出産後の女性に多い腹圧性尿失禁への対策は?骨盤底筋のトレーニングや生活改善をして尿漏れを防ごう
出産後の女性に多い症状の1つにくしゃみや咳などで腹圧がかかったときに尿漏れする「腹圧性尿失禁(ふくあつせいにょうしっきん)」があります。
自分の意思では尿漏れを止められないため生活の質を下げる要因にもなりますが、適切なトレーニングの継続や生活習慣の改善により症状の改善が期待できます。
そこで理学療法士の立場から腹圧性尿失禁の原因を解説し、予防のためのトレーニング方法や生活習慣の工夫を紹介します。
目次
なぜ出産後に尿漏れが多いの?腹圧性尿失禁の症状や原因を解説
腹圧性尿失禁に必要なトレーニングや生活改善を理解するためには、「なぜ出産後に尿漏れを起こしやすいのか」を理解することが大切です。
そこで腹圧性尿失禁の症状や原因を解説します。
●腹圧性尿失禁の症状とは?
腹圧性尿失禁は、くしゃみや咳などでお腹に勢いよく圧が加わった瞬間に尿が漏れてしまう症状です。
中高齢の女性でよく見られると思われるかもしれませんが、若い女性でも出産後に見られるケースが少なくありません。
たとえば出産後に以下のような行動をしたとき、尿漏れをしてしまったことがあるかもしれません。
- ○子どもを抱っこした際
- ○床の物を拾おうとしたとき
- ○忘れ物をして走ろうとしたとき
- ○子どもと縄跳びしたとき
腹圧性尿失禁ではこのような動作をすると同時に、自分の意思とは関係なく尿がでてしまいます。
●出産後に腹圧性尿失禁になる原因
出産後に腹圧性尿失禁になるのは、尿の排泄に関係している「骨盤底筋(こつばんていきん)」が大きく関係しています。
骨盤底筋には以下のような特徴があります。
- ○骨盤内の底をハンモックのように覆って、骨盤の中にある子宮や膀胱、直腸を支える
- ○膀胱からつながる尿の通り道(尿道)を支え、腹圧などで力が入ると尿道を閉める
- ○尿のコントロールに関わる尿道括約筋(にょうどうかつやくきん)の作用に影響する
- ○排尿や排便時は筋肉が緩む
- ○お腹の筋肉と連動して姿勢を支える
- ○出産や加齢により衰えやすい
このように、排尿に関する膀胱や尿道を支えたり、尿道括約筋の作用に影響を与える骨盤底筋群は排尿と密接に関係している筋肉です。
この筋肉が出産による骨盤への影響により衰えてしまうことで、出産後の女性に腹圧性尿失禁が多くなります。
実際にHildeらの研究では帝王切開をした女性にくらべ、自然分娩をした女性は骨盤底筋の筋力や収縮の持続力が低下したと報告しています。
このように出産後の尿失禁を防ぐためには、弱ってしまった骨盤底筋を鍛え、排尿にしっかり働くようにすることが重要になります。
骨盤底筋を鍛えて症状を改善!トレーニング方法を詳しく紹介
骨盤底筋はしっかり働いているか確認しにくい筋肉ですので、見よう見まねで実施しても実際はうまく動いていないことも少なくありません。
そのため骨盤底筋の位置を正しく理解して、適切に力を入れる方法を習得する必要があります。
そこで骨盤底筋が働いているかを確認する方法や自宅でもできるトレーニング方法を紹介します。
●まずは骨盤底筋の位置や収縮を確認しよう!
