下肢骨折の代表例!大腿骨近位部骨折のリハビリと自宅に帰るためのポイント
高齢化が進むなか、大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)をする方が増えてきています。
大腿骨近位部骨折は高齢者に多い骨折の一つになりますが、自宅に帰れる方もいれば帰れない方もいます。
無事に退院するためにはどうしたらいいのか?
骨折後のリハビリや自宅に帰るためのポイントを解説していきます。
大腿骨近位部骨折ってどんな骨折なの?
大腿骨近位部骨折がどのような骨折なのか、ご存じでしょうか?
まずは骨折の基本的なことから押さえていきましょう。
●近位部骨折にはけい部骨折と転子部骨折がある!
1)大腿骨けい部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)
大腿骨けい部骨折は股関節内で起きる骨折で、骨粗しょう症がある高齢者にとても多い骨折です。
骨折のなかでも特に骨が付きにくく、合併症として大腿骨頭(だいたいこっとう)という股関節を形成する部分が壊死する可能性があります(大腿骨頭壊死)。
2)大腿骨転子部骨折(だいたいこつてんしぶこっせつ)
転子部骨折は股関節の外で起きる骨折ですが、大腿骨と骨盤のつなぎ目が折れてしまうけい部骨折にくらべると、血行が良いため骨も付きやすいです。
しかし、けい部骨折よりも強い外力が加わって折れることや、受傷年齢が高い傾向があり治療が難しい骨折ともいわれています。
●基本は手術療法!!
大腿骨近位部骨折で、手術療法以外の「保存療法」が選択されることはほとんどありません。
大腿骨近位部、特にけい部骨折は人体の骨のなかで一番つきにくい部位といわれています。
そのため、手術をせずに保存療法を選択すると骨がつかない可能性があるのです。
また保存療法を選択すると、一定期間股関節を動かすことができなくなってしまいます。
そうすると関節が固まって動かしにくくなる拘縮(こうしゅく)や、長時間動かないことで筋力低下が進んでしまい、在宅復帰が困難になってしまいます。
それを避けるために、一般的には骨接合術(プレートやスクリューを使用して折れた骨を固定する手術)か、人工骨頭置換術(折れた骨を取り除き人工のインプラントを挿入する)が行われます。
●骨折を甘く見ると寝たきりに!!
大腿骨近位部骨折を受傷する方は、その多くが高齢者といわれています。
高齢者は骨折だけでなく、内科的な合併症や認知症などを患っている可能性も高くなります。
また、どんどん動きたいと思う方ばかりではなく、「ゆっくりしたい」「痛いことはしたくない」などリハビリに対しての意欲が低い方も少なくありません。
こうしたリハビリ意欲の低下や、認知症などの合併症により、リハビリが思うように進まないことが多くなると、在宅への復帰はかなわずに寝たきりや施設入所となる可能性もでてきてしまいます。
特に術後は、麻酔などの影響で精神的に不安定になることが多く、家族の方のサポートが非常に重要です。
早期離床が肝心!骨折後のリハビリ
近位部骨折後のリハビリは早期離床(りしょう)が最初の目的となります。
筆者が勤務している病院では、大腿骨近位部骨折後のリハビリは術後翌日から行っていますが、ほかの施設でもできるだけ早期に開始することが多いです。
●寝たきりにしないために!まずは起きることが肝心
高齢の方は寝ているだけで、どんどん筋力が低下していきます。
さらにずっと寝ていると認知症などの合併症が進行しやすく、意欲も低下してしまうためリハビリが進みにくくなってしまいます。
まずは少しでも早く起きて座るということが重要です。
座るということで食事やトイレなど普段通りの生活に近づけていくことができ、合併症の進行も予防することができるのです。
●歩行能力の獲得を!
