変形性股関節症のリハビリとは?内容や種類、日常生活での注意点について整形外科の理学療法士が解説します
膝が変形する関節症を知っていても、股関節の関節症は耳慣れない方も多いかもしれません。
手術に至る場合も少なくないですが、初期から適切なリハビリや生活で注意をしていくことで、進行を抑制したり、痛みの軽減につながります。
今回は変形性股関節症のリハビリ方法や日常生活で工夫するポイントについて紹介します。
目次
リハビリをする前に知っておきたい病気の特徴や症状
病気の特徴を知ることで、リハビリの目的や方法を理解しやすくなります。
まずは変形性股関節症の特徴や症状について解説します。
●変形性股関節症の特徴
脚の付け根にある股関節は、太ももの骨の端にある大腿骨頭(だいたいこっとう)と骨盤にある臼蓋(きゅうがい)で作られています。
丸い球状の骨頭をカップのような臼蓋が覆っているような関節です。
変形性股関節症は大腿骨頭、臼蓋どちらとも異常を生じることがある病気で、原因は以下のように一次性と二次性の2種類に分けられます。
○一次性股関節症
もともと股関節に異常はないのに変形が生じる場合です。
欧米の男性に多いパターンですが、日本ではまれです。
○二次性股関節症
股関節に何らかの異常があることが原因で股関節の変形が生じる場合で、日本人に見られる変形性股関節症のうち約80%ほどを占めます。
先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)や臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)といった股関節の病気が原因となることが多く、男性より女性に多く見られます。
発症は中高年以降に多く、加齢にともない変形が徐々に進行していき症状も変化します。
そのため、変形性股関節症は診断を受けてから長く付き合っていく必要があり、適切な知識の習得やリハビリなどの対策を早期から実践することが重要になります。
また、変形や症状が重症化すると手術をすることが少なくありません。
手術後も継続的な運動や日常生活での注意が必要となるため、早期から正しい知識やリハビリ方法を知ることで、術後もスムーズに対応できます。
※臼蓋形成不全については「中高年に多い股関節痛。その痛みは臼蓋形成不全かもしれません」で詳しく紹介しています。
●変形性股関節症の症状
変形性股関節症の症状は主に「関節の動きが制限される」、「痛み」の2つが挙げられます。
股関節は膝や足首にくらべ動く範囲が大きい関節ですが、関節が変形してくると、動きが制限されます。
結果として、股関節を深く曲げたり、伸ばしたりする必要がある以下のような動作が制限されて、日常生活が不自由になります。
変形性股関節症により不自由になりやすい日常生活の動作 |
---|
・低い椅子や床からの立ち座り ・足の爪切り ・靴下の着脱 ・靴の着脱 ・落ちた物を拾う ・床での就寝 ・浴槽の出入り など |
また、変形性股関節症は筋力低下を引き起こし、結果として特徴的な歩き方になります。
骨盤が体重を支えている脚と反対側に傾いてしまう「トレンデレンブルク徴候」と呼ばれる現象が起こります。
そのような傾きに対して重心を釣り合わせるために、上半身を体重を支えている脚のほうに傾ける「デュシャンヌ徴候」と呼ばれる現象が生じる場合もあります。
関節の変形は次のような進行をして、進行度合いにより症状も変化します。
変形の進行度合い | 関節の状態と症状 |
---|---|
前・初期 | 変形が始まる前の臼蓋形成不全などがある状態もしくは関節の隙間が少し狭くなり軟骨が薄くなった状態。 関節の動きはそれほど制限がでないが、股関節周辺に痛みを感じることで発見につながることが多い。 |
進行期 | 関節の隙間が狭くなり、軟骨が薄く硬くなってくる。 棘のように骨が飛びでてきたり(骨棘:こつきょく)、嚢胞(のうほう)と呼ばれる袋が骨にできたりする。 痛みだけでなく、関節の制限も見られ始める。 |
末期 | 関節の隙間がなくなり、骨棘や嚢胞が目立つ。 関節の制限が重度になり、日常生活に多くの支障がでてくる。 |
このように段階的に症状が進行していくため、状態に合わせて無理な動作に注意をしつつ、筋力を保つための運動や日常生活の工夫をする必要があります。
無理をしないのが大事!変形性股関節症のリハビリ方法を解説
二足歩行をする人間にとって通常の生活でも股関節には負担がかかります。
そのため変形性股関節症では、日常生活を送るだけでも、痛みを引き起こしやすく、ついつい活動量が減りがちです。
