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リハビリ専門職の臨床実習、現状と今後の課題とは?

リハビリ職や看護師をはじめ、医療職の養成課程には必ず臨床実習というカリキュラムがあり、日頃の学習の成果が試される場になります。
しかし、その実習現場においてハラスメントが行われたり、学生が心身ともに不調をきたすことなどが問題となっています。
臨床実習のあり方について、過去と現在、そしてこれから期待されることについて、筆者の経験をもとに述べてみたいと思います。

リハビリ専門職の臨床実習、現状と今後の課題とは

乗り越えるべき壁、大量の課題と睡眠不足

筆者が学生であった15年ほど前までは、実習とは乗り越えなければいけない壁というイメージがありました。
ここでは、過去の臨床実習がどのようなものであったかについて、筆者の経験を踏まえてご紹介します。

●大量のレポート課題と睡眠不足

大量のレポート課題と睡眠不足

臨床実習では、その総仕上げとして症例レポートを作成する必要がありますが、最終的には10数枚に及ぶことが当たり前でした。
朝から夕まで臨床現場で学び、帰宅してからはレポート作成に加えて、指導者から与えられた課題についても調べなければいけません。
実習施設が近くならまだいいのですが、片道1時間以上かかる場合などは肉体的にもつらいものがあります。
就寝時間が0時をまわることが多く、睡眠時間は5時間ほどの日が続くことが習慣化されると、実習時間中の集中力も途絶えます。
しかし、実習生である以上、眠たそうな顔をするわけにもいかないため、常に睡魔との闘いを強いられていた方も多いのではないでしょうか。
すべての実習施設がそうではありませんが、「学生がわからないことは徹底的に調べさせる」というスタンスが主流であったことは間違いないでしょう。

●実習地の評価で不可がつくと留年の可能性大

筆者の学生時代は、臨床実習において、皆が一番不安に思っていることは「合格をもらえるだろうか」ということでした。
「期限までに課題を提出しないと評価が下がる」、「積極的に質問したほうが印象がよくなる」など、学生ながらに指導者の評価を気にすることが多かったです。
実際、養成校側が実習施設に送付している評価表には、最終的に優、良、可、不可を選択する箇所があります。
ここでもし不可がついてしまうと、よくて再実習、最悪の場合留年という結果になります。
また、睡眠不足や精神的ストレスにより実習を中断した学生に関しても、臨床実習の単位を落とすことになるため、結果的に留年になってしまいます。
つまり、過去の実習とは睡眠不足で大量の課題をこなしつつ、かつ最終評価で「可」以上を与えられないと留年という、とても厳しいものであったといえます

臨床実習の現状、養成校と受け入れ施設が学生の立場を守る

現在の臨床実習に関して、過去との違いについて述べたいと思います。

●ハラスメントや学生の心身不調が問題視されている

ハラスメントや学生の心身不調が問題視されている

ご存じの方も多いかもしれませんが、数年前にリハビリ専門職の実習生が自ら命を絶つという不幸な出来事がありました。
指導者側からの叱責をはじめ、学習時間(見学やレポート作成を含む)が週に70時間という過酷な状況は、実習施設側の安全配慮義務違反と判断されました。
前述したように、過去の実習では当たり前であったことが、現在ではパワーハラスメント(パワハラ)とみなされるようになっています
養成校側も受け入れ施設側も、実習生の健康管理について再考する必要があり、今では実習のあり方自体が見直されています。
具体的には、課題量の見直しや睡眠時間の確保をはじめ、実習生が孤立しないように、養成校側が施設側に現状の確認を行うなどの対策が取られています。

●臨床実習に対する養成校側と受け入れ施設側の変化

現在における、養成校側の変化と受け入れ施設側の変化についてそれぞれ述べてみたいと思います。

◯養成校側は臨床実習における評価基準の見直しをする

日本理学療法士協会の集計結果によると、現在リハビリ専門職の養成校は266におよび、平成31年度の理学療法士国家試験合格者数は10000人を超えています。
今も昔も、養成校側は実習受け入れ先を見つけるため、かなりの苦労をしています。
そのため、「指導方針は実習施設におまかせします」というパターンが多かったですが、この方針も見直されるようになってきました。
具体的には、成績表に合否の記入欄を設けないことや、実習地でのレポート作成(学校への提出)を義務付けないことなどが挙げられます。
実習はつらいものという旧態依然としたシステムを撤廃し、実習生が安心して安全な臨床実習を行えるように変わりつつあります。