一般的に近位部骨折後の歩行能力は、自立した歩行からつえ歩行、つえ歩行から歩行車というように、1段階レベルを下げて目標設定をすることが多くなりますが、なかには骨折するまえと変わらずに歩くことができたり、つえ歩行を獲得できた方もいます。
菊池さん(仮名、80代、女性)は、もともと一人で歩くことができ、毎日畑に行くほど活発な方でしたが、不意に転倒し大腿骨転子部骨折になってしまいました。
しかし菊池さんは、もう一度畑に行きたいという強い気持ちを持ってリハビリに臨んでいました。
リハビリ時間外でも、病棟廊下で一人歩行練習を行っていた成果もあり(もちろん許可された範囲で)、畑にどんどん行くとまではなりませんでしたが、自分の足だけで移動もできるようになり日常生活に困ることなく退院することができました。
菊池さんのケースのように、最後は本人がどれだけ頑張れるかが歩行の獲得に大きく影響してきます。
●自分の家に帰りたい!ADL(日常生活動作)の自立を目指そう
ADLとは食事、入浴、排せつ、整容、更衣など身の回りの動作やセルフケアのことを指します。
どうにか歩けるようになっても、ADLが自立していないと自宅では誰かに介護してもらう必要があるといえます。
入浴時の浴槽の「またぎ動作」や「しゃがみ込み」、「着替え」やトイレの際の「ズボンの着脱」などができるようになれば、日常生活で介護をしてもらう頻度は少なくなり、骨折まえと同じような日常生活を送れるようになります。
家で生活するためのポイント!介護保険をうまく利用しよう
自分一人で動けるようになれば問題ないですが、なかにはそうならない方もいらっしゃいます。
そんなときは介護保険を利用すると生活がしやすくなります。
●福祉用具の販売、レンタル
介護保険を利用すると福祉用具の販売やレンタルが行えます。
- 1)歩行器、歩行車
- 2)ポータブルトイレ
- 3)シャワーチェア、浴槽内の椅子
- 4)介護ベッド
- 5)車椅子
- 6)スロープ
以上に挙げたものが、骨折後にADLが自立できていない方が利用したほうがいいと考えられる福祉用具になります。
●手すりも介護保険で!住宅改修
介護保険を利用すると手すりを設置する際に補助金がもらえます。
浴槽やトイレ、玄関など必要な部分に利用しましょう。
福祉用具や住宅改修など介護保険のことを詳しく紹介している記事(福祉用具のレンタルや購入で介護保険が利用できる!対象となる商品はどんなものか徹底解説)がありますので、そちらも参考にしてみてください。
●トイレ、入浴時の介護者の負担軽減を
自宅で暮らすためにはトイレ、入浴をどの程度行えるかが重要となってきます。
この2つが自立できるかどうかは、介護者の負担にも大きく影響を及ぼすためです。
1)トイレ
トイレは1日の使用頻度も高く、さらに高齢になると夜間のトイレも増えてきます。
毎回介助が必要になると、自宅で介護をしている方の負担が大きくなってしまいます。
夜間はポータブルトイレなどを利用するなど、一人でできるような工夫が本人の尊厳を守り、介護者の負担を減らすことにつながります。
2)入浴
入浴は回数は少ないですが、1回にかかる介護者の負担は大きいといえるでしょう。
浴槽をまたぐ動作はかなり大変な動作になるので浴槽と同じ高さのシャワーチェアを置いてまたがなくてもいい環境をつくりましょう。
デイサービスや訪問看護などのサービスを利用して入浴することも可能ですので、そうしたサービスの利用も考えてみましょう。
まとめ
大腿骨近位部骨折は高齢者に多く、その後に要介護状態になることも珍しくありません。
それでもみなさんは自宅に帰ることを望まれます。
介護保険サービスを利用することで介護者の負担も減り、自立して生活できる環境を整えることができます。
骨折したからといってあきらめずに手術、リハビリを乗り越え、介護保険を利用しながら1人でも多くの方が在宅に復帰できることを願っています。