作業療法士とは?「作業」を使って生活を変えるリハビリの専門家|作業療法の目的や種類を解説
病院や施設などで「作業療法士」というリハビリのスタッフを見かけることがあるでしょう。
ただ、作業療法士がどんなリハビリを行うのかピンとこないという方も多いはずです。
それは「作業」という言葉の意味が理解しにくいうえに、理学療法士との明確な違いもわかりづらいからかもしれません。
今回は、作業療法とはどのような目的で実施するものなのか、作業療法士である筆者がその種類に着目しながら解説していきます。
作業療法では作業を使って「生活」に必要なリハビリを展開する
理学療法士といえば、関節を動かしたり、立つ・歩くなどの練習を行ったりと、いわゆる「体のリハビリ」を行っていくイメージがあるでしょう。
それに対して作業療法士がどんなリハビリを提供しているのか、基本的な定義や考え方を解説します。
●作業療法の「作業」ってなに?
作業療法という名称のうち、「作業」という言葉はイメージがわきにくいために、どんなリハビリなのかイメージを持てない方も多いです。
「作業」と聞くと、身近なところでは仕事のようなものを思い浮かべるかもしれませんが、本来はもう少し広い意味で定義されます。
作業とは、料理・買い物などの生活活動をはじめ、手工芸・運動・仕事・学習・コミュニケーションなど、生活に関わるすべての活動を総称したものです。
作業療法では、こうしたさまざまな「作業」を活用しながらリハビリを行っていくことが、基本的な考え方となります。
そのため、料理などの実際の生活動作を使ってリハビリをすることもあれば、手工芸などを介してリハビリを行うこともあります。
●作業療法士はよりよい「生活」を実現する
理学療法が「基本動作」の訓練をするのに対し、作業療法では「応用動作」に焦点を当てることが定義として掲げられています。
基本動作とは立つ・歩くなどを指し、応用動作は食事や着替えなど身の回りの動作をはじめ、仕事・遊びといったさまざまなジャンルのものが含まれます。
簡単にいうと、作業療法では「生活」に必要なリハビリを提供していくという考え方に基づき、治療を展開しているのです。
たとえば、脳卒中を発症して片手が自由に動かなくなった方が、「一人で料理をしなければならない」といった生活上のニーズがあった場合、その目標に向けたリハビリを行います。
よりよい生活を送るために必要とされれば、体のリハビリを行うことも、心のリハビリを提供することもあります。
作業療法は生活というレベルで焦点を当て、健康・幸福の実現に向けた支援を行うことが大前提となります。
●どんな人が作業療法を受けることができるの?
先にご紹介したように、作業療法では「生活」を見据えたアプローチをしていくため、生活上のニーズを抱えている方には応用することできます。
「生活上のニーズ」は年齢を問わず伴うものであるため、作業療法を受けている人の層は子どもから高齢者まで幅広いのです。
病院などでは、作業療法を行う必要あると判断されれば、医師がリハビリを処方することによって、作業療法を含むリハビリが展開されていきます。
すべての病院・施設に作業療法士がいるわけではありませんが、作業療法を受けたいと感じる方は、ホームページなどで在籍状況を確認してみると良いでしょう。
作業療法には大きく4つの種類がある!身体障害から精神障害まで
日常生活において活動は、食べること・外出すること・楽しむこと・働くことなど、非常に多くの種類があります。
こうした普段なに気なく行っている生活上の動作でも、さまざまな心身の機能を必要とするので、病気や障害によってそれらの動作に影響がでることがあります。
具体的なニーズはその方のライフステージや疾患・障害によっても異なりますし、個人差もありますが、作業療法士は大きく4つの分野でリハビリを提供しています。
●身体障害
脳血管障害、脊髄損傷、パーキンソン病、多発性硬化症、関節リウマチ、骨折、切断、末梢神経障害、 廃用症候群、熱傷、悪性腫瘍など |
作業療法士のなかでも、身体障害のリハビリに関与する人の数は多いです。
理学療法士と共通して関節を動かしたり、立つ・歩くといったリハビリを行うこともありますが、作業療法では生活を見据えた訓練を重視していきます。
食事・着替え・排泄・入浴・整容などの基本的な生活動作の獲得をはじめとして、ニーズに応じて職場に復帰するために必要な訓練を行うこともあります。
たとえば、食事動作の獲得を目標に設定した場合、食べるときに必要となる関節の動き・筋力にアプローチしたり、食べる動作を一緒に練習したりします。
また、どうすれば安全に、快適に生活ができるのかを考え、福祉用具を選定するときやご自宅の環境を工夫する際にもアドバイスを行っていきます。
●老年期
脳血管障害、認知症、骨折、廃用症候群、老年期うつ病など |
高齢者の方では、脳血管障がいによるマヒが残っている方もいれば、認知症がある方もいます。
心臓や呼吸器など、内臓の病気を抱えていることもあるでしょう。
作業療法では、こうした疾患があっても、最大限の自立を実現できるよう多角的にサポートしていきます。
先にご紹介した身体障害の作業療法と同様に、生活動作の練習を行うこともありますが、老年期では要介護状態や寝たきりを「予防」していくという視点が重要になります。
特に、高齢者では生活が不活発になっているケースも多いため、心身の機能が低下していくことのないように、日常生活の過ごし方を考える必要があります。
「なにもやりたいことはない」と発言する方でも、丁寧にお話を伺っていくと「もう一度畑仕事をしたい」などの希望が聞かれることもあります。