トレーニングを始める前に正しい骨盤底筋の位置と収縮の確認方法を知ることが大切です。
骨盤底筋の位置をイメージするために坐骨を確認することから始めましょう。
座った状態で左右からお尻の下に手を入れて、左右で触れる出っ張った骨が坐骨です。
骨盤底筋は「坐骨をつなぐようにハンモック状に張っている筋肉」とイメージしましょう。
そして左右の坐骨をつなぐ中心で、肛門の少し下の部分を触れることで骨盤底筋の収縮を確認することができます。
収縮しているかどうかは以下のポイントを参考にしましょう。
○うまく収縮している場合
骨盤底筋が収縮している場合は触れている部分が頭の方向へ吸い上げられるように引っ込むのがわかります。
○うまく収縮していない場合
お尻のほうに下がってきたり、動きがなかったりするとうまく収縮していません。
●骨盤底筋を鍛えるトレーニング方法
以下のように力を入れることで骨盤底筋を鍛えることができます。
- ○お尻の穴をすぼめるように
- ○おならや排便を我慢するように締め付ける
- ○おしっこの途中で尿を止めるように力を入れる
- ○女性器を閉じるように
- など
このように骨盤底筋に力を入れやすい感覚はさまざまですので、前述で解説した骨盤底筋の収縮を確認しながら力を入れてみましょう。
うまく力を入れることが確認できれば、以下の2つのパターンで練習をして効率よく骨盤底筋を鍛えましょう。
○瞬発的に力を入れる
力を入れるのと抜くを交互に繰り返すことで瞬発的な動きに働く筋肉を鍛えることができます。
○持続的に力を入れる
力を入れたまま5秒前後キープした後に力を抜くことで持続的な動きに働く筋肉を鍛えることができます。
また、収縮させる姿勢は仰向けになって両膝を立ててリラックスした姿勢から始めましょう。
仰向けでできるようになれば、座ったり立ったりした姿勢でも練習することで日常生活のどこでもトレーニングすることが可能になります。
さらに腹圧がかかるような動作をする前に意識して骨盤底筋を働かせることで、動作時の尿失禁の予防を効率よく進めることができます。
●トレーニングの頻度や期間
トレーニングは1日10回程度を3セット実施することを目安にしましょう。
ただし、この回数が難しい場合は少ない回数から実施して徐々に回数や頻度を増やしていくようにしましょう。
大切なのは継続することでDumoulinらの報告では、トレーニングを始めてから効果が認められるまで3カ月必要とするとされています。
そのため、正しい方法を身につけて継続できる回数で実施することが大切です。
●トレーニングの注意点
骨盤底筋に力を入れる場合に、腹筋や内股、お尻の筋肉が代わりに働いてしまい骨盤底筋がうまく働かない場合があります。
そのため、骨盤底筋に力が入っているかを確認するのに加えて、お腹やお尻、内股を触り力が入っていないかを確認しましょう。
また、力を入れるのに集中してしまい息を止めてしまわないように、呼吸をしながら息を吐くタイミングで力を入れるようにするのがおすすめです。
普段の生活を見直すことも重要!生活習慣の改善ポイント3つ
トレーニングに加えて頻尿につながるような生活習慣を防ぐことが尿失禁の予防につながります。
そこで具体的なポイントを3つ紹介します。
●水分の量に気をつける
出産後の女性は授乳をする必要があり水分を多めにとるように助言されます。
しかし、必要以上に多くの水分をとったり、一度にまとめて水分をとったりすると尿失禁の症状の悪化につながります。
「夜間頻尿診療ガイドライン」で作成された飲水量の目安では体重の2〜2.5%とされており、体重50kgの女性を例に挙げると飲水量は1L〜1.25Lになります。
運動時の有無による発汗の量や授乳の量によって排出される水分量が異なるため、必要に応じて水分量を調整しながら過剰な水分を摂取しないことが大切です。
●アルコールやカフェインの摂取を控える
アルコールやカフェインを過剰に摂取すると排尿が促され(利尿作用)尿失禁につながります。
授乳中はアルコールやカフェインの摂取を制限する方は多いと思いますが、授乳が終わると意識しないことも少なくないでしょう。
しかし、出産後の骨盤底筋が弱った状態では、これらの過剰な摂取からくる利尿作用により腹圧性尿失禁を生じるリスクが高まるため注意しましょう。
●体重増加を防ぐ
体重が増加すると骨盤にかかる負担が大きくなるため、骨盤底筋がダメージを受けやすくなります。
そのため、肥満は腹圧性尿失禁の発生する危険性を高める大きな要因の1つとされています。
実際に減量を実施した肥満女性の腹圧性尿失禁が減少したという報告があり、出産後にダメージを受けた女性にとっては大切なポイントの1つです。
自宅でのトレーニングや生活習慣を工夫して腹圧性尿失禁を防ごう
出産は女性の体に大きな負担となり、その負担の1つが骨盤底筋の機能低下とそれに伴う腹圧性尿失禁です。
しっかり骨盤底筋を鍛え直すことと生活習慣の改善で症状の緩和が期待できます。
また、骨盤底筋は腹横筋や横隔膜、多裂筋などのいわゆるインナーマッスルと一緒に働き尿失禁とともに出産後の女性に多い腰痛の予防にも重要な役割を果たします。
正しい骨盤底筋のトレーニングを身につけ、出産後のトラブルを防ぎましょう!
参考:
過活動膀胱ガイドライン作成委員会:過活動膀胱診療ガイドライン(日本排尿機能学会夜間頻尿診療ガイドライ ン作成委員会編).Blackwell Publishing,東京,2005.
Hilde G et al.:Impact of Childbirth and Mode of Delivery on Vaginal Resting Pressure and on Pelvic Floor Muscle Strength and Endurance. Am J Obstet Gynecol 208(1):50.e1-7,2013.
Dumoulin C,Hay-Smith J:Pelvic floor muscle training versus no treatment, or inactive control treatments, for urinary incontinence in women.Cochrane Database Syst Rev.CD005654,2010.
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級