長引き、運動不足の方が多くなっています。
中でも高齢者が外出しなくなると、運動不足で体の機能が低下するのはもちろん、精神面の不調や社会的な孤立といった状態につながります。
このような状態が長引いた結果、「介護が必要な状態の一歩手前」である「フレイル」の状態に陥る可能性が高まってしまいます。
そこで、外出自粛によるフレイルについて解説し、その対策として運動の方法や生活の工夫について紹介します。
目次
外出自粛によるフレイルについて解説!正しく理解して対策につなげよう
「要介護状態の手前の状態」とされる「フレイル」ですが、「外出自粛でそんな状態になるの!?」と驚く方もいるのではないでしょうか。
そこで、外出自粛でどのようにフレイルになっていくのかを解説します。
●フレイルは「体の衰え」と「精神状態の変化」や「人との関わりの減少」が合わさったもの
メディアの影響もあり、最近はフレイルという言葉が少しずつ聞かれるようになっていますが、普段病院で働いていても、まだまだ知名度が低いように感じます。
フレイルは「運動不足で体が弱った状態」のことだと思っている方が多いですが、気力や意欲の低下といった「精神的な不調」や、人と話さない、一人でいる時間が多いといった「人との関わりの減少」といったことが合わさった状態を指します。
フレイルの意味を正確に知れば、外出自粛とフレイルが強く関連してくるのが想像しやすいのではないでしょうか。
※フレイルについては「介護が必要になるのは目前!?介護予防のためには必ず知っておきたいフレイルについて解説します!」で詳しく解説しています。
●自宅に閉じこもって動かない状態が続くことにより起こる変化
外出自粛のどの状態がどのようにフレイルに結びつくか、具体的な例をいくつか見てみましょう。
外出自粛で起こる状態 |
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1.屋内にいて体を動かさない 2.趣味をすることがない 3.買い物に行けず食事を抜いてしまう 4.だらだら間食ばかりして栄養が偏る 5.外にでないので日光に当たることがない 6.普段会っている近所の人と話をしない 7.子供や孫が遊びに来ない |
上の表の1や2の状態は自宅に閉じこもりがちになることで「運動不足」を招きます。
フレイルには筋力の低下や歩く速さの低下といった体の機能の低下が含まれますので、運動不足によってこれらの能力に悪影響を及ぼします。
また、3や4の状態では栄養不足や栄養の偏りが生じます。
栄養の不足が筋力の低下を招くのはもちろんですが、もともと何かしらの病気を患っていることが多い高齢者にとって、全身の不調や病気の悪化につながります。
そして、5〜7のように人との関わりが減少することは、高齢者にとって大きな問題となります。
要介護状態に至る要因の1つにスポーツやボランティア、趣味活動といった社会参加の減少が含まれるため、ここ数年で「社会参加の場所」として近所の集会所などを利用した「住民が運営する通いの場」を作る試みが行政を中心として進められてきました。
このような通いの場に参加することで要介護状態の予防をしたり、進行を遅らせたりすることができています。
しかし、コロナウイルスによる活動自粛は高齢者の社会参加の機会を奪ってしまうため、フレイルのリスクを高める原因となるのです。
実際、筆者の働くクリニックでも毎週通っていた近所の体操教室が中止になって、体が動かせない、人と交流できないということで、心身ともに不調になっている患者さんもいます。
自宅でもできる運動はたくさんある!自治体のコンテンツを活用しよう
「自宅でどのような運動をしていいのかわからない」
このような理由で何もしないのはよくありません。
フレイル対策には、特別に難しい運動をする必要は全くありません。
そこでフレイルを予防するための運動を紹介します。
●体の状態に合わせた「ロコトレ」がおすすめ
転倒や骨折の予防として知られる「ロコモーショントレーニング(以下ロコトレ)」は体の状態に合わせて行え、効率的に脚の筋力を鍛えられるおすすめの運動です。
時間も場所もそれほど必要のない運動ですので、毎日の習慣として取り入れるようにしましょう。
※ロコトレの方法や継続するポイントは「運動器不安定症と診断された場合 どうすればいいの?診断の意味やリハビリの⽅法を整形外科理学療法⼠が解説します」で紹介しています。
●頭の健康も同時に保つ!デュアルタスクトレーニングをしよう
