息切れなどの症状が出る場合は要注意、運動誘発性の肺高血圧症とは?
加齢とともに「最近息切れがする」という悩みを耳にすることがありますが、息切れを起こす原因はさまざまです。
心不全や肺気腫などが代表的ですが、肺高血圧症という病態はあまり知られていないのではないでしょうか。
そのなかでも、運動時にだけ症状が出る肺高血圧について、その原因や生活上の注意点について解説します。
運動時の息切れを「歳のせい」にするのは危険!
息切れを感じたときに「歳だから仕方ない」と決めつけてはいないでしょうか?
体力の低下以外に、息切れを生じる病気について知っておくことが大切です。
●運動時に息切れが生じる病気は?
運動時に息切れが出現する病態をいくつか挙げてみます。
◯慢性閉塞性肺疾患
肺気腫や慢性気管支炎など、長期間肺へのダメージが蓄積することによって、空気の通り道である気道が狭窄します。
息が吸いづらいというよりは吐きにくいと感じることが特徴です。
◯狭心症
冠動脈という心臓を栄養している血管が狭くなると、運動時に心臓が酸素不足になり、胸痛や息苦しさが出現します。
胸が締めつけられるという感覚に加えて、胸痛や冷や汗などほかの症状をともなうことが特徴的です。
◯不整脈
極端な徐脈や頻脈などでは心臓から送り出す血液の量が減少し、また肺に血液の渋滞が起こるため、息切れを感じることがあります。
自分の脈を触れたとき、1分間あたり50回以下または120回以上の場合、また頻回に脈が飛ぶ感じがする場合は注意が必要です。
◯肺高血圧症
肺の血管が細くなる、心臓の負担で肺血管の圧が高くなるなどの理由で、肺動脈の血圧が上昇する病態を指します。
検査や診断にはカテーテル検査が必要となること、特異的(肺高血圧に限定した)な症状がないことなどから、病気に気づかずに生活しているケースもあります。
●たかが息切れ、と放置するのは危険
息切れの原因を見つけるためには医療機関での検査が必要になるため、「そこまでしなくてもいいか」と様子見で生活している方も多いのではないでしょうか。
特に、今回のテーマである肺高血圧症に関しては、かかりつけの診療所などで診断することは難しいため、大きな病院に入院して精査をする必要があります。
「安静にしていたら大丈夫」という理由で息切れを放置していると、重篤な症状が出現する可能性があります。
不整脈の場合は失神や心不全の増悪、肺高血圧症が悪化すると右心不全につながります。
その場合、入院して専門治療が必要になるため、身体的な負担や経済的な負担が大きくなります。
「たかが息切れ」「歳のせい」と放置するのではなく、運動時の息切れを感じた時点でかかりつけ医に相談する、大きい病院を受診するなどの対応が望ましいです。
安静時の検査ではわからない、運動時に出現する肺高血圧症とは
ここでは、肺高血圧症が起こる理由やその分類、また運動時に出現する肺高血圧症について解説します。
●肺高血圧症の分類と診断基準は?
肺高血圧症は、定期的に開催されるワールドシンポジウムで臨床分類が検討されており、現在は2013年のニース分類が用いられています。
ニース分類において、肺高血圧症は以下の5つに分けられています。
1群 | 肺動脈性肺高血圧症(PAH) |
---|---|
2群 | 左心性心疾患に伴う肺高血圧症 |
3群 | 肺疾患または低酸素血症に伴う肺高血圧症 |
4群 | 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH) |
5群 | 詳細不明な多因子のメカニズムに伴う肺高血圧症 |
肺高血圧症は肺の病気だけでなく、心疾患が原因で生じるなど、原因は多岐にわたります。
肺高血圧症の検査には、心電図や心臓超音波検査、動脈血ガス分析などが行われますが、確定診断には心臓カテーテル検査が必要になります。
カテーテル検査において、安静時の肺動脈圧(PAP)が25mmHg以上の場合、肺高血圧症と診断されます。
●検査結果だけではわからない、その理由とは
前述したとおり、肺高血圧症の確定診断には心臓カテーテル検査が必要になりますが、軽症の場合、安静時のPAPが25mmHg以下になるケースもあります。
また、動脈中の酸素濃度も正常であったり、ほかの検査でも肺高血圧症を見つけるのが困難なことも多いです。
「運動時には症状があるけど安静時にはない」という病態が、肺高血圧症の早期発見を難しくしている理由です。
そのため、運動時における息切れや低酸素血症、運動時の肺高血圧を確認することが重要になります。
Jamesらによると、安静時の肺動脈圧は正常値であっても、運動時に25mmHgを超える、いわゆる運動誘発性肺動脈性肺高血圧症(EIPAH)が存在すると報告されています。
また、EIPAH群は肺動脈圧が正常な群にくらべて酸素摂取量が有意に低い、肺血管抵抗が高いなどの特徴があると報告されています。
