橈骨神経麻痺で手が動かない…。症状の原因やリハビリについて解説します
「腕枕をして起きたら手首が動かなくなった!」
まさかと思うかもしれませんが、実は「橈骨神経麻痺(とうこつしんけいまひ)」と呼ばれるけがでよく聞かれるエピソードです。
今回は日常生活でも起こりうる橈骨神経麻痺について症状や原因、リハビリなどの治療について整形外科の理学療法士が解説します。
目次
橈骨神経麻痺とは?病気の特徴や症状を解説
まずは橈骨神経麻痺がどのような病気なのかを解説します。
●橈骨神経ってどこの神経?神経のある場所と役割
橈骨神経とは脇から腕を通り手まで伸びる神経です。
主に腕の裏側を通って、手の先では親指から中指へと広がっています。
主に手首を手の甲側に曲げたり、指を広げたりするために働く筋肉を支配しています。
また、腕の裏側や親指から中指側の手の甲の感覚も司っています。
●橈骨神経麻痺は大きく分けて2種類
橈骨神経麻痺は神経が障害される場所によって以下の2つに分けられます。
○橈骨神経高位麻痺(とうこつしんけいこういまひ)
日常生活の動作が原因で起こることが多い橈骨神経麻痺です。
橈骨神経でも肘から上の部分を通る部分が障害された場合です。
○後骨間神経麻痺(こうこつかんしんけいまひ)
後骨間神経は橈骨神経の太い部分から肘の先で枝分かれした神経です。
この部分は筋肉で覆われた狭い部分を通過するため、神経が締め付けられて障害を起こしやすくなっています。
神経の炎症やガングリオンと呼ばれるできもの、骨折、運動のしすぎなどが障害の引き金になります。
●橈骨神経が障害される橈骨神経麻痺の症状
橈骨神経麻痺は種類によって症状が異なります。
それぞれの症状の違いを以下の表で示します。
病気の名前 | 橈骨神経高位麻痺 | 後骨間神経麻痺 |
---|---|---|
障害される運動 | ・手首を甲側に曲げることができない ・全部の指の付け根を伸ばすことができない |
・全部の指の付け根を伸ばすことができない |
障害される感覚 | ・親指、人差し指、中指の甲側や手首の親指側の感覚が鈍くなったり、痺れたりする | ・感覚の障害はないことが多い |
橈骨神経の障害により、橈骨神経が支配する筋肉が働かなくなってしまうため、手が垂れ下がった状態(下垂手:かすいしゅ)や指が垂れ下がった状態(下垂指:かすいゆび)になってしまいます。
後骨間神経麻痺の場合は、手首を動かす筋肉は障害されないため、下垂指のみの症状が出るため、橈骨神経高位麻痺と区別することができます。
また、感覚が障害されるのも橈骨神経高位麻痺で見られる症状ですので、どちらの障害であるかの判断基準とされています。
橈骨神経麻痺の原因を紹介!「腕枕」に「居眠り」が原因って本当?