フレイル予防には体だけでなく、脳をしっかり働かせて認知機能の低下も防ぐことが大切です。
そのためには、体と頭を一緒に働かせる「デュアルタスクトレーニング」がおすすめです。
特に「足踏みしながら計算問題を解く」というように、有酸素運動と脳トレを組み合わせる方法がおすすめですので実践していきましょう。
※デュアルタスクトレーニングについては「二重課題(デュアルタスク)のトレーニング例は?リハビリ室ですぐに使える訓練のアイデア3つ」で詳しく紹介しています。
●食事の前にはお口の体操で飲み込む力や噛む力を保とう
食べ物を噛んだり飲み込んだりする力が低下することで、栄養が上手に取り込めなくなり、結果としてフレイルの状態に至ることを「オーラルフレイル」と呼びます。
そのため、フレイル対策には口周りの機能を保つことも大切です。
外出自粛で人との会話が少なくなることは、オーラルフレイルにつながります、歌を歌ったり、早口言葉で遊んだりすることで口周りの筋肉を衰えさせないようにしましょう。
また、「嚥下体操」は飲み込むために必要な機能を保つ運動ですので、毎日の食事前に実践しましょう。
※嚥下体操の方法は「肺炎にはリハビリが必要なの?高齢者がかかりやすい肺炎、急性期や回復期のリハビリの重要性」で解説しています。
●自治体のコンテンツで体操をしよう
前述のように外出自粛のため日頃行っていた集まりの場で体操ができなくなったという方は少なくないですが、自宅でも体操ができるように多くの自治体が体操の動画を閲覧できるようにしています。
たとえば、筆者の働く広島市ではYouTubeで広島カープとコラボした、「がんばれ!!カープ ひろしま百歳体操」が期間限定で配信されています。
各自治体のサイトに体操の動画やパンフレットなどが閲覧できるようにリンクされていますので、それを見ながら日頃行っていた体操をしたり、ほかの自治体で実施している体操をしてみたりしましょう。
今後の通いの場再開に向けて新しい体操を導入する良いきっかけにするのもおすすめですので、ぜひ参考にしてみてください。
フレイル対策には運動に加えて生活習慣の工夫も重要
フレイル対策には運動のほかにも「適切に栄養補給をする」ことや「人と関わりを保つ」ことが大切です。
外出自粛が解除された今から行える具体的な生活習慣の工夫を紹介します。
●人とのコミュニケーションを定期的に取ろう!テレビ電話の活用もおすすめ
外出自粛によるフレイル対策として、重要なことの1つが人との関わりを保つことです。
自粛解除されたため、少しずつコミュニケーションを取れる機会が増えていると思いますので、三密を避け、感染対策をしながら近所の人や家族との関わりを保つようにしましょう。
自宅に閉じこもらず家の近所を散歩したり、庭にでたりして近所の人と挨拶や世間話をするだけでも大切なコミュニケーションです。
また、外出自粛中にテレビ電話などのオンライン上でのコミュニケーションが広まっています。
今後も積極的に活用して、どのような状況でもコミュニケーションが取れるような対策をしておきましょう。
●寝たきり・座りっぱなしにならない生活を送ろう
ご紹介した体操で体を動かす以外にも、寝てばかり、座りっぱなしにならないように意識して体を動かしましょう。
家事をしたり庭の手入れをしたりと少しでも体や頭を使う生活を続けることが大切です。
●バランスの良い食事を取ろう
自宅に閉じこもりがちになると、不規則な食生活に陥りがちです。
三食の食事をしっかり取って栄養不足に陥らないようにしましょう。
前述のように、運動にとってはタンパク質の補給は欠かせません。
栄養補助食品なども活用しながら、しっかり栄養を取るようにしましょう。
外出自粛で衰えた機能を回復させてフレイルを防ごう
外出の自粛は多くの人の心身に大きなストレスを与えます。
とりわけ、さまざまな疾患を抱えていたり、体力の低下が見られたりする高齢者に大きな影響を与えています。
外出自粛が解除された今でも、そのとき生じたストレスが影響でフレイル状態またはそれに近い状態に陥っている可能性があります。
今回ご紹介した対策をしながら、正しい情報を入手しつつ無理のない範囲でフレイルの予防をしましょう。
筆者の周りでも多くの住民が自治体と協力しながら、通いの場の再開に向けて動き出されています。
再びみんなで楽しく、健康的な取り組みができるように、自宅でも積極的に体を動かしましょう。
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級