DMATをご存知ですか?その役割と活動内容についてご紹介します
東日本の大震災や熊本県を中心にした水害など、ここ数年だけでも天災により甚大な被害がでています。
自衛隊員の方々が災害後の救助活動や復興援助に尽力している一方で、実は医療専門職を中心としたチームも現場で活躍しています。
本記事では災害派遣医療チーム(DMAT)についてご紹介します。
災害現場にかけつける医療チーム、それがDMAT
まずはじめに、DMATとはどういうチームなのかについてご紹介します。
●DMATは医療専門職から構成される災害対策チーム
DMAT(ディーマット)とは、Disaster Medical Assistance Teamの頭文字をとったもので、 和訳すると災害派遣医療チームになります。
DMATは主に医療機関に勤めるスタッフが担っており、職種としては医師や看護師をはじめ、業務調整を行うその他の医療職や事務職から構成されます。
実際の現場では、医師や看護師は被災者の診察や処置を担当し、業務調整員は情報収集やほかの医療機関との連携を図ります。
ただ、すべての医療機関にDMATがあるわけでなく、地域の災害拠点病院や規模の大きい医療機関(日本赤十字や済生会など)で結成されています。
1部隊の人数に規定はありませんが、1施設内のDMATで複数の部隊を有している施設もあります。
DMATは個別に活動しているのではなく、厚生労働省の委託を受けたDMAT事務局を中心に活動し、災害発生時は各都道府県知事からの要請によって出動します。
活動範囲としては国内全土であり、大規模災害の場合は全国から被災地へ派遣されることもあります。
●DMAT隊員になるには特別な資格が必要?
「災害現場で自分の能力を生かしたい」と熱い思いを持っていたとしても、誰でもDMAT隊員になれるわけではありません。
もちろん医療現場で勤務しているスタッフから構成されるため、医療系の資格を所持しているのは前提です(事務員をのぞいて)。
ただ、災害現場で専門的な知識と技術を駆使して活躍するチームである以上、災害や防災に関する知識や、救助活動に関する能力が求められます。
そのため、DMATの隊員になるには、厚生労働省が開催しているDMAT隊員養成研修に参加し、決められた課程(4日間)を修了する必要があります。
研修は座学がほとんどですが、なかには実技演習などもあり、最終的には筆記試験に合格しなければなりません。
DMAT隊員は、普段は医療現場で各職種に応じた業務を行い、災害発生時は必要に応じて現場に急行する頼もしい存在です。
災害時の医療現場では何が起こっているか?
被災地の凄惨な様子はニュースで報道されていますが、実際の医療現場ではどのようなことが起こっているのでしょうか。
●次々と患者さんが搬送され、医療現場は混乱状態
救急指定の病院では、1日に数十人の方が入退院をしたり、10台以上の救急車を受け入れることがあります。
しかし、大規模災害が発生した場合、数百から数千人の方が医療機関に搬送されることになります。
災害時には、「マンパワー的に厳しい、ベッドの空きがないから受け入れは無理」という考えは通じないため、次から次へと患者さんが搬送されてきます。
ただ、すべての搬送患者さんに必要な検査や処置をゆっくり考えている時間はなく、緊急性の高い患者さんを瞬時に見極める必要があります。
この患者さんの見極めはトリアージと呼ばれており、以下のように軽症から重症までの判断を行い、それぞれの状態に応じて処置が行われます。
軽症(グリーン) | 中等度(イエロー) | 重症(レッド) | 重症(ブラック) |
---|---|---|---|
待機 | 症状の悪化がないか様子観察 | 優先的に処置 | 医療的介入なし (死亡の可能性が高い) |
簡単にいうと、自分で歩ける人や重症感のなさそうな患者さんはしばらく待っててもらい、すぐに手当てをしないと命に関わる方が優先されます。
「優先順位をつけるのはおかしい!」と思う方もいるかもしれませんが、限られた時間と資源の中でできる限りの患者さんを救うためにトリアージが行われるのです。
