まだまだ元気!だけど、介護予防の体操教室には参加したほうがいい?
「100歳体操」や「◯◯教室」などの介護予防体操は、いまや全国各地で行われています。
それらの活動は、介護予防やフレイル予防など、加齢による身体機能低下の改善を目標にしていることが多く、筋力トレーニングが重要な要素となっているのをご存じでしょうか。
本記事では、意外と知られていない介護予防体操の効果や、生活のなかでの注意点などについて、理学療法士が解説します。
目次
転倒しやすいのは意外な場所?要介護にならないための注意点
加齢にともなう身体機能の変化により、転倒は骨折につながる可能性が高く、日常生活のなかでしっかりと予防することが大切です。
●要介護状態になる理由、転倒は第何位?
要介護状態とは、日常生活において介護を必要とする状態であり、要介護状態になる原因は人によってさまざまです。
厚生労働省が実施した国民生活基礎調査によると、要介護状態となる原因の第1位は認知症、第2位は脳血管疾患、第3位は衰弱、そして第4位が転倒と報告されています。
また、高齢者の場合転倒や転落が大きな障害につながるケースや、命に関わるケースも多く、転倒予防はわが国にとって重要な課題となっています。
加齢による認知機能低下や脳血管疾患を予測することは難しいですが、転倒に関しては努力次第で防ぐこともできるため、事前対策が重要となります。
介護予防体操が全国的に活発になり、転倒や骨折をする高齢者が少なくなることで、フレイルや要介護状態を避けることにつながるでしょう。
●外出先?それとも自宅?転倒に注意する場所とは
転倒予防といっても、転びやすい場所や状況はさまざまであり、具体的にどう対処すればいいかわからない方も多いでしょう。
「段差が多いから?」「滑りやすいから?」と思うかもしれませんが、実は意外な場所に危険が潜んでいます。
奥泉によると、転倒した場所に関しては、その半数以上が自宅内または自宅敷地内であり、そのなかでも居室や寝室などが圧倒的に多い結果となっています。
完全なバリアフリー住宅では問題ありませんが、一般的な日本家屋では5mm程度の敷居があります。
階段や玄関など、明らかに目視できる段差の場合、段差と認識して対応することができますが、敷居程度の高さであれば思ったより脚が上がっていないこともあります。
和室(寝室)から廊下に出る状況、たとえば夜中のトイレの際、朝起きてすぐといった状況などが危険であると推測されます。
また多くの場合、和室には手すりが設置されていないため、なんとか周辺の家具を頼りにして歩くという状況なども、転倒につながりやすいのかもしれません。
フレイル予防、「とりあえず歩く」は間違い!転倒につながるケースとは?
ロコモやフレイルなど、身体機能の低下に関するワードはメディアでも取り上げられることが多く、予防のためにウォーキングをしている方もいるでしょう。
しかし、この「歩く」という動作、人によっては転倒につながる可能性が高いため注意が必要です。
●転倒予防に必要な要素は筋肉だけじゃない?