作業療法では、どうすれば高齢者が楽しみながら健康的に生活できるかを考え、その実現に向けて必要な関わりをしていきます。
●精神障害
統合失調症、うつ病、ストレス関連障害、アルコール依存症、神経症、認知症、パーソナリティ障害など |
「こころのリハビリ」というとあまりイメージがわかないかもしれませんが、精神科では作業療法士が心のリハビリを提供しています。
精神科の作業療法では、社会生活に強い不安がある・コミュニケーションがうまくいかない・服薬をコントロールできないなど、生活面で抱えている課題にアプローチしていきます。
具体的には、手工芸などの創作活動やレクリエーションを通してリハビリを行っていくことが多いですが、作業療法士と一緒に外出や買い物などの練習をすることもあります。
作業療法士は、リハビリの目標を達成するためには個別・集団のどちらが適しているのか、どんな活動が良いのかを常に考えています。
うつ病などの気分障害では、物事の受け取り方(=認知)に働きかけて、行動を変容させていく「認知行動療法」を用いることもあります。
精神科の患者さんは自己評価が低くなっているケースが多いですが、さまざまな活動を通して達成できたことを客観的に確認する機会を持つことで、マイナスだった自己評価を修正していける例も少なくありません。
復職を目指す方では「リワーク・プログラム」に参加し、朝から夕方までの時間を過ごすことで生活リズムを整え、集中力・コミュニケーション能力などを養うためにリハビリを行っていくこともあります。
●発達障害領域
脳性マヒ、脳形成不全、低酸素性脳症、ダウン症候群、水頭症、二分脊椎、知的障害、自閉症スペクトラム、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害など |
発達障害領域の作業療法では、脳性マヒをはじめとする重症心身障がい児(者)のリハビリが展開されていましたが、自閉症スペクトラムやADHDなどの子どもに対するセラピーも行われるようになりました。
1)重症心身障がい児(者)に対する作業療法
重症心身障がい児(者)の作業療法では、脳性マヒの方を対象としたリハビリを実施する機会が多いです。
脳性マヒの患者さんでは、姿勢によって筋肉の緊張(筋緊張)が変動するため、手を使った活動を行いやすくなる姿勢を判断して、リハビリ場面で活動を促していきます。
手を使った活動を引きだすことは、手の機能維持や余暇活動にもつながってくるため、非常に重要な役割の一つです。
また、変形や関節の拘縮(関節が伸ばせない・曲がった状態)を進行させないために、クッションなどを用いて、普段過ごす姿勢についてもポジショニングを行います。
脳性マヒの方では、変形が進むと呼吸器にも影響がでてくるため、将来的なリスクを考えて対応していくことも作業療法士の役割の一つなのです。
また、意思表示してもらうためのアプローチも大切であり、作業療法士は文字盤・絵カード・スイッチなどを活用したコミュニケーションの方法も検討していきます。
2)自閉症スペクトラム・ADHDなどの子どもに対する作業療法
自閉症スペクトラムやADHDの子どもに対する作業療法では、幼稚園や学校生活への適応を目標とすることが基本となります。
子どもの場合は「遊び」を活用して、運動・認知・感覚・行動面のニーズにアプローチしていきます。
たとえば、筋緊張が低く体が柔らかいために運動がうまくいかない子どもでは、全身にギュッと力を入れて丸太にしがみつく遊びなどを行います。
また、揺れを検知する前庭感覚、体の動きを近くする固有受容感覚など、感覚刺激の受け取り方にアンバランスさがある子どもも多く、さまざまな形状の遊具(ブランコなど)でトレーニングをしていきます。
また、ADHDの子どもでは順番を待てない・友達を押してしまうなど集団行動における課題を伴うことがあり、グループセラピーを通して、枠組みのなかで活動する練習を行っていきます。
作業療法士はどこにいるの?意外と広い活動のフィールド
作業療法では、子どもから高齢者までの幅広い層を対象とするため、活躍しているフィールドもさまざまです。
次の表に、作業療法士がどこで働いているのか整理していきます。
分野 | 活動する場所 |
---|---|
医療 | 一般病院・精神病院・特定機能病院など |
福祉 | 知的障害者福祉施設・児童福祉施設など |
保健 | 自治体・保健センター・地域包括支援センターなど |
介護 | 介護老人保健施設・訪問看護ステーション・通所リハビリなど |
教育 | 特別支援学校など |
このように、作業療法士は多様な施設でリハビリを提供しています。
ほかにも、子どもが学校のあとに通う放課後等デイサービス(児童デイサービス)や、就労を目指す人のための施設などで働くケースも増えてきています。
一般的に作業療法を受けるとなると医療や介護の分野が多くなりますが、なかには自治体や保健所で働いている例もあります。
地域の健康づくりを支えるために作業療法の知識を生かしているのです。
どのフィールドで働く作業療法士も、人々の「生活」をよりよくするための専門家であることには変わりありません。
まとめ
作業療法におけるリハビリの内容は、関節を動かすような訓練だけにとどまらず、食事や着替えの動作を練習することもあれば、外出やコミュニケーションの練習をすることもあります。
生活に伴う「作業」を活用してリハビリを行っていくことが、作業療法における最大の特徴なのです。
また、心身の機能を高めるだけではなく、その人らしい生活を実現するためにリハビリを行うことも作業療法士の魅力といえるでしょう。