しかし、運動時にカテーテル検査を行うのは事故のリスクが高く、国内でルーチンの検査として行うことは難しいでしょう。
つまり、肺高血圧症の境界型ともいえるEIPAHは、安静時の検査で診断することが難しいため、ほかの侵襲的ではない検査で肺高血圧症の存在を確かめる必要があります。
●運動時の肺高血圧を調べるには、心肺運動負荷試験が有効
Jamesらの研究報告にあるように、EIPAHは運動時の肺動脈圧上昇、酸素摂取量低下が特徴的であり、その存在を確かめるには心肺運動負荷試験(CPX)が有用です。
CPXとは、シリコン製のマスクを装着して自転車をこぐ(または歩く)動作を行い、呼気ガス分析装置で吸った酸素や二酸化炭素を評価する試験です。
この検査では体力の指標である酸素摂取量や、肺での酸素受け渡し機能を評価することができ、安静時ではわからない呼吸苦の原因を探ることができます。
ただし、この試験は心臓リハビリを行っている医療機関で実施することが多いため、かかりつけの医院で実施するのは難しいでしょう。
無理のない範囲での活動と、定期的な受診が大切
各検査の結果から肺高血圧症が疑われる場合、日常生活において注意しておくべきポイントがあります。
●治療ができない場合、日常生活で注意するポイント
肺高血圧症の治療としては、肺血管を拡張するお薬や、カテーテルで肺動脈を広げる治療などがあります。
しかし、治療を行うには診断名がついている必要があるため、安静時の検査では診断基準を満たさないEIPAHの場合、保険適用での治療ができません。
そのため、労作時の呼吸苦が悪化しないように心がけることが大切です。
以下に呼吸苦を増悪させないための具体例を挙げてみます。
◯禁煙
喫煙によって肺の障害が進行すると、肺高血圧が進行します(ニース分類3群)。
◯水分や塩分の過剰摂取を避ける
水分や塩分の過剰摂取は心臓の負担を増加させる可能性があります。
特に、不整脈や心筋梗塞をされた方の場合、心臓のポンプ機能が弱っているため、心不全を起こしやすいです。
心不全を起こすと肺に血液が渋滞してくるため、肺高血圧症の悪化につながります(ニース分類2群)。
◯激しい運動は避ける
息が絶え絶えになるような激しい運動を行うと、体内の酸素濃度が低下する可能性があります。
低酸素状態が長く続くと肺血管が攣縮し、肺高血圧症の悪化につながります(ニース分類3群)。
そのため、こまめに休憩をとる、息があがる動作を避けるなどの工夫をすることが大切です。
●病気が進行していないか定期的な受診をする
前述したように、生活のなかで悪化しない工夫をすること、普段よりも症状が強い場合は早めの受診を心がけることなど、自分でも予防に努めることが大切です。
ただ、労作時の呼吸苦がそこまで強くない場合、または日常生活に支障をきたさない場合などは、予防に対する意識も薄くなってしまうでしょう。
境界型の肺高血圧といえども、そのまま放置すると病状が悪化する可能性があるため、定期的に医療機関を受診することが大切です。
呼吸苦の程度によっては、定期的にエコーやカテーテル検査を行い、早期診断や早期治療につなげることもできます。
息切れを感じたら、まずはお医者さんに相談を
息切れを感じる病気のなかでも、肺高血圧症は特異的な症状がなく、特に境界型である運動誘発性の肺高血圧症は早期発見が難しいです。
しかし、喫煙や食習慣の乱れなど、肺高血圧症を悪化させる原因を放置することによって、知らずしらずのうちに悪化する可能性があります。
たかが息切れと軽視するのではなく、「最近動いたときに息苦しいな」と感じたら、早めにかかりつけ医に相談することが大切です。
参考:
日本循環器学会 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版).(2021年7月20日引用)
James J Tolle, Aaron B Waxman et al.: Exercise-induced pulmonary arterial hypertension. Circulation118: 2183-2189, 2008.
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執筆者
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皆さん、こんにちは。理学療法士の奥村と申します。
急性期病院での経験(心臓リハビリテーション ICU専従セラピスト リハビリ・介護スタッフを対象とした研修会の主催等)を生かし、医療と介護の両方の視点から、わかりやすい記事をお届けできるように心がけています。
高齢者問題について、一人ひとりが当事者意識を持って考えられる世の中になればいいなと思っています。
保有資格:認定理学療法士(循環) 心臓リハビリテーション指導士 3学会合同呼吸療法認定士