ストレッチはなぜ体に良いの?ストレッチの種類や効果を理学療法士が解説します
誰もがしたことがあるストレッチですが、どうして体にいいのか知っていますか?
一言にストレッチといっても色々な種類があって、それぞれ体にもたらす反応が異なり、効果もさまざまです。
体にどのような変化が起こるのかを知れば、みなさんの目的に合わせたストレッチを選択することができます。
そこでストレッチによる体の変化を踏まえて、種類や効果について解説します。
ストレッチで体にどのような反応が起こるのか解説
ストレッチといえば「筋肉を伸ばす」というイメージを持つ方が多いと思いますが、ストレッチにより体にどのような反応が起こるかを知る方は少ないのではないでしょうか。
正しく方法を選択するために、まずはストレッチで体に起こる反応を詳しく知りましょう。
●短くなった組織(筋肉、腱、皮膚など)を元の長さに戻す
ギプスや痛みで関節を動かせなかったり、長期間関節を固定していたりすると、筋肉や腱などの組織が短くなってしまい、動きに制限を引き起こしてしまいます。
ストレッチによりそれらの組織を伸ばすことで、短くなった組織を元の長さに戻し、関節の動きを改善します。
●神経の反応で筋肉が緩む
私たちが運動前に行うストレッチでは組織の長さを物理的に長くするというより、神経の反応で筋肉が緩み、伸びやすくなるほうが多いとされています。
筋肉の先にある腱には筋肉の長さや張り具合を感知する器官とそれにつながる神経が通っています。
筋肉や腱が伸ばされると、その器官が刺激を感知して神経に伝えます。
神経を伝わった刺激は背骨を通る神経である脊髄(せきずい)を介して筋肉が緩むような刺激として戻ってきます。
結果として筋肉は緩み、柔軟性が高まります。
このような神経の働きで筋肉が緩むのは以下のようにいくつかのパターンがあります。
1.1b抑制(自原抑制)
筋肉と腱のちょうど移行する部分に「ゴルジ腱器官」と呼ばれる器官があります。
ストレッチによりこの器官に刺激が加わることで伸ばされた筋肉が緩みます。
このような反応を1b抑制または自原抑制と呼びます。
一般的にストレッチで筋肉が緩むのはこの反応を想像しやすいのではないかと思います。
2.反回抑制
筋肉が最大限収縮することで、収縮後に筋肉が緩むという現象が起こります。
これは脊髄にあるレンショウ細胞と呼ばれる細胞の働きによるとされており、反回抑制と呼ばれます。
自分で行うストレッチでは、なかなか筋肉を最大限収縮させることが難しいため、理学療法士などが治療でこの作用を活用する場合が多いです。
3.1a抑制(相反神経抑制)
これは一方の筋肉に力を入れることで、反対側の筋肉が緩むという反応です。
たとえば、太ももの裏の筋肉をストレッチする前に、膝を伸ばすように太ももの前の筋肉に力を入れることで、太ももの裏の筋肉が緩みストレッチがしやすくなります。
膝のお皿として知られている膝蓋骨(しつがいこつ)の下の腱を叩くと膝が勝手に伸びる反射(膝蓋腱反射:しつがいけんはんしゃ)は誰もが経験したことがあると思いますが、これも1a抑制が作用しています。
膝蓋骨の下の腱は太ももの表の筋肉である大腿四頭筋からつながる腱で、ここを叩くと反射的に筋肉が縮みます。
それと同時に太ももの裏の筋肉が1a抑制により緩むため、膝が勢いよく伸びるという現象が生じるのです。
ストレッチでは以上のような反応を利用して筋肉を緩ませます。
ストレッチ種類と効果の違いを知ろう
ストレッチには先ほど解説したような理論を活用したさまざまな方法があります。
そこで、ストレッチの種類と効果の違いを知って使い分けるようにしましょう。
●スタティックストレッチ
反動をつけずに徐々に筋肉を伸ばすストレッチです。
1b抑制を活用することで伸ばした筋肉を緩めることができます。
皆さんもゆっくり反動をつけずアキレス腱を伸ばしたり、膝を伸ばして前にかがむことで膝の裏の筋肉であるハムストリングスを伸ばしたりしたことがあるはずです。
注意点としては反動をつけずに、ゆっくり徐々に力を入れながら伸ばしていくことです。
いきなり筋肉を強く伸ばすと、膝蓋腱反射のように伸ばされた筋肉が反射で縮んでしまいます。
