妊娠したら腰痛になりやすいって本当?原因やストレッチなどの対策について理学療法士が解説します
妊娠すると腰の痛みを感じるという経験をしたり、話を聞いたりした方は多いのではないでしょうか。
実際、妊娠や出産は腰や骨盤に痛みを引き起こすことが少なくないため、原因を理解して正しい対策をすることが重要です。
今回は妊娠や出産による腰痛の原因を詳しく解説し、誰でもできるストレッチや生活での工夫について紹介します。
目次
妊娠や出産で腰痛を引き起こす4つの原因を解説
妊娠や出産による腰痛に対するアプローチをするためには、腰痛を引き起こす原因をしっかり理解することが重要です。
そこで、妊娠や出産が腰痛につながる理由を4つに分けて解説します。
●お腹が大きくなり姿勢が変わるため
お腹が大きくなると体の重心は通常より前に移動します。
そのままでは前へ体が倒れてしまうため、重心を釣り合わせるように腰を後ろに反らせた姿勢を取ります。
腰を後ろに反らせるためには、背中の筋肉を使う必要があります。
結果として、背中の筋肉に過剰な負担がかかり続けることで、腰痛を引き起こしてしまうのです。
●腹筋に力を入れにくくなるため
腰痛を防ぐためには腹筋の働きが重要であることは多くの方が知っているでしょう。
しかし、妊娠により、この腰痛を防いでくれるはずの腹筋が働きにくくなってしまいます。妊娠によってお腹が大きくなると、腹筋が引き伸ばされます。
Gilleardらの研究では、腹筋が引き伸ばされることで、腹筋の収縮力が低下する、つまり腹筋に力が入りにくくなることがわかっています。
つまり、腹筋が引き伸ばされて、腰への負担を和らげる腹筋の働きが低下することで、腰痛になりやすくなるのです。
また、妊娠、出産により骨盤が開くことで、骨盤の底にある「骨盤底筋群」の働きも低下します。
骨盤底筋群は腹筋などとともに姿勢の保持に影響を与えます。
そのため、骨盤底筋群の働きが低下することも、正しい姿勢を保ちづらくなり腰痛の要因になります。
このような妊娠による筋肉の変化は出産後にも継続するため、出産後の腰痛にも影響を与えます。
※骨盤底筋群に関する記事は、「出産後の女性に多い腹圧性尿失禁への対策は?骨盤底筋のトレーニングや生活改善をして尿漏れを防ごう」で詳しく解説しています。
●ホルモンバランスの変化による関節痛のため
妊娠すると子宮の収縮を抑えたり、関節を緩めたりして出産をしやすくするリラキシンと呼ばれるホルモンが分泌されます。
出産には欠かせないホルモンですが、関節を緩める作用が腰痛を引き起こす要因となります。
とりわけ、骨盤にある仙腸関節(せんちょうかんせつ)と呼ばれる関節は痛みを生じやすく、リラキシンの作用で仙腸関節が緩むと関節に負担がかかりやすくなり、痛みを引き起こします。
出産後も一定期間ホルモンの作用は継続しており、分娩により骨盤に大きな負担がかかることも合わさって、仙腸関節に痛みが生じることにつながります。
●出産後に必要な動作のため
上記のような妊娠・出産によるさまざまな変化によって腰周辺への負担が増えるのに加えて、出産後は抱っこや授乳などといった動作をする必要があります。
抱き上げる動作や抱っこを続けることなどは腰へ大きな負担となります。
また、授乳や沐浴といった動作では一定の姿勢を保ち続けることが多くなり、腰への負担が蓄積する原因となります。
妊娠・出産による腰痛へのストレッチや体操と実施時の注意点を紹介
妊娠・出産による腰痛の原因から考えると、腰痛を予防・軽減するためには、「腰への負担を減らす」・「腹筋の収縮を促す」ことが大切になります。
以下に具体的な体操方法を説明して、実施時の注意点も解説します。
●姿勢を修正して腰の筋肉をストレッチ
腰が反っているために緊張している腰の筋肉をストレッチさせる方法を紹介します。
- 1)壁に背中をつけて立つ(腰が反っている場合は腰と壁の間に空間が空いています)
- 2)腰を壁に近づけるように丸める(動かす場合は息を吐きながらゆっくりしましょう)
- 3)ゆっくり元の姿勢に戻す
壁に背中をつけるのが難しい場合は足を壁から少し離しましょう。
また、腰を壁に近づけるのが難しい場合は、腰に手を当てて補助しながら動かしましょう。
●「キャット&ドッグ」で腰のストレッチと腹筋の運動
次は腰の筋肉をストレッチさせたり、お腹周りの筋肉を働かせたりする運動です。
- 1)手を肩幅にして四つばいの姿勢になる(四つばいが難しければ膝は曲げてもいいです)
- 2)手を床に押し付けるようにして背中を丸める(ゆっくり息を吐きながら)
- 3)息を吸った後に反対に背中を反らすように動かす(ゆっくり息を吐きながら)
- 4)この動作をゆっくり繰り返していく
猫のように背中を丸めて、犬のように背中を反らせる運動です。
背中〜骨盤までを連動して動かすことで、筋肉のリラックスとともに、お腹まわりの筋肉を効率的に鍛えることができます。
●左右非対称の姿勢には腰ひねりでストレッチ
左右非対称の姿勢が多くなると、一方へ体が傾いたり、ねじれたりといった姿勢を取りやすくなります。
そのため、腰を左右にひねって、片方にかかった負担を減らし左右対称の姿勢を意識するようにしましょう。
- 1)仰向けになった状態で膝を立てます。