◯実習施設側は学生のストレスチェックや相談窓口を設ける

実習施設側は学生のストレスチェックや相談窓口を設ける

一方の実習受け入れ施設側も、施設によってさまざまな取り組みがなされています。
筆者の施設を例に挙げると、実習指導者以外のスタッフで実習生対応班というチームが結成され、指導者との関係性や心身の調子などを確認しています。
また、定期的に実習生に対してアンケートを実施し、今後学びたいことや指導者に対する思いなどを聴取するようにしています。
万が一、指導者と良好な関係が築けない場合でも、ほかのスタッフがフォローできるようなシステムになっています。
また、アルコールハラスメント(アルハラ)を避けるため、指導者とマンツーマンでの食事会などは原則しないようにしています。
ほかの施設においても、学生が安心して実習期間を送れるように、さまざまな取り組みがされているのが現状です。

今後の課題は社会のニーズに対応できる学生を育てること

最後に、これからの臨床実習について述べてみたいと思います。

●実習指導者は指導者研修の受講が必須化

実習指導者は指導者研修の受講が必須化

これまでの臨床実習では、指導者となり得る要件は特に定められておらず、言うならば新卒のスタッフでも指導者となることができました。
しかし、今後は実習指導者となり得る要件が規定され、養成校だけでなく受け入れ施設側も指導の質が問われるようになります。
厚生労働省が定めた「理学療法士作業療法士養成施設指導ガイドライン」には、実習指導者は免許取得から5年以上業務に従事し、規定の講習会を修了したものとされています
研修は16時間(原則、連続する2日間)で、グループワークなどを通じて指導者として必要なスキルを学ぶ必要があります。
そのため、今後の実習指導者は専門知識や技術だけでなく、学生の健康管理や実習の到達目標を明確に定めるなど、求められる要素が多くなります。
実習生やそのご家族にとっては、臨床実習に対する安心感が高まるといえるかもしれません。

●知識や技術だけでなく、社会のニーズに対応できる学生を育てる

養成校や実習受け入れ施設の質が高まるなかで、実習施設としても今までの指導方針を切り替えていく必要があります。
これまでは、検査測定技術や治療技術の指導に主眼がおかれる、いわば既存の知識を現場でどう生かしていくかが主流でした。
しかし、2020年4月からはリハビリ専門職の養成校で初となる専門職大学が設立され、社会のニーズに対応できる、多様性を持った指導がはじまります。
例を挙げると、医療や介護分野だけでなく、障害福祉や産業分野(一般企業)で活躍できるリハビリ専門職が育成されることになります。
そのため、実習施設側としても多様性のある指導を行えるスタッフを育成する必要があり、われわれ現職者も変わらなければなりません。
臨床実習は、学生が学ぶ場であると同時に、われわれにとっても未来の人材を育成する場でもあります。
これからの臨床実習は学生と指導者双方にとって、新たな未来を切り開く大切な機会となることは間違いないでしょう。

臨床実習は新たな発見と出会いの場

リハビリ専門職の臨床実習に対して、「つらい」や「心配だ」というマイナスイメージを持っている方もいるかもしれません。
しかし、現場の一指導者としていえることは、臨床実習は養成校で学んだ知識や技術を試す場だけではなく、新たな発見や出会いがある貴重な機会であるということです。
筆者自身も、実習中にお世話になった方々や目標としたいセラピストに出会うことができ、今の自分があると思っています。
今後、臨床実習に臨まれる学生やご家族に、リハビリ専門職としての役割や理想像を見つけてもらえるよう、現場スタッフも努力を続けていきたいと思います。

参考:
日本理学療法士協会ホームページ.(2019年10月26日引用)
http://www.japanpt.or.jp/info/20181009_02.html(2019年10月26日引用)

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  • 執筆者

    奥村 高弘

  • 皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
    急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
    高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。

    保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士

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