リハビリ病院で受けるリハビリは、期限があることを知っていますか? 介護認定を受けている方は注意が必要!
平均寿命の延長に伴い、さまざまな病気を抱えるリスクも高まり、リハビリ病院などでリハビリを受けている方が年々増加しています。
医療保険を活用したリハビリは、無限にできるわけではなく期限が存在します。
期限についての詳細と、除外されるケース、介護保険との関係性についてご紹介します。
診断された病気によって期限が異なる
リハビリ病院や整形外科でリハビリは、治療が開始された日から数えて何日までという期限が設けられており、標準算定日数とよばれています。
これは各医療機関が取り決めたハウスルールではなく、厚生労働省によって定められており、日本国内共通のルールになります。
2006年度の診療報酬改定によって取り決められ、現在でも続いている取り決めになります。
病気によっては治癒を見込む期間が異なるため、現在5つの疾患別リハビリテーションに分け、それぞれ治療の目安になる日数が標準算定日数として定められています。
疾患別リハビリテーションごとの標準算定日数をまとめると、以下のようになります。
疾患別リハビリテーション | 標準算定日数 |
---|---|
運動器疾患 | 150日 |
心大血管疾患 | 150日 |
脳血管疾患 | 180日 |
呼吸器疾患 | 90日 |
廃用症候群 | 120日 |
●運動器疾患
骨折や変形性膝関節症などの診断がついた場合、運動器疾患に該当します。
基本的には痛みが出てきた時期ではなく、治療が開始された日が起算日となります。
また、骨折をした後に手術をした場合は、手術をした日が起算日となります。
このため、ほかの病院で手術をして退院後、ほかの整形外科でリハビリを行う場合も、手術をした日から150日が標準算定日数となるため、注意が必要です。
●心大血管疾患
心筋梗塞や狭心症、慢性心不全、末梢動脈閉塞性疾患などが該当します。
運動器疾患と同様に、治療が開始された日が起算日となります。
また、開胸によるカテーテル大動脈弁置換術後など手術を要した場合は、手術をした日が起算日となります。
●脳血管疾患
脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血などが該当します。
また、パーキンソン病や脊髄小脳変性症などの神経疾患も、これに該当します。
脳梗塞などに対し、開頭術を行うために手術を要した場合は、手術をした日が起算日となります。
●呼吸器疾患
慢性閉塞性肺疾患や、気管支喘息、気管支拡張症、間質性肺炎などが該当します。
また、食道ガン、肝臓ガン、咽頭・喉頭ガンの手術後など、呼吸機能が低下している患者さんにリハビリを行う場合は、この呼吸器疾患として行うことになります。
この場合は、手術日が起算日となります。
●廃用症候群
一定程度以上に基本動作能力や応用動作能力、言語聴覚能力及び日常生活能力の低下をきたしている患者さんが該当します。
たとえば1人ではふらついて歩けず、買い物や通院に支障が出てしまっている状態です。
歩行能力ばかりではなく、脳機能の低下によって金銭管理が難しくなるなど、総括的に身体の機能が低下していることで生活に支障をきたしている方を指します。
原疾患として脳梗塞がある場合は脳血管疾患になりますが、そういった持病がなく身体機能が低下している場合廃用症候群に該当します。
どうして期限があるの?
リハビリの標準算定日数の制定は、2006年の診療報酬改定によって規定され、今日まで継続されています。
この改定の基礎になったのは、2004年1月に高齢者リハビリテーション研究会から出された「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」という検討会資料です。
高齢者リハビリテーション研究会とは、厚生労働省老健局内に設置され、リハビリ関連団体の代表などで構成され、現行の診療報酬上の改善すべき課題などを議論する場になります。
そこでの提言が診療報酬改定に関わった内容として、大きな2つのテーマがあります。
それは、「長期的なリハビリにおける治療の有効性」と、「ケアを主体とした、介護保険分野との連携不足」です。
●「長期にわたるリハビリは、効果が明らかでない場合がある」から期限を!
2006年の診療報酬改定までは、疾患別リハビリテーションにおける標準算定日数の取り決めはなく、いわば半永久的にリハビリを受けることができる状態でした。
高齢者リハビリテーション研究会によると、「長期間にわたって、効果が明らかでないリハビリ医療が行われている場合がある」と、改善すべき課題として提言されました。
これを改善することを目的に、これまで半永久的に実施することができた医療保険で受けられるリハビリ日数に、上限が設定されたのです。
疾患によって予後や治癒を要する期間が異なるため、脳血管疾患、運動器、呼吸器、心大血管疾患という4つの疾患別に分け、糖尿病や高血圧などの生活習慣病は外されました。
●「医療保険」から「介護保険」への移行を促す
また、疾患別リハビリテーションに期限を設けた目的として、国の方針が大きく関わってきます。
治癒にかかる期間は、大きく急性期、回復期、維持期と分けることができます。
医療保険は機能の改善が見込まれる急性期、回復期でどんどんすすめていき、維持期や慢性疾患においては介護保険を活用したリハビリへ切り替えていくという方針のもと、医療保険でのリハビリには期限を設け、その後の介護保険でのリハビリへつなげていくという形です。
各疾患別リハビリテーションにおける標準算定日数は、厚生労働省が統計を取り、おおむねの治癒期間をそれぞれの疾患に当てはめた形になります。
この治癒期間を超えて継続したリハビリが必要な場合は、基本的には通所リハビリテーションを活用してケアをすすめるようにしていきたいというのが、現状の国の方針となります。
では、この標準算定日数を超過した場合、リハビリを必ずしも終了しなければならないのでしょうか。
なかには期限を迎えたとしても治療を継続することで、症状が改善することが期待できる疾患もあります。
そこで、そういった患者様に対し適切な治療を行うことができるよう、上限を設けてリハビリができるようになりました。
●継続した治療が必要な患者さんには、月に13単位に限りリハビリ継続可能に!
