熱中症対策に身体力をつけよう!消防士も実践する、暑熱順化トレーニングの方法とは?
消防士が重たい装備をかかえて火の近くで活動していても熱中症になりにくいのは、日頃の厳しい鍛錬(たんれん)はもちろんですが、暑さに強い体をつくる暑熱順化トレーニングを行っていることも一つの要因として考えられます。
そこで今回は消防士も実践している、暑熱順化トレーニングについてお伝えします。
暑熱順化とは?
暑熱順化とは、文字のごとく熱や暑さに慣れることを意味します。
暑さに慣れるといっても、気温が今までよりも低く感じるようになるという意味ではありません。
熱に慣れるとともに、汗を上手にかけるようにすること、さらには身体の中の熱をこもらせず、逃がすような身体へと変化させていくことを指します。
近年は異常気象により夏の暑さが厳しく、連日の猛暑日で体調を崩された経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
30℃を超える猛暑の中で熱中症を予防するには、適度な水分補給はもちろんですが、暑さに慣れることが必要です。
暑熱順化を行い、身体の温度調節機能を向上させることで、熱中症の予防が期待できます。
●身体の温度は、表面と深部で異なる!
人の温度は外殻(がいかく)温度と核心(かくしん)温度に分けられます。
外殻温度とは身体の表面の温度を指し、およそ34℃前後とされていますが、外気の影響で上昇や低下を繰り返します。
核心温度とは身体の内部にある脳や臓器の温度を指し、37℃前後に保たれています。
これは、皮膚の温度を感じるセンサーや、脳にある視床下部という部位の働きによって成り立っています。
これにより、脳内の温度や臓器の温度を一定に保ち、安定して働くことができる環境を維持しているのです。
体温を測るときに脇の下で測るのが一般的ですが、これは核心温度を測りやすい部位だからです。
脇の下で測定した際に熱があるときは、核心温度が上昇しているということになります。
●暑いときの体温調節は、どのように行っている?
先ほど述べたように、身体には絶えず体温を一定に保とうとする機能が備わっています。
身体の中には体温計のような機能があり、暑すぎる場合には交感神経を優位に働かせ、体温を下げる反応が起きます。
交感神経は体温調節を行うために以下のような働きかけをします。
心臓のリズム | 心拍数が増えてドキドキ |
---|---|
心筋の伸び縮み | 大きく縮むことで、血液をたくさん送る |
末梢の血管 | 血管が拡張する |
汗腺 | 開くことで、汗をたくさんかく |
まず、表面に近い血管を拡張させることで、熱を放散しやすいように交感神経が汗腺に働きかけます。
汗腺の働きが活発になることで、汗をかきやすくなり、汗が蒸発される際の気化熱で身体の温度を下げることにつながります。
さらに心拍数を上げることで、血の循環を加速させて熱が放散しやすいようにします。
これらの影響により、効率的に熱を身体から逃がすような仕組みができているのです。
暑熱順化を行うと、身体の中で何が起こる?