そのためゆっくりと徐々に力を加えて伸ばしていくことが重要です。
またヨガのようなゆっくりとした動きの中でも取り入れられているように、心理的なリラクセーション効果も期待できます。
●バリスティックストレッチ
スタティックストレッチとは対照的に動きをつけて筋肉を伸ばすストレッチです。
スタティックストレッチを小刻みに反動を加えながら実施するとイメージしてもらうと良いでしょう。
反動を加えるため、勢いをつけすぎると筋肉の損傷を招いたり、反射により筋肉が縮んでしまったりするリスクがあります。
しかし、体を動かしながらストレッチをすることで柔軟性の改善に加えて、体を温めたり、心拍数を上げたりといった運動前のウォーミングアップにつながります。
●ダイナミックストレッチ
バリスティックストレッチのように筋肉を伸ばした状態で反動を加えるのではなく、関節を大きく動かすことで筋肉をほぐしていく方法です。
スポーツ選手のウォーミングアップで実施しているような運動はダイナミックストレッチになります。
ダイナミックストレッチは筋肉を収縮させて関節を動かすストレッチですので、1a抑制を利用したストレッチです。
つまり収縮させた筋肉と反対の筋肉を緩めていきながら徐々に動く範囲を広げます。
私の地元の広島カープで活躍した前田健太投手の「マエケン体操」も肩の関節の動きを広げるダイナミックストレッチです。
バリスティックストレッチ同様、筋肉を温めたり、心拍数を上げたりといった効果があり、スポーツ前のウォーミングアップに適しています。
※ウォーミングアップについては、「ウォーミングアップやクーリングダウンは必要?目的や効果、メニューについて理学療法士が解説」で詳しく解説しています。
体にいいことばかりではない!?ストレッチのデメリットとは
cストレッチは体にいいことばかりではなく、状況に応じて使い分けたり、正しいやり方をしなかったりするとデメリットが生じることもあります。
そこでデメリットになる状況や要因を解説します。
●運動前に長時間のスタティックストレッチはしない
スタティックストレッチは90秒以上の長時間行うことで、その後の筋力が低下するという報告があります。
また、運動前は体を温め動きやすくする必要がありますが、動きの少ないスタティックストレッチでは体を冷やすことにもつながります。
そのため、運動前は動きのあるダイナミックストレッチやバリスティックストレッチを実施するようにしましょう。
●無理なストレッチは組織を損傷させる危険性がある
組織を伸ばすストレッチを無理な力で実施すると、組織を損傷する恐れがあり注意が必要です。
とりわけバリスティックストレッチは反動を利用して組織を伸ばすため、弱い力で行わないと勢いがつきすぎて思っている以上に組織が伸びすぎる恐れがあります。
そのため弱い力で無理をせず、痛みのない範囲で行うようにしましょう。
●息を止めると緊張が加わり筋肉が緩まない
ストレッチをする場合、集中してしまいつい息を止めてしまう方が多くいます。
しかし、息を止めると体が緊張しやすく、血圧も上昇するため、リラックスをするどころか筋肉がこわばってしまいます。
そのため、息を止めずに実施するように注意しましょう。
効果を高めるためにストレッチがなぜ体にいいのか理解しよう
ちまたでは色々なストレッチ方法が紹介されており、日常生活や運動前後に取り入れている方も多いと思います。
しかし、闇雲に行ってはデメリットが生じる場合もあります。
ストレッチがなぜ体にいいのか、どのように作用するのかを理解して、自分の体や状況に合った方法を選択することで効果を高めることができます。
今回ご紹介した内容を知ることで、適切なストレッチを実践する手助けとなれば幸いです。
参考:
Behm DG, Chaouachi A: A review of the acute effects of static and dynamic stretching on performance. Eur J Appl Physiol111(11): 2633‒2651, 2011.
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級