- 2)そのまま、ゆっくり息を吐きながら右か左に膝を倒して腰をひねりましょう。
- 3)ゆっくりと元に戻り再び息を吐きながら先ほどと反対側に腰をひねりましょう。
●ゆっくりと腹式呼吸を腹筋や骨盤底筋群の働きを促す
四つばいやあぐらの姿勢など楽な姿勢を取った状態で、下腹を意識しながらゆっくり腹式呼吸をしましょう。
そうすることで、全身のリラックスを図りながら、お腹まわりの筋肉を動かすことができます。
妊娠中は無理にお腹に力を入れすぎるとよくないですので、ゆっくりと優しく呼吸しましょう。
●実施時の注意点
妊娠中は腹部の張りや体調不良などに注意して、体に負担のかからないタイミングで実施するようにしましょう。
実施する場合も、常にリラックスしたり、休憩をこまめに挟みながら行うようにしましょう。
また、仰向けの姿勢を長く取ることで、お腹の血管が大きくなった子宮に圧迫されることで低血圧になる「仰臥位低血圧症候群」が生じる危険性があります。
仰向けの体操を続けないように注意しましょう。
抱っこや授乳時の姿勢に注意!生活の工夫で腰痛を軽減
出産後に必要な抱っこや授乳などの動作を不適切な姿勢や方法で行うと腰痛を引き起こします。
そこで、腰痛の予防・軽減につながる生活の工夫を紹介します。
●正しい抱っこの仕方をしよう
抱っこをする場合のポイントとして以下の3つが挙げられます。
- 1)抱える位置を重心に合わせる
- 2)横抱きは左右交互にする
- 3)抱っこ紐を正しく装着する
抱える位置が低くなると、妊娠中の姿勢のように前に重みがかかりやすくなり、腰を反らした姿勢になります。
そのため、赤ちゃんのお尻がおへその位置くらいになるように高さを合わせましょう。
また、横抱きを片側だけで行い続けると、左右非対称の姿勢になり腰痛を引き起こしますので注意しましょう。
多くの方が抱っこ紐をしようとしますが、ストラップの位置や締め具合などを正しく行いましょう。
特に締め方が緩い場合は、お母さんの姿勢だけでなく、赤ちゃんの姿勢も悪くなってしまいますので、しっかり締めることができて、赤ちゃんをお母さんに近づけられるようなものを使用しましょう。
●授乳クッションを使い、前かがみ姿勢を避けよう
授乳をするために体を赤ちゃんに近づけるようにすると、体が前にかがんだ状態を保つ必要があり、腰への負担が蓄積してしまいます。
そのため、適切な高さの授乳クッションを使用して、前かがみの姿勢を避けるようにしましょう。
授乳クッションを使用していても、高さが低いと結局前かがみになってしまいますので、高さのあるものを使用したり、クッションを重ねるなどの工夫をするのがオススメです。
●抱きかかえや沐浴ではしっかり膝を曲げて中腰にならないようにしよう
床から赤ちゃんを抱きかかえたり、沐浴をしたりする場合に、腰を曲げて中腰の姿勢で行うと、腰への負担が大きくなります。
そのため、しっかり両膝を曲げるか、片膝立ちになるなどして、中腰にならないように意識しましょう。
●腰痛になりやすい体なのを意識して家事でも腰への負担を減らそう
産後は以前は行っていた家事動作でも腰痛を引き起こしやすくなります。
掃除や料理などでも中腰の姿勢を減らしたり、長時間同じ姿勢を取り続けたりしないような注意が必要です。
●骨盤ベルトを活用して腰痛を軽減しよう
妊娠中・出産後ともに、骨盤の不安定な状態を骨盤ベルトで補うことがオススメです。
Gutkeらの研究でも骨盤ベルトは骨盤に生じる痛みの治療に効果的であると報告しています。
正しい対策で腰痛を予防して妊娠・出産での負担を減らそう
妊娠中や出産による体の変化は、赤ちゃんを産むために必要なことです。
しかし、その影響で腰痛になりやすい状態がつくられてしまいます。
そのため、正しく体の変化を理解して、無理のない範囲で対策を行うことで、妊娠・出産による腰痛を予防・軽減することができます。
今回は難しい体操や対策ではなく、日常生活の中で取り入れられるものをご紹介しているので、ご自分でできるものから実践してみてはいかがでしょうか。
参考:
Gilleard WL,Brown JM:Structure and Function of the Abdominal Muscles in Primigravid Subjects During Pregnancy and the Immediate Postbirth Period.Phys Ther 76(7):
750-762,1996.
Gutke A et al.:Treatments for pregnancy-related lumbopelvic pain:a systematic review of physiotherapy modalities. Acta Obstet Gynecol Scand 94(11):1156-1167,2015.
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執筆者
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整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級