ドラマなどで「この子を助けてください!」と訴える親が無視されるようなシーンがあったとしたら、おそらくその子にはブラックのタグがつけられているのでしょう。
残酷に思うかもしれませんが、トリアージが優先されるのが災害時の医療現場なのです。
●限られた医療機器や物資で治療に当たるため、地域間の連携が必須
災害による被害は人的被害だけではなく、建物やシステムなどさまざまなものが機能不全に陥ります。
病院内の機器やシステムも例外ではなく、電子カルテが使えないため患者さんの情報がわからない、人工呼吸器の台数が足りないなど多くのトラブルが発生します。
また、患者さんの処置に使う消耗品などが枯渇するなどの問題が起こると、初期診療さえも困難になるでしょう。
そのため、災害拠点病院や大規模な病院といえども、災害時に1施設で全患者さんの受け入れをすることは不可能です。
実際には、救助場面において救急隊が患者さんの状態を評価して搬送先病院を決定しますが、医療機関同士も横の連携が必須となります。
A病院では緊急手術ができる、B病院は検査ならできる、C病院はベッドが空いているなど、リアルタイムで情報交換をして診療に当たっています。
DMATの訓練内容や活動例
実際にDMAT隊員が行っている訓練の例や、災害時における活動例についてご紹介します。
●院内設備の確認や災害を想定した訓練
DMAT隊員たちは日常の臨床業務をこなすかたわら、定期的に災害発生時を想定した訓練や防災に関する取り組みを行っています。
たとえば、所属している医療機関における災害時対応訓練のプログラムを検討したり、前回出動時の振り返りなどのミーティングは重要な業務になります。
また、医療資源の確認や活動備品の点検など、万が一災害が発生した際に不備がないようにチェックしておくことも大切です。
直接的な訓練でいえば、所属施設や地域での合同訓練をはじめ、消防や自衛隊などとの合同研修が行われています。
実際の災害場面では、医療や行政分野からさまざまな職種が活動しているため、それぞれの業務内容を知ること、他職種と連携を図ることが重要になります。
筆者の所属施設のDMAT隊員たちも、業務終了後にミーティングや訓練を行ったりと、災害発生時に備えて日夜トレーニングを続けています。
●診療の補助や患者さんの搬送、情報発信など業務は多岐にわたる
DMATは都道府県知事からの出動要請により被災地に派遣されますが、行う業務内容はその派遣先の災害対策本部やDMAT本部が決定します。
現地での診療補助や搬送のサポートをはじめ、医療資源の評価、情報発信など診療を足元から支える業務もあります。
DMATの目的は、被災地における被害を最小限におさえること、1人でも多くの被災者を救うことになるので、現地のニーズに合わせた活動が重要となります。
実際に筆者がDMAT隊員から聞いたなかでは、以下のような活動が行われていたようです。
- ◯災害拠点病院での診療補助
- ◯DMAT専用車での転院搬送
- ◯医療資源(物品やシステム)のチェック
- ◯自衛隊と協力しての患者搬送
「ここまでがDMATの業務」という枠組みはなく、DMAT隊員には必要な活動を的確に判断して実行できる能力が求められるといえるでしょう。
今後も高まるDMATのニーズ
DMATは医療専門職から構成される災害時対応チームであり、災害発生時は迅速にかけつけてくれる頼もしいチームです。
隊員たちは災害に対する専門知識をはじめ、防災に関しても高い危機管理能力を備えています。
DMATによる活動は、院内での啓発活動や訓練にとどまらず、地域での合同訓練などを通して、さまざまな分野が連携できる基盤づくりに貢献していくことでしょう。
私たちも、日頃から防災に対する意識を高く持つこと、災害発生時の対応を調べておくなど、被害を最小限にするための努力を続けていきたいですね。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士