橈骨神経高位麻痺と後骨間神経麻痺それぞれの原因について紹介します。
●橈骨神経高位麻痺の原因
橈骨神経高位麻痺は肘から上にある神経が圧迫されたり障害されたりすることで起こります。
よく見られる原因は以下のようなものがあります。
- ○腕枕
- ○飲酒後の居眠り
- ○骨折
- ○ギプスによる固定
- ○長時間の手術
- など
新婚旅行で一晩中腕枕をしていた結果起こることが多いという理由で別名「Honeymoon Palsy(ハネムーン症候群)」と呼ばれています。
また、飲酒後の睡眠で長時間腕を圧迫してしまって起こることから、「Saturday Night Palsy(土曜の夜症候群)」と呼ばれることもあります。
実際、短時間の腕枕や腕を下にして寝た後に指が開きにくかったり、痺れたりした経験があるかもしれませんが、それは橈骨神経の圧迫からくる一時的な症状であることも少なくありません。
骨折や手術により直接神経が傷ついてしまって起こることもあり、手術後のギプス固定による圧迫でも起こることがあります。
●後骨間神経麻痺の原因
後骨間神経は比較的体の表面から奥にある神経ですので、橈骨神経高位麻痺のような圧迫では麻痺は起こりにくいです。
具体的には次のような原因が挙げられます。
- ○できもの
- ○腫瘍
- ○骨折
- ○神経炎
- ○過剰な運動
- など
このように単純な神経の圧迫というよりは、なにかの病気や外傷が原因となることが多い病気です。
橈骨神経麻痺で行うリハビリとは?そのほかの治療と合わせて解説
橈骨神経麻痺は骨折が原因だったり、外傷などで神経が大きく損傷していたりする場合を除いて手術をすることはありません。
そこでリハビリを含む保存療法(手術をせず治療すること)が選択され、麻痺が回復するまで治療が続けられます。
そこで、保存療法における具体的な治療法を解説します。
●圧迫された神経に負担をかけないように安静が基本
神経の圧迫が原因となっている場合、神経に負担をかけないように安静にすることが必要です。
患部をあまり冷やさないようにして、保温をして血流を促すこともおすすめです。
また、神経の機能を正常に保つビタミンB12などの内服薬を服用することがあります。
●正しい姿勢を保つための固定
下垂手や下垂指の状態が長時間続いてしまうと、その状態で関節が固まってしまったり、筋肉や皮膚といった組織が縮こまったりして、神経の回復が起こったとしても手首や指の動きが制限されてしまう危険性があります。
そのため、手首や指の位置を正しい位置に固定する場合があります。
関節を固定する装具を装具の専門家である義肢装具士や医師、理学療法士が連携して作成し、装着することで正しい位置に固定することができます。
●麻痺の回復に合わせてリハビリを実施
橈骨神経麻痺に対するリハビリについて、目的ごとに3つの具体的な方法を紹介します。
1. 麻痺による関節が固まるのを防ぐ
麻痺による動きの制限で、関節が固まるのを防ぐために、無理のない範囲で関節の動きを保つ運動を行います。
麻痺がある場合には自力で動かすのは難しいので、反対側の手を利用して関節をさまざまな方向へ動かします。
特定の回数を実施するというより、生活の中でルールを決めて行うようにすると一定の回数を確保できます。
たとえば、テレビのコマーシャルの間に動かす、起床時と就寝前に動かす、入浴中に動かすなどわかりやすく、一息つけるようなタイミングに組み込むと良いでしょう。
2. 筋力低下を最小限にする
麻痺で筋肉の働きが不十分になると、筋力が低下してしまいます。
特に麻痺の期間が長くなる場合は、筋力低下の程度が酷くなり、回復に長い時間を要します。
しかし、自分で力をつけるといっても、麻痺で動かなくては思うようにいきません。
そのような場合、低周波と呼ばれる器具を利用して、筋肉を収縮させて筋力低下をできるだけ少なくするようにします。
低周波は電気の刺激を利用して筋肉の収縮を促します。
低周波による治療は整形外科や鍼灸整骨院などで専門家により行われます。
※低周波による治療については、「介護現場で低周波を使っていますか?リハビリに導入したい効果や活用方法」で解説しています。
3. 神経に負担がかからないような日常生活の工夫をする
神経の圧迫が原因で起こりやすい橈骨神経麻痺は、日常生活で圧迫を回避するような工夫をすることが大切です。
寝る場合に麻痺側の腕を下にしないようにしたり、椅子の背もたれや肘置きなどで圧迫しないように気をつけましょう。
手や指が動かないと思ったら自己判断せずにすぐに整形外科を受診しよう
橈骨神経麻痺は圧迫による神経の障害が酷くない場合は、多くが保存療法で自然治癒していきます。
そのため、自己判断で放置したり、対応したりするのではなく、専門家による早期の対応・治療が重要です。
朝起きて手や指が動かないと感じたら、早めに整形外科で医師の診断・治療を受けるようにしましょう。
-
執筆者
-
整形外科クリニックや介護保険施設、訪問リハビリなどで理学療法士として従事してきました。
現在は地域包括ケアシステムを実践している法人で施設内のリハビリだけでなく、介護予防事業など地域活動にも積極的に参加しています。
医療と介護の垣根を超えて、誰にでもわかりやすい記事をお届けできればと思います。
保有資格:理学療法士、介護支援専門員、3学会合同呼吸療法認定士、認知症ケア専門士、介護福祉経営士2級