しかし、あまりに使わないと筋力が低下して、症状の悪化や日常生活の制限を招きます。
そこで、無理をしないような工夫を踏まえながらの以下のようなリハビリが重要になります。
●具体的なリハビリ方法を紹介!痛みがでない範囲が重要
筋肉の衰えを防ぐトレーニングと関節の負担を軽くする運動の方法を紹介します。
運動は痛みの強いときは行わずに、調子に合わせて回数を加減しましょう。
1.股関節を守るお尻の筋肉を鍛える運動
変形性股関節症では股関節に近いお尻の筋肉の衰えを防ぎ、関節にかかる負担を減らすことが大切です。
ここでは2つの運動を紹介します。
鍛える部位 | 運動の方法 |
---|---|
お尻の後ろを鍛える | 仰向けになり両膝を立てます。 両足に力を入れながらゆっくりとお尻を上げます。 両足に力を入れたままゆっくりとお尻を下ろします。 |
お尻の横を鍛える | 仰向けになり両膝を閉じた状態で立てます。 ゆっくり両膝を開きます。 ゆっくり両膝を閉じます。 ゴムバンドを使って軽く負荷をかけるのもおすすめです。 |
2.関節にかかった負担を減らす運動
痛みのある脚と反対側の足を台の上に置いて、痛みのある脚を少し浮かせます。
そして振り子のように痛みのある脚をぶらぶら振ります。
このような運動を股関節にかかっている圧を減らして痛みを和らげるために行います。
●体重をかける場合は水中での運動がおすすめ
変形性股関節症は股関節への負担が蓄積することが、症状の悪化の要因の1つと報告されています。
そのため、無理なウォーキングや体重をかけたトレーニングはかえって症状の悪化を招きます。
しかし、筋力が衰えると股関節を保護する機能も低下するのも事実です。
そこで関節への負荷を減らしながらできるトレーニングとして水中での運動があります。
プールなどで浮力を利用しながら痛みのでない範囲で行いましょう。
※水中での運動については「高齢者には水中ウォーキングがおすすめ!メリットや期待できる効果とは」で詳しく解説しています。
関節の負担を減らす日常生活での工夫を紹介
運動などのリハビリとともに重要なのが日常生活で関節に負担をかけないように工夫することです。
●体重の増加を防ごう
股関節には歩行時に体重の3倍ほどの負荷がかかるとされており、体重が重いと普段の生活をするだけでも股関節には大きな負担がかかります。
そのため体重の増加には注意が必要なのですが、ダイエットのために運動を増やしすぎるとかえって症状を悪化させる恐れがあります。
そのため、食事の工夫を中心にして体重の管理をするようにしましょう。
●最近はデザインも豊富!おしゃれな杖を活用しよう
股関節にかかる負荷を減らすためには、杖の使用もおすすめです。
ただし私も普段杖を勧めると「杖を使うのは見た目が気になる…」という声をよく聞きます。
最近はおしゃれなデザインの杖も多く、インターネットの通販で購入もできます。
一般的なT字杖のほかにも腕で体重を支えることができる「ロフストランド杖」もおすすめです。
●股関節の負担になる動作を防ぐ
以前にくらべて減ってはきたものの日本人特有の和式の生活は、股関節を深く曲げたり、強い力を必要としたりするため、股関節に大きな負担がかかります。
そのため、床での生活をなるべく減らして、椅子やベッドを使用するようにしましょう。
また、トイレの便座を高くしたり、トングのようなもので床の物を拾ったりする工夫もおすすめです。
※ダイエットにおすすめな食事の工夫は「今話題のダイエット法、ケトジェニックダイエットの正しい知識について解説します」で解説しています。
初期からの対応が大切!専門職と連携してリハビリを継続しよう
変形性股関節症は徐々に変形が進み症状を悪化させるため、初期から対応していき進行を抑えて、症状を少なくしていくことが大切です。
違和感がある場合は、早めに整形外科を受診して、リハビリや生活上の注意点について教えてもらいましょう。
そして、今回ご紹介した内容を参照していただきながら、医師や理学療法士などの専門職との連携を継続して対応していただければ幸いです。
-
執筆者
-
整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級
三枝 和美 さん
2021年1月7日 12:32 PM
記事参考になりました。私は、幼児期に脱臼をしており現在54歳ですが、変形性股関節症と診察を受けました。
また、軽傷であり手術はできるだけ避けたいと思っています。しかし、リハビリ等の対応をしていただける病院が見つかりません。富山県富山市内でご存じの病院はないでしょうか。