災害医療のスペシャリスト!現役のDMAT隊員へのインタビュー(出動編)
本記事は、現役DMAT隊員のAさんにDMATに関する質問にお答えいただくシリーズ企画となっています。
第1部(日常編)では、DMAT隊員としての考え方などについてお話しいただきましたが、第2部では具体的な訓練や出動時の状況などについて聞いてみました。
また、私たちが災害とどう向き合うかについてもお答えいただいたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
質問1 災害が起こるたびに出動するのですか?
筆者:災害が発生するたび、ニュースで甚大な被害が報道されていますよね。
各地のDMATチームにおいて、出動する基準などはあるのでしょうか?
Aさん:大規模災害が発生した際、それぞれの都道府県内のDMAT隊ごとに、隊員に対して待機指示が出ます。
被災地の状態によって派遣する部隊も異なりますし、また被災地からの距離なども出動の有無に関係しています。
最終的には、被災地から救援依頼がきた後に、各都道府県知事から出動要請がかかります。
そのため、大規模災害が起こったときは、日常業務を行いつつ、出動に備えて待機している状態になります。
筆者:では、DMAT隊員たちも被災地の情報をしっかり収集しているのですか?
Aさん:はい、とはいっても業務優先なので、休憩時間や業務後に隊員たちと情報交換をしたりしています。
質問2 出動時は普段の業務はどうするのですか?
筆者:出動要請がかかった場合、普段の業務もあるためすぐには出られないとは思いますが、どのような工夫をされているのでしょうか?
Aさん:大規模災害が発生した場合、隊員は所属長と相談して、出動に備えての準備を始めます。
私は理学療法士ですので、担当患者さんをほかのセラピストにお願いしたり、会議なども代理をたてるなどの対応をしなければなりません。
ただ、ほとんど場合は所属長がほかのスタッフに指示してくださるので、隊員たちは早急にDMATとしての出動準備にうつることができます。
筆者:職場の理解がしっかりと得られているということですね。
Aさん:そうですね、同僚や上司の協力があってこそだと思います。
質問3 出動時は特別な車両を使うのですか?
筆者:災害時、消防車や救急車など特殊車両が活躍すると思いますが、DMATにも医療機器が搭載された特殊車両はあるのでしょうか?
Aさん:私の勤務する施設には、DMATカーと呼ばれる車両や高規格救急車が配備されており、出動時はそれらを使用します。
筆者:DMATカーとは、何か特殊な効果がついた車両なのでしょうか?
Aさん:具体的な決まりはないのですが、衛星電話が搭載されているものもあれば、私たちが使用するDMATカーは、発電機やWi-Fiなどを搭載しています。
また、高規格救急車は患者さんを搬送できる機器も備えていますね。
筆者:つまり、さまざまな機能を搭載した救急車両ということですね。
Aさん:そうですね。
あと、ベースとなる車両がオフロードでも走行できる車両なので、被災地でも移動しやすいですね。
質問4 被災地の医療はどのような状態なのでしょうか?
筆者:われわれはニュースで現場の状況を確認しますが、実際の医療現場はどのような問題が発生しているのでしょうか?具体的なお話でも構いませんので。
Aさん:災害の種類や規模によっても変わりますが、ライフラインが途絶えていたり、建物が倒壊している施設がほとんどです。
その場合、医療機器が使えない、日常的なケアが行えないなど、医療体制が崩壊しています。
その病院で医療が提供できない場合、入院している患者さんをほかの病院に搬送する病院避難という対応も必要になります。
筆者:よくドラマなどで待合に患者さんが溢れかえっているシーンなどがありますが、実際にはどのように診療がなされるのでしょうか?
Aさん:搬送されてくる患者さんは、命の危機にある方やご自分で歩ける方、救命が困難な方などさまざまです。
そのため、限られた資源の中で1人でも多くの患者さんを救えるように、トリアージと呼ばれる優先順位づけが行われます。
筆者:赤のタグ、黒のタグというやつですよね?
Aさん:そうです、実際は赤のタグや黄色のタグの方が優先されますね。
質問5 被災地では具体的にどのような活動をするのですか?
筆者:災害現場での救助活動は自衛隊や特別救助隊などが担っていますが、DMATチームは具体的にどのような活動をされているのでしょうか?
Aさん:基本的には、派遣先の病院や周辺地域で必要な医療が行われるようにサポートをします。
先ほどお話しした病院避難などでは、DMATカーや救急車での搬送業務を担当します。
また、病院内の医療資源を確認することや、周辺の病院の情報を収集してどこでどのような治療が可能かなどを把握するように努めています。
筆者:なるほど、てっきり医療現場で診療活動などを行っているのだと思っていました。
Aさん:医師や看護師は診療のサポートをすることもありますが、ロジスティックに特化したチームは、医療体制を整えることが主な役割ですね。
質問6 私たちが災害に対して普段気をつけておくことは?
筆者:これが最後の質問になります。
私たちが、災害に備えて注意しておきたいポイント、準備するべきものなどがあれば教えていただけますか?
Aさん:そうですね、災害というものはいつどんな規模で起こるか、どのくらいの被害が出るかなども予測が難しいです。
そのため、日常的に防災の意識を高く持って、万が一災害が起こった場合に適切な行動ができることが大切だと思います。
非常食を準備したり、避難用の荷物をまとめたりもそうですが、避難場所の確認や避難ルートの確保など、普段から取り組めることもあります。
病院以外の職場でも、定期的に災害を想定した訓練を実施することも効果的ですね。
筆者:先ほど、Aさんの病院でも定期的に訓練を行っているとお聞きしました。
やはり実際にシミュレーションをしておくことが大切なんですね。
最後に この記事を読んでいる方たちへ一言
筆者:Aさん、長い時間お付き合いいただきありがとうございました。
DMAT隊員の方にお話を聞くのは初めてだったので、非常に貴重な経験ができました。
では最後に、この記事を読んでいただいている読者の方にむけて一言お願いします。
Aさん:災害はいつどこで起こるかわかりませんが、私たち一人ひとりが災害に対して備えることは医療体制を維持することにつながります。
たとえば、台風による水害などでは、各地に避難勧告や避難指示などが発令されますが、すべての方がその意味を理解して迅速な行動ができるとは限りません。
災害に対する正しい知識を身につけることは、自分や大切な人の命を守ることにつながります。
この記事をきっかけに、自分の災害に対する意識を高めていただければ幸いです。
筆者:ありがとうございました。
これからもAさんのご活躍を期待しております。
インタビューを終えて
今回は、第1弾と第2弾に分けて、現役のDMAT隊員の方に話を聞くことができました。
私たちが普段ニュースで見る被災地の様子は、建物の倒壊など凄惨な状況として認識できますが、実際の医療現場ではDMAT隊の活躍なしには医療体制を維持できません。
近年、震災や台風による甚大な被害が報道されるなか、防災に関する取り組みをしている方も多いでしょう。
「災害に対しての備えは、自分の命だけでなく地域の医療を守ることにつながる」、Aさんからのメッセージは、筆者自身も防災に対する考えを見直すきっかけになりました。
災害はいつどこで起こるかわからないからこそ、いつでも適切な行動ができるように準備をしておきたいですね。
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士