転倒予防の体操として、もも上げの運動(腸腰筋)や膝伸ばしの運動(大腿四頭筋)は有名ですが、局所的な筋力トレーニングだけでは不十分です。
歩くという動作を細かく分けると、片脚を上げる、片脚で踏ん張る、腕を振るなどの身体的要素をはじめ、どこを見ているか、何を考えているかなど精神的な要素があります。
また、脚を上げているときにふらつかないか、急に立ち止まったときによろけないかなど、バランスも非常に重要な要素になります。
「夕飯の献立を考えていたらつまずいた」、「廊下で急に家族が出てきたからよろけた」など、バランスや認知機能の低下も転倒リスクとして挙げられます。
「わき見運転」や「ながら運転」が交通事故の原因といわれていますが、高齢者の転倒に関しても同じことがいえるのかもしれません。
そのため、転倒予防を目的とした取り組みでは、筋力トレーニングだけではなく、バランスのトレーニングや、頭の体操なども重要となります。
●「とりあえずウォーキング」は危険!運動による弊害に注意しよう
1日10,000歩を目標にウォーキングをされる方も多いですが、ただやみくもに多く歩けばいいわけではありません。
前述したように、転倒予防には筋力、バランス能力、認知機能などが影響してくるため、それらの要素に不安がある場合は注意が必要です。
また、「長く歩いていると脚が上がらなくなる」「膝が悪い」など、体力不足や関節痛などがある場合、転倒や疼痛の悪化につながります。
フレイル予防のために始めたウォーキングによって、転倒して要介護になってしまっては本末転倒です。
まずは短い距離や短い時間から始めて、翌日に疲れを残さない、関節を痛めないことを心がけることが大切です。
また、歩くコースに関しても、人通りの多い時間帯や場所を選ぶなど、安全配慮が大切になります。
地域の介護予防教室は、このような情報を共有する場にもなり、筋トレやストレッチなどを通して自分の体の状態を知ることができます。
「そんな体操は1人でできる」と思っていても、その他メリットも多いので一度参加してみることをおすすめします。
転倒予防だけじゃない、介護予防体操に秘められた効果とは?
介護予防の教室は、単に集団で運動をするだけの場ではなく、また運動を通して転倒予防以外の効果を得ることができます。
●効率のよい筋力アップと社会的フレイルの予防
ひとえに筋力トレーニングといっても、どこの筋力が低下しているか、この動作にはどの筋肉が使われるかなど、自分ではわからないことも多いです。
自宅でトレーニングをする際にも、介護予防教室で習った運動を取り入れることもできるでしょう。
単調な運動を繰り返すより、複数の筋肉を鍛えられる運動を行うほうが効率的です。
また、みんなと一緒にする体操は楽しく続けられる、参加することが楽しみに思えるなどのメリットもあります。
歩行障害などは身体的フレイルですが、他人との交流が少なくなる、外出機会が減るなど、他者との関わりが薄くなる社会的フレイルも問題となります。
「最近元気がなくなってきた」「外に出たくない」と悩んでいる高齢者がいれば、ぜひ介護予防教室への参加を促してあげてください。
「心も体も元気になる」、それが介護予防教室の利点であるといえるでしょう。
●生活習慣病の予防がもたらす効
介護予防体操は、筋力やバランスなどの身体機能をアップして、転倒を予防することが主な目的になります。
しかし、運動には血圧を下げる効果や血糖値を下げる効果があり、生活習慣病予防にも有効です。
高血圧や高血糖状態が続くと動脈硬化が進行し、最悪の場合、心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる病気につながります。
特に、脳梗塞は要介護となる原因疾患の第2位であり、可能なかぎり予防していくことが大切です。
血圧を下げる、血糖値を下げるにはそれぞれお薬が必要ですが、運動はそのどちらにも効果があり、また費用もかかりません。
介護予防教室での運動は、身体的フレイルの予防、社会的フレイルの予防、生活習慣病の予防と、期待される効果が多く、費用対効果も高いといえるでしょう。
介護予防は元気な頃から始めることが大切
介護予防体操は、筋力やバランスのトレーニングだけでなく、生活習慣病の予防や社会交流などいろいろな効果が期待されています。
「思っているより脚が弱っていた」と自身の変化に気づくことや、転倒しないようにどう工夫すればいいかなど、介護予防のためにできることは多いです。
「元気だから大丈夫」ではなく、「元気な頃から対策をする」という意味でも、一度地域の介護予防教室をのぞいてみてはいかがでしょうか。
参考:
厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況(2021年3月18日引用)
奥泉宏康: 高齢者における転倒・転落の発生状況とその要因. 理学療法37巻10号: 868-876, 2020.
半田秀一, 岡田真平: 高齢者の転倒予防を目的とした地域における運動指導の実際. 理学療法37巻10号: 885-893, 2020.
-
執筆者
-
皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士