リハビリの標準算定日数を迎えても、医師の判断により継続した加療によって治癒が見込まれる場合は、リハビリを継続することが可能です。
1単位とは診療報酬で決められた時間の単位であり、1単位20分となります。
つまり、毎回20分の治療を受けている場合は月に13日まで、40分の治療を受けている場合は月に6回と1単位を1回という考え方になります。
週に3日2単位の治療を受けていた患者さんは、標準算定日数超過はこれまで通りの頻度で通院することができなくなってしまいます。
このため、ご自身の標準算定日数を把握し、適切な通院頻度について主治医とご相談することをオススメします。
実は期限の除外疾患もあります
各疾患別において治癒期間を考慮した標準算定日数が設けられていますが、治癒期間が長期にわたることがあらかじめ見込まれる疾患については、標準算定日数のくくりから除外されるものもあります。
これは、診療報酬にて疾患別リハビリに規定する算定日数の上限対象患者として明記されています。
詳細の内訳は、以下の通りです。
- ●失語症、失認及び失行症の患者
- ●高次脳機能障害の患者
- ●重度の頸髄損傷の患者
- ●頭部外傷及び多部位外傷の患者
- ●慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者
- ●心筋梗塞の患者
- ●狭心症の患者
- ●軸索断裂の状態にある末梢神経損傷(発症後1年以内のものに限る)の患者
- ●外傷性の肩関節腱板損傷(受傷後180日以内のものに限る)の患者
- ●難病患者リハビリテーション料に規定する患者(先天性または進行性の神経・筋疾患の患者を除く)
- ●障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾患の患者に限る)
- ●その他各疾患別リハビリテーションに規定する患者、または廃用症候群リハビリテーションに規定する患者であって、リハビリテーションを継続して行うことが必要であると医学的に認められるもの
また、回復期病棟に入院されている患者さんについても、以下のような規定があります。
- ●回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者
- ●回復期リハビリテーション病棟において在棟中に回復期リハビリテーション病棟入院料を算定した患者であって、当該病棟を退棟した日から起算して三月以内の患者(保険医療機関に入院中の患者、介護老人保健施設又は介護医療院に入所する患者を除く。)
このように、通院または入院のリハビリにおいても期限なくリハビリを受けることができる疾患が存在します。
しかし、疾患によっては単位数の上限がある場合もありますので、かかりつけ医療機関の担当者に必ず確認することをオススメします。
介護認定を受けている場合は、ケアマネさんに相談を
介護認定とは、市役所など各自治体に申請をし、要介護被保険者に認定された方のことを指します。
満40歳になると納める義務が生じる介護保険料とは異なりますので、注意してください。
この介護認定を受けている場合、医療機関によってはリハビリを標準算定日数内で終了するか、通所リハビリなど介護保険を活用したリハビリへ移行するというハウスルールを決めていることがあります。
要介護被保険者で標準算定日数超過後もリハビリを継続する場合、医療機関に入る診療報酬が減ってしまうためです。
また、要介護被保険者かどうかは医療機関で把握することはできず、患者さんが提示する要介護被保険者証にて確認することが必要となります。
継続した医療保険でのリハビリを希望していたが、標準算定日数超過によりリハビリができなくなってしまうというケースになりかねませんので、スムーズな介護保険への移行ができるよう、ケアマネジャーに必ず連絡をいれておくことをオススメします。
参考:
高齢者リハビリテーション研究会 高齢者リハビリテーションのあるべき方向(2021年6月18日引用)
厚生労働省 令和2年度診療報酬改定について 第7部リハビリテーション(2021年6月18日引用)
-
執筆者
-
理学療法士として、整形外科に勤務する傍ら、執筆活動をしています。
一般的な整形分野から、栄養指導、スポーツ競技毎の怪我の特性や、障害予防、 自宅でできる簡単なエクササイズの方法などの記事を書くのが得意です。
仕事柄、介護部門との関連も多く、介護の方法を自分が指導することもあります。
保有資格等:理学療法士、福祉住環境コーディネーター2級