暑熱順化を行うことで、以下4つの変化が起きるとされています。
- ●発汗機能の変化
- ●汗の成分の変化
- ●皮膚血管拡張の促進
- ●循環血流量の増加
●発汗機能の変化
暑熱順化トレーニングを行うことで、発汗機能が向上することにより、深部温度が上昇しにくくなります。
これは、汗をかきはじめる温度が低くなるためだと考えられています。
たとえば、今までは核心温度が37℃で汗が促される機能だったのが、暑熱順化により36℃で汗をかける身体に変化することで、体温の上昇を抑えることにつながるのです。
●汗の成分の変化
汗の量が増えることで核心温度の上昇を抑制することができます。
しかし、汗の中には身体に必要不可欠なナトリウムなどのミネラルが含まれており、血液中のナトリウム濃度が一定量減ることで筋肉のつり、さらには熱中症のリスクが高まります。
しかし、暑熱順化トレーニングを行うことで、汗の成分中のナトリウム濃度が低下し、運動で大量に汗をかくことによるナトリウムなどのミネラル成分の損失を軽減することができます。
しかし、少なからずこうしたナトリウムは含まれているので、適度な水分補給は必ず行うように注意しましょう。
●皮膚血管拡張の促進
暑熱順化を行うことにより、皮膚血管が拡張するタイミングが早まります。
皮膚の血管を拡張させることで、皮膚の温度を上げ、多くの熱を放出させることにつながります。
●循環血流量の増加
循環している血流量は、運動によって約10%増加するとされています。
循環している血流量が増えると、血液に含まれる酸素も増え、持久力が向上するため、暑さに対する耐性を高めることができます。
血液の中で酸素を運搬するのは赤血球ですが、暑熱順化トレーニング開始後2~3週間で赤血球の数が増えるとされています。
1日2時間程度、日に当たることを8日間続けても赤血球が増えますが、トレーニングを組み合わせた場合はなんとその2.4倍も増加するため、トレーニングを組み合わせることで効果的に暑熱順化を促すことができるのです。
オススメの方法と、注意点について
暑熱順化トレーニングのオススメは、有酸素運動を1日30分程度行うことです。
特に負荷量が重要で、「ややきつい」運動を「やや暑い」環境で行うことが必要です。
汗をかきやすい環境でトレーニングすることで、効果的に発汗を促すことにつながります。
- ●仕事後に、30分ジムでトレーニングする
- ●夕方に30分ウォーキングをする
- ●はや歩き3分、ゆっくり歩き3分を30分続ける
運動の種類はどんなものでも構いませんが、暑熱順化トレーニングは日々続けることでその効果を発揮します。
おおむね2〜3週間程度続けることを推奨されているため、この期間毎日続けることが重要です。
急な運動だと体に負担がかかり、苦痛を感じて続けられなくなる可能性があるので、簡単に生活の中で取り入れやすいものから始めてみましょう。
また、運動以外の方法として入浴や冷房に頼らない方法もオススメです。
- ●40℃の温度で、10分から15分程度入浴する
- ●冷房に頼らない生活を心がける
参考:https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_794.html
https://www.jtrc.or.jp/interval/
これらの生活を意識することで、汗をかきやすい環境をつくることに役立ちます。
体温を上手に調節できる身体に変化させ、夏の暑さを乗り切りましょう!
体内水分の出納(すいとう)を上手に行いましょう!
暑熱順化トレーニングを実施する上でとても重要なのが、水分補給です。
高温に慣れるための運動をするため、体温の上昇に伴い通常よりも多く汗をかき、水分が失われていきます。
人の体重に占める水の割合は、成人で60〜65%、高齢者で50〜55%程度であるとされています。
たった3%の水分量が減るだけで、食欲不振や運動機能の低下が起きると報告されており、それ以上の水分が失われると、熱中症を引き起こす可能性が高まるとされています。
体重70kgの人の場合、体内の水分量の3%を計算すると210mlなので、だいたい缶コーヒー1本分の水分量です。
たったこれだけの水分が失われるだけで、熱中症になってしまう可能性があるのです。
このため、汗や尿ででていった水分を補填するために、こまめに水分補給をすることで、絶えず体内の水分の割合を維持することが重要となります。
高齢者に多いのが、お手洗いが近くなるのが嫌で、積極的に水分を取りたがらないことです。
こうした方は、水分の出納のバランスが非常に乱れやすいため、特に注意が必要です。
汗をかいた量と同等、もしくはそれ以上の水分をこまめに補給しながら、暑熱順化トレーニングを実施することをオススメします。
参考:
長谷川博 スポーツにおける実践的暑さ対策とその応用(2020年7月9日引用)
Alex Hughes 消防士のための暑熱順化トレーニングの有用性(2020年7月9日引用)
久保善正,細谷昌右,他:消防隊員が行う暑熱順化トレーニングの具体的方策に関する検証.消防技術安全所報50号,2013.(2020年7月9日引用)
厚生労働省 熱中症が発生する原理と有効な対策(2020年7月9日引用)
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執筆者
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理学療法士として、整形外科に勤務する傍ら、執筆活動をしています。
一般的な整形分野から、栄養指導、スポーツ競技毎の怪我の特性や、障害予防、 自宅でできる簡単なエクササイズの方法などの記事を書くのが得意です。
仕事柄、介護部門との関連も多く、介護の方法を自分が指導することもあります。
保有資格等:理学療法士、福祉住環境コーディネーター2級