知って安心!病院で行われている感染予防対策とは
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、都心部の繁華街や高齢者施設でのクラスター(集団)感染が問題になっています。
また、某リハビリ病院においてクラスター感染が発生したと報道されており、リハビリをしている患者さんやご家族は不安を感じているかもしれません。
本記事では、病院で行われている基本的な感染予防対策と、リハビリスタッフが気をつけているポイントについてご紹介します。
病院での標準的な感染予防対策
まずはじめに、病院で行われている標準的な感染予防対策についてご紹介します。
●スタンダードプリコーションの徹底
病院や介護施設など、高齢者や免疫の低下した方と接する機会の多い施設では、基本的な感染予防対策が徹底されています。
多くの施設では、米国疾病管理予防センター(CDC)が提唱している「スタンダードプリコーション(標準予防策)」を取り入れています。
具体的な対策としては、対象者の体液(血液や唾液、嘔吐物など)に接する場合はマスクや手袋を着用し、使用した物品は適切に処理をするなどが挙げられます。
これらの対策は、患者さんの感染の有無にかかわらず行われるもので、医療従事者の感染予防、ほかの患者さんへの感染予防の観点から非常に重要です。
また、患者さんにとって医療従事者と接触しやすい部位(傷など)においては、常に清潔に保つことも感染予防に効果的です。
●各スタッフが感染予防セットを携行している
看護師をはじめ、患者さんに直接関わるスタッフは常に不測の事態に備えなければなりません。
急に嘔吐や出血をされた際には、その場で着替えや清拭などのケアをする必要がありますが、感染予防の観点から素手で行うことはNGです。
そのため、手指消毒液のミニボトルや手袋などを常に携帯しておいて、とっさの場合でも感染予防対策ができるように指導されています。
筆者の施設においても、リハビリスタッフは手袋、ガウン、アルコール綿の3点セットを常に持ち歩いています。
●感染予防対策委員会の設置
規模の大きな病院では、多職種からなるInfection Control Team(ICT)と呼ばれる感染対策チームが設置されたり、定期的な感染対策委員会が開催されています。
このチームは、感染症発生時の対応マニュアルの作成をはじめ、スタッフに対して研修会の開催など、感染予防のためにさまざまな取り組みをしています。
感染予防において一番大切なことは「意識づけ」であり、自身の感染予防をはじめ、常にスタンダードプリコーションを意識することが重要です。
リハビリのスタッフが感染予防を徹底する理由
医療従事者のなかでも、医師や看護師は感染リスクが高いと思われていますが、実はリハビリのスタッフも要注意の職種といえます。
●リハビリスタッフは感染症の媒体となる可能性が高い
リハビリのスタッフは、看護師のように血液や排泄物を扱う機会は少ないですが、患者さんの身体に触れる機会が多いため、感染予防は徹底しなければなりません。
また、整形外科の患者さんや脳神経外科の患者さんなど、複数の診療科の患者さんを担当することが多いのも特徴です。
そのため、1つの病棟で感染症が発生すると、リハビリのスタッフが媒体となってほかの病棟に感染が拡大する可能性があります。
また、リハビリ室は多くの患者さんが来室する場所であり、ある患者さんが感染症をもっていると、ほかの患者さんを介して拡大する可能性もあります。
●リハビリスタッフの感染予防に対する意識は?
筆者の経験等に基づくため一概にはいえませんが、リハビリ専門職の養成校においては、基礎医学や運動療法など専門的な学習が中心になります。
公衆衛生学などの授業を通じて健康管理など一般的なことは学びますが、感染症に対する治療や予防について集中的に学ぶことは少ないです。
そして、実際の臨床場面においても運動機能やADLの改善が第一に求められるのも事実です。
血液や嘔吐物など、明らかに感染リスクが高い体液の扱いには慎重になりますが、普段の接触についてはそこまで意識することはないでしょう。
しかし、ウイルスの感染拡大が社会問題となっている現状、医療従事者として基本的な感染予防対策を徹底し、少しでも感染拡大のリスクを減らすような取り組みが必要です。
●リハビリが感染経路とならないためにどう工夫するか?
前述したように、リハビリスタッフは感染拡大の媒体となる可能性が高く、いかにそれを予防するかが重要です。
スタンダードプリコーションを徹底した上で、感染予防のため実際にとられている対策を以下に挙げます。
- ◯病棟ごとにリハビリ担当を決めておく
- ◯感染症患者さんと感染リスクの高い患者さんを同時に担当しない
- ◯感染リスクが高い患者さんは、リハビリ時間をずらす
- ◯リハビリ機器は1回の使用ごとに消毒を行う
施設によって業務形態が違うため、それぞれの現状に合った対策をしていくことが求められます。
自分の身は自分で守る!病院に行ったときのチェックポイント
「私が普段かかっている病院は大丈夫?」と不安になる方のために、患者さん目線でチェックしておきたいポイントについてご紹介します。
●ポイント1 スタッフの私語が多い病院は要注意!
病院に限らずどこの職場でも同じですが、お客さん(患者さん)の前で私語をしているスタッフを見ると気分の良いものではありません。
新型コロナウイルスをはじめ、主な感染経路が飛沫感染であるウイルスは多く、無駄な会話は感染リスクを増加させます。
「マスクをしているから大丈夫」という問題ではなく、私語が多いということはそのリスクを軽んじていることになります。
●ポイント2 採血時や検査時の感染予防は大丈夫?
前述したように、スタンダードプリコーションが徹底されているかは重要なポイントになります。
特に注意していただきたいのは、患者さん(自分)に触れる際や検査器具をあてる際に手袋をしているかです。
採血時は血液に触れる可能性が高く、B型肝炎など血液感染のリスクもあるため、絶対に手袋をしなければいけません。
また、ガーゼの交換や傷の処置をする際、直接患者さんの体に触れていないかなどもチェックしておきましょう。
●ポイント3 物品が散乱していないか、病院内が清潔に保たれているか
直接体に触れる以外にも、環境面でしっかりと観察しておきたいポイントがあります。
たとえば、使った後の体温計をそのへんに放置していないか、採血時に血液のついたガーゼを普通のゴミ箱に捨てていないかなどが挙げられます。
また、ドアノブや手すりなど患者さんがよく触れる場所は定期的に消毒されているかなども観察しておきたいポイントです。
「そんな細かいことまで」と思うかもしれませんが、その細かい努力が感染予防には重要になります。
実際に筆者の施設でも、1人の患者さんが手すりやリハビリ機器を使用した後はアルコール綿で拭き上げるようにしています。
一人ひとりが普段から感染予防に意識を向けることが大切
クラスター感染や緊急事態宣言など、社会が新型コロナウイルスに対する恐怖にさらされています。
感染予防商品の枯渇、活動の自粛など、いまや国内の感染予防に対する意識は高いです。
しかし、「withコロナ」といわれるように、ウイルスと共存することが当たり前となったとき、感染予防に対する意識は薄れてくるかもしれません。
だからこそ、医療従事者をはじめ国民一人ひとりが感染症に対する正しい知識をもち、普段から感染予防に対する意識を高めておくことが大切なのではないでしょうか。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士